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ある日 森の中 男娼に 出会った  作者: 自動賽鍵
プロローグ 2人の出会い
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2. 掃討

 パチパチと爆ぜる焚き火で濡れた服を乾かしながら、パンツ一丁の俺は少年と向かい合っていた。


「そういえば、生水をガブガブ飲んでたけど大丈夫?」


 会話の切り出しとして正解かどうかは分からなかったが、ひとまず心配だったことを聞いてみた。


「はい。強化と回復の適性があるので、虫にやられても自力で対処できます」

「……適性?俺にもあったりする?」


 当然の疑問について言ったつもりだったが、俺の言葉に少年は、信じられないとでも言うような顔で答える。


「僕の傷を癒やしてくださった方が……いえ、説明させていただきます」


「適正とは、その名の通り使用できる可能性のある魔法種別の事を言います。適性があってもまともに使えるとは限らないのですが、少なくとも種火やつむじ風のように小さな魔法であれば使うことが出来ます。ご主人様であれば僕の傷を癒やした回復と、走る際に僕に当たる風を逸らした風、凄まじい身体能力から強化の適性はあるかと」


「ほへ~……」


 全く意識していなかったが、どうやら魔法を使っていたらしい。確かに少年の身体にあった傷は無くなっているし、走っている途中に少年の長髪が俺の顔面を襲うこともなかった。


「じゃあ俺は風と回復と強化の適性があることは分かっていて、それ以外の適正についてはどうなってるんだろ」

「それは魔力結晶が無いと分かりません」

「そっか」


 魔力結晶がどんなものか分からないが、俺は今のところ剣だけでモンスターを倒せる。そう急ぐこともない筈だ。それよりツッコミどころのある発言が出てしまった以上は放置するわけにもいかない。


「ところでさ、自己紹介すらしてないのに”ご主人様”って?」


 再びの質問に、少年はハッとした表情を見せる。


「申し訳ありませんでした。衣装でお分かりかと思いますが、私は身体を売って日銭を稼いでいた者です。借金取りに追われて逃げていたところをご主人様に助けていただきました。どうぞ男娼(ドゥーウキア)とお呼び下さい」


 ドゥーウキアが明らかに偽名であることは分かる。しかし、わざわざ本名を聞き出す意味も無いだろう。仮に総理大臣と同じ名字だったとしてもこの国の政権なんて知らない俺に気付けるわけがない。そもそも議院内閣制の国家であるのかどうかも知らないが。


「あぁ、あれ山賊じゃなくて借金取りだったんだ。それじゃ、ウキアって呼ばせてもらうね。……ウキア?」


 心ここに在らずと言うか、先程まで俺と目が合っていたのに、俺の後ろを見ているような────


 原因に気付いた俺は、剣を持って振り返った。視界には数十ではきかない数のモンスターがこちらへ走ってきている。思わぬ光景に俺は歯噛みしていた。


(なんでだ……。山の上で戦っていた時ならもっと早く察知できていたのに。気を抜きすぎたか?)


 とは言え悔しがっていても仕方ない。加えて言うなら、あれくらい問題なく倒せるだろうなんて思っている。


(相手の戦闘力を感じ取る力なんて無い筈なんだけど)


 バトル漫画の主人公のような、強者を見て「こいつ、強い……!」なんて呟く能力が自分にあるとは思えない。それでも、今感じているこれは、直感よりも確信と言うべきものだ。


「大丈夫。全部俺が倒してくるからさ」


 ウキアに告げると同時に暫定キャンプ地を飛び出す。勢いのまま先頭を駆けるサイのようなモンスターに風を纏った剣を突き出した。

 剣が肉を貫く感覚すら無く、サイの角から脳天、首元までを、まるでボーリング調査でもしたように消し飛ばす。

 しかし突進の勢いは止まらない。剣を引っ掛けた死骸が背後に走り去っていこうとするのを、踵を地面に食い込ませて踏ん張る。そして、力任せに右手を振り抜き、その巨体を投げ飛ばした。

 正面にいたモンスターたちは軒並み巨体に巻き込まれて吹き飛んでいく。その横をすり抜けてきたモンスターもいるが、それらを各一振りで切り裂き、モンスターの洪水を反対に押し込んで進んだ。


 先程も見たゲル状のモンスターや人面の岩、矢鱈に綺麗なフォームで走る樹木や、虫のように6足で走る竜をずっぱずっぱと斬り捨てて、残ったのはあと一体。

 何故一体だけ残ったかと言えば、単に集団から遅れて辿り着いたからに過ぎない。上段から縦に一閃、巨大な眼球に翼の生えたモンスターは逆ハの字に崩れ落ちた。


(身体は動いた。でも意識の切り替わりが起きなかった)


 あのカチリという音も聞こえなかった。あれは初回限定特典とか、そういう類のものだったのだろうか。動くには動くが、身体の動きが鈍くなってるから意識の切り替わりはそのままが良かった。


「ま、一件落着って事でいいのかね」


 ひとつ伸びをして、駆け寄ってきたウキアを抱きとめる。返り血で全身ベトベトだが、俺からハグしたわけじゃないから許してほしい。

 そして、血で汚れてしまった金髪に指を通しながら優しく伝える。


「夕飯にしようか。こいつら食えるか知らないけどさ」


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