幼馴染みパーティーを追放されたのでソロでやっていきます
ダンジョンに置き去りにされました。
はい、よくある捨て駒というやつです。
無茶なパーティーリーダーがまだ行けるまだ行けるとダンジョンの奥へ奥へと突っ込んだあげく、強すぎる敵に出くわして…という、本当に初心者がやりがちなパターン。
でも、同郷の幼馴染みで親友だと思っていた仲間達や婚約を誓った女性までが全員裏切るとはさすがに予想外でしたが。二次職はレベルの上がりが悪いからって言っておいたのに、それでもレベルの数字しか見てない連中でしたから、仕方ないのかも知れませんが。
まあ、人間は信じちゃダメって事ですね。
そんなわけで自暴自棄になり、敵の群れに突っ込んで走り抜けたら運良く隠し部屋を見つけまして、そこで強い装備を見つけて体力回復のポーションの湧くマジックアイテムをも手に入れて…といろいろあって。隠し部屋を拠点にヒットアンドアウェイを繰り返して、なんとかレベルを上げることにも成功し。
最終的に、最深部にいたやたらめったら強いボスを、一撃離脱とポーションによる回復を繰り返すことで、激闘の果てに倒しました。迷宮をクリアしたわけです。
ここは辺境のダンジョンで、あまり挑戦者もいませんでしたから、もしかしたらこれが初のクリアだったのかも知れませんね。ボスのドロップアイテムは鎧の一部のようでした。
ダンジョンというのはいろんなタイプがありますが、ここのダンジョンは「通路」タイプの迷宮だったらしく。守護者だったらしいボスを倒すと、その奥には昇り階段と不思議な扉があって、出っ張りをいじると扉が開きました。その扉に入っていくつか出っ張りを押したら、少しの浮遊感の後、地上に出ていました。
あの扉…というかその奥の小部屋はエレベーターという名前の魔道具だったのです。
そういう移動系魔道具があるとは話に聞いていましたが、実物を見たのは初めてです。
地上に出たと言っても、最初にパーティーでくぐったダンジョンの入り口ではありません。
目の前に広がっていたのは古代都市の遺跡、しかもこんな古代都市の情報は冒険者ギルドでも聞いたことがありませんので、おそらく未発見のものだと思います。
それから、遺構の一つをねぐらと定めて都市じゅうをわくわくしながら探索し、住み着いたちょっと大きなネズミを駆除して回り。財宝を集めていきました。
しかし、どうもこの都市は湖の中の島にあるようで、周囲は霧に覆われています。
見たところ自分で扱えそうな船もなく、戻るにはあのダンジョンをもう一度逆走するしかなさそうです。
そしておそるおそる魔道具に乗って地下に戻ったところ。
そこに見えたのは、復活したダンジョンボスの背中でした。
どうやらボスは、こちらには気付いていないようです。
おそらく外部からの侵入者に対して警戒するよう設定されているのでしょう。
ところで先ほども言いましたが、エレベーターの入り口はボスの背後にある、昇り階段の上に開いています。つまり階段の最上段にある踊り場からボスの背中を見下ろす位置です。
都市で見つけたやたらと強そうな宝剣を構え、音を立てないように注意して。
ボスの背中めがけて飛び降りました。
いや、まさか一撃で倒せるとは。
しかもまたドロップアイテムが出ています。前にドロップした鎧の別の部位のようです。
…これは、ものすごく美味しいのではないでしょうか。
それから、踊り場で待機すること2時間。ふたたびボスが湧きました。
またしても同じ方法でボスを狩ります。
どうやらレベルも上がった感じがします。なんて効率が良いのでしょうか。
ダンジョンの隠し部屋にいたときの命をかけた一撃入れては走って逃げるヒットアンドアウェイとは大違いです。
そして、疲れるとエレベーターで古代都市のねぐらに戻り、起きたら2時間おきにボスを狩る生活が始まりました。食料はネズミの肉と都市のところどころに自生しているリンゴの実しかありませんが、ポーションの湧くマジックアイテムがあればなんとでもなります。
ポーションはあまりに美味しく疲れが吹き飛ぶので、水代わりに飲むようになりました。
鎧は数日で一式が揃いました。最後の部位がなかなか出なかったので、揃ったときは嬉しくて叫んでしまったほどです。
ですが、どんなことにも終わりはあるものです。
数ヶ月も経つ頃にはあのボスを百回倒してようやくレベルが上がるという状態になってしまい、目新しいドロップアイテムもなくなり、退屈な作業に飽き飽きしてしまいました。
今の自分を確認してみました。
魔骸の鎧に隠蔽のケープ、跳躍のブーツに飛翔の指輪。次元袋に古代都市の守護宝剣。
伝説級の装備で身を固めた自分がいます。
「そろそろここも潮時だな」
