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ある日 森の中 男娼に 出会った  作者: 自動賽鍵
第1章 辺境伯領編
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10. 美食と過去

 ウキアの願いを聞いて、俺が否を言えるはずもない。俺と一緒にいるよりも、ここにいた方が安全ではないかという気持ちは未だあるが、ウキアがそうしたいならそれでいい。


「終わったのなら席に着いてくれ。せっかくの良い肉なのだから、温かい内に食べるべきだ」


 言われた通りに席に着き、ステーキにフォークを突き立てる。

 考えていたよりもずっと柔らかい感触に驚きながら、ナイフで大きく肉を切り分けようと一押しする。すると、カツンという軽い音がして、肉が完全に分断されていた。

 筋繊維を断つ感触はあった。ただ、あまりにも軽い感触で、中心が空洞になっているのではないかと思ったがそうでもない。単にものすごく柔らかい肉なのだろう。

 大口を開けて頬張ると、舌だけでなく口内全体が強烈なうまみを感じ取った。昨日食べた魔獣の尾に近いが、あれよりも柔らかくて美味い。良い肉と言うだけはある。


「美味いだろう。エーゴリザードを特殊な方法で熟成させた肉だ。この辺りにしかいない魔獣で足も早いから、王族でもそうそう食べられるものではない」


 自慢げに言う辺境伯サマだが、自慢したくなるのにも頷ける美味さだ。ウキアも夢中になって食べている。


「数切れで足りるんですか?それっぽっちじゃ体型を維持できないと思いますが」


 ウキアと同様に、食べる手は止めずに聞いてみる。

 俺は反対に、補給したものがどこにいったのか分からない細さをしているから、お前はどうなんだと聞かれると弱いのだが。


「へりくだる必要が無くなったからとは言え、随分失礼なことだな。……まぁ、質問の答えは『足りる』。そもそも私のこの贅肉は、魔力を貯めこんだ結果であって、食べて肥えた結果のものではない」

「魔力を貯めこんで太る?」

「そういう家系でな。少なくとも曾祖父の代からはそういう身体だった。魔力を消費すれば勝手に痩せる」

「ほへー」

「珍しそうにしているが、寝ると魅了が解ける体も大概珍しいぞ」

「そんなもんですかねぇ」


 む、肉が無い。気づけば完食してしまった。


 手が止まった俺とウキアの姿を見て、控えていたメイドさんが一歩前に出てくる。


「旅の疲れを癒すために一晩過ごしていくと良い。明日は祭りもあることだしな」


 辺境伯サマがそう言うと、メイドさんは「こちらへ」とだけ言って背を向いてしまう。

 このまま別れてしまうという所で、ウキアが口をはさんだ。


「辺境伯様、このような情勢で祭りをするのですか?」


 非難するというよりは、純粋な疑問として聞いている。それが分かった事になんとなく嬉しくなっていると、辺境伯サマは渋い顔をして言った。


「せめて盛り上げてやることしか出来んからな。……忌々しいことだ」


 俺たちはその真意を知らないまま、割り当てられた部屋まで歩いた。




   ◇◆◇◆◇◆◇◆




 さて、高価そうな絨毯と天蓋付きの巨大なベッドがある部屋に連れ込まれた。

 俺たちを案内したメイドさんは外で待機しているらしいが、特別用事は無いから待ちぼうけになってしまうだろう。

 とは言えメイドさんはそれが仕事なのだろうし、ウキアも何も言っていないからこれで良いはずだ。

 ベッドに腰掛け、ウキアを膝の上で抱きながら呟く。


「暇になっちゃったね」

「そうですね。……暇つぶしになるか分かりませんが、僕の話を聞いていただけませんか?」


 それからウキアは、自身のことについて語り始めた。


 ウキアには、もう1種の希少魔法適正があるらしい。至近距離で見つめ合った者にウキア自身を刻み込み、本人も気づかぬ内に操り人形としてしまう魔法。

 少なくともウキアは自分以外にその魔法を使えるものを知らなかったため、強力すぎる効果よりも少し柔らかい表現として『魅了』と名付けた。


「先程言った通り、それを昨日と一昨日、僕はご主人様に掛けました」

「うん、そう言ってたね」

「夜の内は効果がありました。ご主人様も薄々感じていたのではないでしょうか」


 確かに、夜は意識がぼやけていたような気がしていた。あれはまさに、ウキアに魅了されていたという事だったのか。


 そしてもう一つ、ウキアは俺に隠し事をしていたらしい。それは、ウキアを襲撃してきた一団が、借金取りではなく暗殺者だったこと。

 何故追われていたのかというと、ウキアが王子様からの伝言を預かっていたからなのだとか。それを辺境伯サマに伝えることが任務で、妨害しようとしていたのがクーデターを起こした側らしい。


「ウキアって、結構偉い人だったりする?」

「……偉くはありませんが、かつての国王様に抱いていただいたこともあります」


 予想以上に大物だった。

 しかし、そんな立場にあるのに俺と一緒に来て良いのだろうか。もちろん俺としては嬉しい限りだが、何か役目があったりしないだろうか。


「いえ、辺境伯様への伝言だけで役目は終わりました」

「そうなの?俺は任務に付き合ったって良いけど」

「もう王族は全員殺されてますから」


 ウキアが俺の肩を押すのに任せ、ベッドに倒れ込む。


「そして、僕はご主人様の力で任務を達成し、ご主人様も人里に来るという目的を済ませました。これ以降、僕は魅了魔法の効かないご主人様を、魔法を使わずに魅了させ続けなければならないのです」


 ウキアが俺の唇に自身のそれを重ねてくる。そこから流れるように俺の服を脱がそうとしたところで、その手首を掴んで止めた。


()()()は夜に。折角だし、ちょっと落ち着いた街を見に行こうよ。ウキアも任務が終わって余裕出て来たでしょ?」


 俺の言葉に、ウキアはまた流れるような動きで俺の上から退き、そっと背中に手を添えて上体を起こしてくれた。

 

「はい、行きましょう。ご主人様」

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