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【3】

私を推してください

――アルテミス――


突如として世界に出現した異形の生物。

人間の血を好み、獰猛かつ残虐な生き物――それが赤翼である。


その生態については未だ謎が多いが、高い身体能力と驚異的な再生能力を有し、一説では不死である可能性も囁かれている。


世界は赤翼を人類の脅威として認定し、この脅威に対抗する組織『ネクロス』を創設。


ネクロスは幾つかの部署で構成され、なかでも赤翼討伐を生業とし、特殊な訓練を受けた人間を『アルテミス』と呼んでいる。


アルテミスに任命された人間は、赤翼の再生能力を殺すことが可能な『妖刀』と、周囲の赤翼の位置情報を映し出す腕時計型の探知機が与えられ、日夜、赤翼との戦いを繰り広げている。


世界各地には、数名のアルテミスで構成された支部がいくつも存在。


ネクロスにはアルテミスの他、情報部やスイーパー、赤翼科学研究所など、様々な部署で存在するとされているが、その実態は公にはされておらず、秘密裏の組織となっている。



※※※



「先ほどは失礼しました。私は御影葉月みかげ はづきと申します」


黒髪の少女――御影葉月は、丁寧に頭を下げた。


「可愛い名前だね。あたしは神薙皐月。ぴちぴちの十七歳だよ。よろしくね、葉月!」


満面の笑みを浮かべる皐月に、


「――かんなぎ、さつき……?」


葉月は自然と眉をひそめた。


少しの間を置いた後、少女は眼を見開き、皐月をまじまじと見つめる。


「――ん、どったの? そんなに見つめられたらテれるじゃんか」


「……皐月さんって、あの皐月さんですか?」


「どの皐月さんだよ」


真顔で聞く葉月に思わず即答の皐月。


「あ、すみません。えっと……史上最年少でアルテミスのSランクまで上り詰めて、三年前には赤翼を生み出す悪魔の樹『クリフォート』を撃退した英雄。血の雨を降らせるのが趣味で、赤翼だけでなくアルテミスからも畏怖される伝説の……あの皐月さんですか?」


「……あたしがいない間にとんでもないことになっているな。なんだ? 血の雨を降らせるのが趣味って。そんな設定、あたしは知らないぞ?」


「でも、ネクロスでは本当にそう噂されてましたが……少しは美化されているんだろうとは思っていますけど」


「美化って言わないからそれ。あと人間の範囲でお願い。畏怖される伝説、ってもう人でさえないから」


葉月は表情一つ変えず、たしかに……と納得したように頷いた。


「それで、その神薙皐月さんで間違いありませんか?」


「認めたくはないけど、たぶんその神薙皐月さんであってるよ。少しは正解の部分もあったから」


皐月の言葉に、葉月は眉を少しあげる。


「……驚きました。皐月さんはクリフォートとの戦いを最後に、行方不明と訊いていましたから」


「まあねぇ。あたしにも色々あるんだよ。まだ葉月にはわからないだろうけど……大人の事情、ってやつ? 大人の女性は大変なのさ」


「私と一つしか変わりませんが……」


頭と腰元に手をあてセクシーポーズを見せた皐月だったが、葉月がそこに触れることはなかった。


「あたしのことはいいんだよ。それより、葉月こそなにしてたのさ? 一人で雨に濡れたままぼーっとしてるなんて……普通、誰だって声かけるだろ」


「――修行です」


「はい?」


皐月は反射的に頓狂な声をあげた。


「雨に濡れても風邪をひかない修行です。アルテミスで流行っています」


疑いの目でじーっと見つめる皐月。


「嘘つけ! だいたいアルテミスが妖刀も持たず単独行動してること自体おかしいんだよ。ってか傘使って赤翼と戦うとかほんとありえないからね! いったいなにがあったのさ?」


「……なにもありません。私は任務に戻りますのでこれで。助けて頂きありがとうございました」


姿勢を正し、腰を深くおった。


「待ておい。任務に戻るって……どこに戻るつもりだ?」


「公園のベンチです――って痛たたっ!」


耳を強引に引っ張られ、思わず子供っぽい声を漏らす葉月。


「人を馬鹿にするのも大概にしろ。帰る場所がないなら正直にそう言え」


「すみません。今日のところは帰る場所がありません」


反省の色を顔いっぱいで表現する葉月だったが、今日のところは――というのがまた無駄にプライドの高さを感じさせた。


まったく……と呆れた表情の皐月だったが、


「――じゃあさ……今日はうちに泊まりなよ」


目尻を上げにっこりと微笑む皐月に、「えっ? ですが……」と困惑する葉月。


「帰る場所ないんでしょ? ほらほら、こんな濡れたままじゃ風邪ひいちゃうしさ!」


「で、でも……そんないきなり悪いですし……」


「いいのいいの。あたしが良いって言ってるんだからそんなの気にしない、ほらほらぁ」


雨上がりの道を皐月は無邪気に走り出すも、依然として戸惑いを隠せない葉月の足取りは重いままだった。


「――迷ったら行動だよ、葉月。立ち止まってたってなにも変わらないんだから。まずは前に進んでみようよ」


「……でも、その選択をしたそのあとで、後悔することになったらどうするんですか?」


真剣な表情で語る葉月だったが、皐月は鼻を鳴らし、


「――自分が選んだ道を、自分の力で正解にするんだよ」


自身に満ち溢れた表情で、葉月の手を取った。


不定期投稿ですが、応援されると頑張れるのでブックマークして頂けると励みになります。

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