そして、最後に今の自分の力を確認するため、ボスと正面から戦うことにしたのです。
2時間待って、目の前に現れたボス。
最初にあったときとは違い、全く威圧感を感じません。
敵を見つけて走ってくるボスに真正面から全力で宝剣を振るうと。
すさまじい衝撃波が飛んでいき、ただの一撃で、ボスは地に伏しました。
いえ、それどころでは済みません。
ボスの部屋が崩落し、通路が塞がって、いや、崩れていきます。
あわててダンジョンを逆走しました。死ぬかと思いました。
レベルが上がっていなければおそらく脱出は無理だったでしょう。
道中のモンスターは走り抜けるときの体当たりだけで粉砕されました。
そして最初に入ったダンジョンの入り口を抜けてしばらくすると、ダンジョンは完全に崩落したのです。
ここのダンジョンは辺境のものなので管理が甘く、守衛はいません。バレずに幸いでした。
そしてダンジョンの最寄り村へ戻り、冒険者ギルドに顔を出したのですが。
数ヶ月の間ヒゲも剃らず髪も切らなかったせいで、浮浪者だと思われたようです。
隠蔽のケープの効果で魔法の装備も認識されないため、なおさら浮浪者扱いされました。
とりあえず、自分を捨てた幼馴染み達のパーティーについて聞いてみました。
どうやら彼らは数ヶ月前…つまりダンジョンから逃げ帰った後、早々にこの村を立ち去ったそうです。もっと稼ぎのいいダンジョンを探す、と言っていたとか。
さて。今となってはわざわざ彼らを追いかけるのも人生の無駄に思えます。
強くなった自分の力を試したい、そう思いました。
とはいえ、パーティーを組むのはもうまっぴらゴメンです。
幼い頃からよく知っている幼馴染み連中も、婚約者でさえああも簡単に裏切るのですから。
人間は信用ならない生き物だと学びました。
もうこれからはソロでいい。いや、ソロがいい。
所属パーティーを示すドッグタグは自分への戒めとして持っておくことにしました。
そして、集めた財宝のほんの一部で旅の支度を調えて、辺境ダンジョンを後にしたのです。
それから、各地のダンジョンにソロで潜って、ボスをソロで倒す。
それが生きがいになりました。
もう一生遊んで暮らせるほどの財宝があるので、冒険者としてのランクも関係ありません。ギルドへの貢献ポイントを稼ぐ必要もありません。だから集めた素材はギルドの買い取りではなく毛皮商人や鍛冶屋などに直接売却します。この方が買値が高くなりますし、良質の素材を卸すと商品を買うときにサービスが期待できたりしますからね。
冒険者ギルドに立ち寄るのは、周辺の地図を見て、張り出されているクエスト表から周辺のモンスターを知るためだけ。クエストは受けないので受付嬢と会話する必要も無いですし。
いま、自分の人生は充実しています。
いつか老いて体が衰えたら、どこかに家でも買って、猫でも飼って暮らそうと思います。
そのころ。
「彼」を捨てた幼馴染みパーティーは。
「なんか最近俺らのパーティー、どんどんギルドランクが上がってくよな」
「やっぱあのときアイツを捨てて正解だったんだ。辛気くせえ顔してたしな」
「アイツは疫病神だったのよ。死亡届で婚約解消できてよかったわぁ」
「オマエは俺がちゃんと面倒見てやるから、これからも安心して抱かれろよ?」
「ええ、ダーリン♡」
そう。
「彼」が持ったままのドッグタグは冒険者ギルドの発行するマジックアイテム。
冒険者の倒したモンスター情報を蓄積し、冒険者ギルドに立ち寄るたびにその情報を収集。冒険者の行動をある程度トレースできるのです。
なのでダンジョン内で冒険者同士が私闘により殺し合ったりしてもバレます。
このパーティーのような仲間の置き去りには効果が無いのですが…。
ともあれ「彼」がボスモンスターを乱獲したり、次々とダンジョンをクリアしていった結果。このパーティーの討伐功績ポイントは恐ろしい勢いで伸びていました。
当然、パーティーランクも上がり続けます。
それにより「貴族のパーティーでの護衛、基本誰も襲ってこないので立っているだけで高額報酬をゲットできる」といった割りのいいクエストを受けることが出来ますが…
同時に、ギルドからの強制命令や王族からの指名依頼を受けさせられることも意味します。
ついに最高位のSランクパーティーに昇格した彼らのパーティーは隣国へ潜入して敵国の王を暗殺してくると言う、いわゆる「魔王討伐クエスト」を王より命じられて。
逃げればまだなんとかなったかも知れませんが、パーティーランクが上がったことで自分たちは強いと勘違いしていたため無謀にもそのクエストを自信満々に引き受け。
旅行気分で入った隣国の王都で、真正面から王城に突撃し、あえなく全滅しました。
―了―