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ある日 森の中 男娼に 出会った  作者: 自動賽鍵
第1章 辺境伯領編
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8. 語らい

 騎士団長サマの背中を追っていると、やがて部屋に入れられた。耳を澄ませてみると、ドアの向こうで立ち止まっている人物が2人いることが分かる。俺の話すことを記録でもしているんだろうか。


 しばらく無言で向かい合って茶をしばいていたが、聞きたいことがあったのを思い出す。


「男娼っていうのは職としてどのくらいの立場なんだ?」

「……地方都市なら最下級だな。ただ、かつての王都で貴族を相手にするような店であれば、かなりの立場があると言える」

「となると、ここじゃウキアは辛いかもなぁ」


 本人も覚悟の上だろうが、特に上流階級が集まるのであろうこの屋敷では、常に見下され続けるのだろう。

 ただ、こればかりは俺が力でどうにかできるものじゃない。


「私からも質問だ。貴様これまでどこにいた。貴様のような強者であれば必ず戦いで名を残しているはず。だが、私は貴様の名を知らんどころか、似た存在を耳にしたことすらない」


 ふむ、答えづらい質問だ。というか、答えられない質問と言った方が良い。何せ自分でも分からないのだから。


「分からない。気づけばそこに立っていて、ウキアを狙う借金取りに襲撃された」

「そうか、なら別の質問だ。貴様の目的はなんだ。あの男娼を助けて貴様に何の利がある」

「……さっきも言ったが、俺は何も分からなかった。そんな中でウキアと出会い、助けを求められた。それから、ウキアは俺の生きる指針になった」

「単に初めて出会い、語らったからだと?仮に私がその場にいたら、私を指針にしていたのか?」

「そうなっていたかもな」


 そのタイミングで扉が叩かれた。「入れ」という言葉に呼応して、使用人の女性が皿を持って入ってくる。

 その女性が皿を置き、一礼して出ていこうとしたのを呼び止める。


「扉の向こうにいる2人に、入ってもいいよって言ってくれる?」


 それだけ伝え、皿に盛られた焼き菓子を口に放り込む。女性は一瞬ギョッとした表情を見せたが、すぐに取り繕ってもう一度礼をし、部屋を後にした。

 甘いのだと思っていた焼き菓子だったが、塩気のあるタイプだった。辛みはそれほど無いが、色々なスパイスが使われていて、魔獣の丸焼きからはとても得られない味覚に若干の感動を覚える。


「あ、そうだ。もう一つ聞きたい事、騎士なら鎧とか付けるモンじゃないの?」


 軽食も出てきて、しばらく時間もあることだろう。という事で、どうでもよいが、微妙に気になっていたことを聞いてみた。

 鎧を着ていないだけなら、普段から物々しい雰囲気を出さないためとか、いくつか理由は思い浮かぶが、剣を佩く必要があるから、それすらないワンピース姿はさすがに変だろう。


「しばらく出兵で忙しくなるから休暇を取って部屋で休んでいたのだ。そんな時に結界でも感知できない侵入者が来て、着替える間もなく剣だけ持って辺境伯様の護衛に入った」


 つまり、中々無い休暇を潰してしまったと。


「ごめん」

「謝る気があるのなら、少し付き合え」


 騎士団長サマは剣を掴み、勢い良く立ち上がった。




   ◇◆◇◆◇◆◇◆




 せっかくの休みでも剣を振るのか。

 相変わらずのワンピース姿で木剣を振る騎士団長サマを見ながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。


「貴様は剣を馴染ませなくて良いのか?」


 いらない、とだけ答える。

 使い慣れない道具で良いパフォーマンスは見込めないというのは分かるが、そもそも自分の剣すら一昨日からの付き合いだ。今初めて持った木剣と大した差はない。


「それでは始めるか。良いのが一発入ったら終わりだ」


 合図を。と言われた見学の騎士は、右腕を高々と上げた。

 空気が一気に引き締まる。


「はじめっ!!!」


 騎士団長サマが低く攻める。そのままの体勢で、俺の足元を薙ぐように剣を振った。

 それを跳んで躱し、顔面に蹴りを飛ばす。しかし、片腕で受け止められた。

 腕を足場に飛び退りながら剣を軽く振る。追撃しようとした騎士団長サマをそれで牽制し、再びお互いが間合いの外で向かい合う形となった。


「本気で来い」


 俺に言葉がかけられる。別に俺は、手を抜いているつもりは無いのだが。


「殺す気で来いと言っている。私が死ぬよりも先に木剣が折れるから遠慮はいらん」


 ……あぁ、そういう事か。

 確かに疑問ではあった。動きを止められることへの警戒があったとは言え、俺の動きは確かに鈍かった。それはきっと、ウキアを怖がらせないため、あるいはウキアの知り合いを殺さないために、無意識下で過剰な手加減をしていたのだろう。

 だが、言われた通り、この木剣でならそうそう殺すことは無い。恐らく殺す気で殴れば死んでしまうだろうが、殺す気で闘うのと、殺しても構わないと思って闘うのでは、まるで違う。重傷は負うかもしれないが、その程度だ。俺が魔法で治すことだってできる。

 意識を切り替える。「殺してはならない」から「殺しても構わない」へ。より鋭く、より強い自分に。


 圧縮した空気塊を打ち出す。当てるのではなく、相手の手前で炸裂させて視界を奪う。その隙に剣を投擲、自分も風魔法で加速して相手に迫る。


 見えない中でも弾かれた剣が宙を舞う中、低い蹴りで足首を壊す。堪らず倒れこんだ上体に踵で蹴り上げるように追撃をするが、それは剣で防がれた。


 蹴りを防いだ衝撃で跳ね上げられた剣が、強引に振り下ろされる。風魔法で地面をわずかに浮きながら滑り、飛ばされた自分の剣を手に取る。滑る勢いのまま、大きく弧を描きながら横薙ぎに剣を振るうと、その一撃は防がれたものの、片足が壊れていては踏ん張りが効かずに吹き飛ばすことができた。


 地面を3度弾んだ相手を、畳みかけるように踏み付ける。辛うじて挟みこんだ腕を折り、筋肉ごと腸を潰し、その先の地面に亀裂が走るほどの衝撃に、騎士団長サマは鼻と口から吐瀉物を噴き出した。



 俺が騎士団長サマの上から降り、始めの合図を出した騎士を見る。顔を青くした騎士は数秒固まっていたが、横にいる騎士が脇腹を肘で小突くと、慌てて終了を宣言した。


「勝負あり!」


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