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ある日 森の中 男娼に 出会った  作者: 自動賽鍵
第1章 辺境伯領編
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20. 森神の正体

 突如聞こえた雷鳴に、反射で空を見上げる。すると、もとより曇天だったが雨が降るような様子ではなかった空が、変化が見てわかるほどにどんどんと黒く染まっていく。

 何か攻撃を受けているのではないか、そう考えて身構えたが、周囲の反応は異なるものだった。


「来た……」

「森神だ……」


 野次馬たちは空を見上げながら、畏れるように、噛みしめるように呟く。


 程なくして現れた森神の姿は、少なくとも見た目は神と呼ばれるのにも納得できるものだった。

 ワニのように長く凶悪な牙が生えそろった口、見た者を呪うような深紅の瞳、稲妻のように刺々しい角。10両編成の電車にも引けを取らないサイズの体は凄まじく硬そうな鱗に覆われていて、そんな巨体をくねらせながら雷雲を裂いて降りてきた。


「ふむ、贄は用意されているようだな」


 その一言に、かつてない重圧を感じた。ウキアと出会う前の記憶は無いから、精々5日程度のことではあるが、過去の何とも比較にならない。


 だが、恐れることも無い。ウキアが共に闘ってくれると言ったから、今の俺は無敵だ。

 鎧の下に隠していた剣の柄に手をかけ、刃に魔力を通す。森神は櫓に向かってゆっくり高度を下げており、俺の不意打ちを悟っているようには思えない。今なら当たる。

 制御できる限界まで魔力を込め、いざ振り抜かんとした瞬間、身体が急激に重くなった。


「やらせないと言ったはずだ。小を切り捨ててでも街を護ると辺境伯様は仰られた」

「だから……んなもん知らねぇって、言ってんだろ!」


 気合の一声と共に剣を抜く。その余波で騎士団長サマの妨害は掻き消え、俺の周囲に衝撃波が発生した。空間が開けたので風魔法を纏って地を蹴る。櫓の斜め上から生贄に食らいつかんとする森神を射程に捉え、剣を全力で振り上げた。

 極大の刃が森神の首めがけて飛んでいく。だが、わざわざ当たるまで待ってやることはない。背を反らして再び魔力を溜め、全力で振り下ろした。


 最初の一撃が森神の首を切り落とす直前、森神が自身に魔力の衣を作る。だが鱗を斬り裂くには十分で、首を半ばまで断ち、骨で止まる。

 さらに二撃目が迫るが、森神は魔力障壁で防御した。魔法を阻害する障壁のようで、風の勢いは無くなってしまった。

 しかし、防がれたのは風だけで、俺の全力の斬撃はまだ残っている。風の補助がなくなって先程よりもさらに浅いが、今度は森神の顔に直撃し、右目を斬った。


(あれで仕留められないか)


 着地し、邪魔な鎧を無理やり引き剥がしながら考える。初めて放った全身全霊の攻撃。それを、傷はあれど防がれてしまったことに、緊張が走る。


(これは、奥の手が必要か?)


 森神の様子を確認する。空中でのたうち回りながらも俺を睨んでいる。これなら俺を追いかけてくるだろう。なら、始めよう。


 剣を収めて森神に背を向け、家屋の屋根を飛び移って北に走る。森神は俺の後を追いかけるが、速度は同等。森神の土魔法も予兆が感じ取れるため、問題なく避けられる。とうとう街を取り囲む防壁に足をかけ、街の外へ大きく跳び出した。




   ◇◆◇◆◇◆◇◆




 10分ほど逃げ回っただろうか。魔法を避けながらの逃走だったこともあり、全速力と比較するとやや遅かったものの、10km近くは移動した。

 ここは、街の北にある断崖の下。岩肌の露出する壁がそそり立っている。登った感想では2kmを超える高さだ。きっと頂上から水が落ちてきても、落下途中で霧散してしまうのだろう。


 そして、この位置に辿り着いてしまえば、もう逃げる理由は無い。剣を抜いて、全身から煙を噴き出している森神に向きなおる。

 街を出た辺りから僅かに煙を出していたが、今ほどの勢いではなかった。今となっては、風船の中の空気が抜けるようにものすごい勢いで煙を噴き出していて、「身体から煙を噴き出す魔法」のような希少魔法でも使っているんじゃないかと思うほどだ。


 煙で巨体が完全に隠れる。俺としては視覚が封じられても気配を感じ取れるから問題無いのだが、妙なことが起きた。

 森神が縮んでいく。細かくは分からないが、少なくとも図体は短くなっているだろう。得体の知れない様相に怯むようなことはないが、何をしているかはっきり分からない以上、迂闊なことは避けたい。

 手は出せないと判断し、腰に提げていた魔力回復薬を1本飲む。まだ対して消耗していないから少し勿体無い気持ちもあるが、いつ飲めるか分からないのだから機械は逃さない方が良いだろう。


 中身を飲み干した瓶を投げ捨て、口を拭ったところで、森神からの煙の噴出が止まる。やがて風で煙が晴れて現れた全容は、今までの姿とはかけ離れていた。

 牛だ。ただし馬鹿みたいにデカい。体長は大型バス程度まで縮んだが、身体は龍の姿の時よりも2周りほど太い。とは言え縮んだことに変わりなく、重圧もそれほど感じない。


「愚かな人間よ。神に逆らうことの意味を教えてやる」


 森神が言う。龍の姿をしていた時のような重々しい雰囲気ではなく、印象としてはただのチンピラだ。折角なら挑発してやろうと返答してやる。


「首も目も斬られて、よくそんなことが言えたもんだな。随分小さくなっちまってよ」

「ふん、こんなものすぐに治せる。急ぐ理由も無いからやってこなかっただけよ」


 森神の傷が見る見るうちに塞がっていく。ただ、随分大仰に見せてはいるが、あれはただの回復魔法だ。恐れる必要は無い。


「なぁ神サマ、なんで生贄を求めるんだ?」

「ふん、知れたことよ。神が居てやるのだ。対価を差し出すのは当然だろう」


 森神の返答に、俺はせせら笑いで返す。


()()神サマが人間に頼み事か?笑わせんなよおい」


 森神の表情が怒りに歪む。牛の表情を読み取れるのは何とも面白いが、これはやはり会話ができるからこそだろう。


「『お母ちゃん、ご飯食べたい~』ってか。親に飯をねだるガキと一緒だな」


 森神が口を挟む暇を与えず、一気に捲し立てる。

 俺はきっと神様の力でウキアと出会った。この世界で誰よりも神様を信じているだろう。だからこそ言える。


「そもそも神ってのはな、例えば人間1人異世界から連れてくるみたいな、世界の誰にもできないことができるんだよ」


「少なくともテメェみたいな、育ちすぎただけの家畜に使う言葉じゃねぇってのは確かだな」

描写はどこまでするべきなんでしょうか

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