2人のハマる影
その日は、先生が前々から言っていた転校生が来る日だった。僕にとってはあまり興味が無いというか他人事に過ぎなかったからすっかり忘れていた。「今日は転校生が来るから、みんな仲良くしてやってくれよー」先生は軽くそう言うと教室のドアに合図した。ゆっくりと入ってきた転校生は気だるそうな顔をしていた。ツヤツヤのロングヘアに制服を第1ボタンまでしっかりと締め切っていて真面目そうな風貌だが、僕たちにまるで希望も面白みもないような連中を見るかのような目で低い声で挨拶をした。「...よろしくお願いします。」予想外の態度に先生も少し困惑して「あの...名前くらい言わないと皆も誰か分かんないから...頼む」と促した。するとそいつはさらに面倒くさそうに顔を歪めて「....古瀬みおです。よろしくお願いします。」とさらに声を低くした。当然クラスメイトの反応も良くない。休み時間になれば「あの子態度悪くない?」「なんかすげえ俺達のこと睨んできてうぜえよな」と陰口が溢れるように聞こえてきた。古瀬にも聞こえただろうけど、彼女は顔色一つ変えずに僕たちを睨み続けた。「....先生。私の席はどこですか」「あ、そこの窓際の1番前の席だ。おい渡辺、古瀬に色々教えてやれよ」「あ...はい」え...僕の隣?結構面倒なことになりそうだ。まだ元気な子なら話しやすかったかもしれないけどめちゃくちゃ話しかけづらい。めっちゃ睨んでますもん、今にも殺されそう。とは思ったものの、意外と席に座る時に「....よろしく」とよそ見しつつも言ってくれた。なんか無愛想の具現化みたいな人だけど、何か理由がありそうな気がした。古瀬はそのまま窓の外を眺めながら授業中も休み時間も1歩も動かなかった。ちょくちょく様子が気になってチラ見したけれど、バレてないと断定できるレベルだ。彼女は何故あんなにも無愛想なのだろうか。少し気になってしまった。みんなが食事してる中でも古瀬は何も食べずに空を見続けていて、放課後も僕の自習が終わっても動こうとしていなかった。本当になにかあったのだろうか。僕は思いきって話しかけた。「あの...古瀬さん。」「...なんか用?」ようやっと窓から僕の方に目を向けた。その目は相変わらず嫌いな奴に向けるような目だった。「お弁当...無いの?ずっと外見てるからどうしたのかなって...」一瞬驚いたような顔をして俯いて「何するのも面倒だから、何もしてないだけ。」と冷たく答えた。それからまたこちらを睨み、「それと、こっちジロジロ見ないで、気になるから。」バレてた...!?...まあそりゃそうか。知らない奴にジロジロ見られたら嫌だよな...。「あ...ごめん。それじゃ、また。」僕はもうそこにいることに耐えきれなくて慌てて教室を出ていった。彼女に失礼なことをしてしまったから...なのかどうかは分からなかったけれど、もうあまり喋りたくなかった。
家に帰ると自分がやけに疲れていたことに気がついた。いつもなら自習するくらいの体力はあるのに、今日ばっかりは無理だった。まあそれもそうかもしれない。学校の人と喋ったのは3日ぶりくらいだったし。「ちょっと...昼寝しよ...」ベッドに倒れ込むように身を投げてそのまま僕は眠ってしまった。その時の夢が、まだ思い出せない。1人の女性が僕を見て何か話していたことぐらいしか分からなかったけれど、とても嫌な予感がした。今日の夜空も星がただ光るだけで本当の闇を照らせていなかった。




