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【2】

あたりは薄闇に包まれていた。


外灯だけが照らす道を颯爽と走り抜ける皐月。


公園から住宅街へと抜け、ときに重力を無視するかのように空高く飛び、ときに忍者のように民家の屋根上を駆け抜け、華麗に飛び降りまた走り出す。


風を身に纏い、縦横無尽に駆けていく皐月。


――そして、一本の細い路地裏に入った。


「――さ、流石に疲れた……やっぱ普段から鍛錬しとかないと駄目だな、こりゃ」


膝に手をつきぜぇぜぇと息を切らしながら、腕時計のモニタに目を向ける。


「この辺りのはずなんだが――ん?」


視界の先に、先程の少女がいた。


少女は皐月が貸した(皐月から奪い取った)傘を閉じた状態で握ったまま、その先を注視している。


「やっほー、無事だったみたいだね。安心したよ」


息を整え平常心を装う皐月に、

「なっ! どうしてついてきたんですか! それに、こんなに早く追い付くなんて……」

と少女は驚いた様子で振り返った。


「だってさー、やっぱ放っておけないよ。それに別の用事もできちゃったしさ――」


「とにかく! ここは危ないので逃げてください。できる限り遠くに……早く!」


皐月の言葉を遮るように少女は叫び、その後すぐに路地の先に視線を向ける。


少女が見つめる路地の先――――それは、暗闇から猛然と姿を現した。


体長は四~五メートル程。肌は土器色の皮膚に覆われていて、背中には先端に向かって細く伸びる緋色の翼を持つ。

薄暗さの中でも目立つ赤く光った目と、蝙蝠のような尖った鼻、縦長に伸びた口には無数の鋭い牙を露出させ、人間と同じ二足歩行をしながら姿を見せた、異形の生物。


「――赤翼……」


少女は呟くと同時に地面を強く蹴りだし、赤翼と呼んだその異形の生物に向かって走り出す。


至近距離まで接近したところで赤翼が強靭な腕を振り降ろすも、少女はその攻撃の間合いを読み軽やかに避ける。


空を切った赤翼の腕は地面を豪快に叩きつけ、コンクリートの破片を飛散させたが、少女はその破片を縫うように傘の先端で赤翼の右目を突き刺した。


奇声を発し僅かに怯んだが、すぐさま腕を大きく振り払い反撃を行う。


少女はそれらの攻撃をすべて髪一重でかわし、時には傘を広げ赤翼の視界を封じながら、後頭部に蹴りの打撃を与える。

 

しかしいずれの攻撃も致命傷には至らず。


逆に一瞬の隙を突かれ、赤翼が薙ぎ払った腕が少女の顔寸前をかすめる。

体勢を崩し尻もちをついた少女に赤翼の腕が振り降ろされた。


――しまったっ……!


少女がそう思った刹那、振り降ろされるはずだった赤翼の腕は、胴体から切り離され宙へと舞い上がった。


「赤翼相手に傘で挑む子は初めて見たよ」


皐月はそう言い、少女を抱えて赤翼との距離をとる。


右手には、銀色の刀身を露わにした、柄を螺鈿で飾る太刀を握りしめていた。


「――それは……妖刀? どうしてあなたが?」


皐月が腰元に括り付けていた布地の細長い包みからは、その刀身を納める鞘が姿を現わしている。


「ごめんごめん、ついつい君の戦いに見とれちゃっていたよ。でも、ここから先は、天下無双の皐月ちゃんにお任せあれ」


ウインクを見せ、赤翼と正対する皐月。


片腕を失い奇声を上げていた赤翼だったが、程なくしてその腕は、切断された腕の付け根から再生するように、まったく同じ形状で再生した。


「うわ、相変わらず気持ちわる……早く終わらそ」


不快に顔を歪めた皐月は、一旦、刀を鞘に納め、抜刀の構えをとる。


対して唸り声をあげた赤翼は両腕を地面につき、二足歩行から四足へと姿勢を変えた。


両者向かい合った状態で、先に動き出したのは赤翼。


さながら熊が得物に向かっていくが如く、突進するように走り出し、露出した牙を皐月へと向ける。


――二人が交錯する刹那――


鞘の内側を滑らせ解き放たれた妖刀は、一瞬にして赤翼の頭部を身体から切り離した。


すかさず皐月は残った胴体を真っ二つに切断。


おびただしい量の紫色の液体が地面を濡らすも、すぐにそれらは凝固していく。


赤翼の切り離された頭部も、胴体も、体内から流れる紫色の液体も、まるですべてが石化するかのように固まっていき、最終的には砂のようにさらさらと溶けて大地へ消えていった。


「あなたは……いったい……?」


傍観していた少女は呆気にとられた表情を見せる。


皐月は妖刀を鞘に納めると、ん? と振り向き、


「――ああ、君と一緒でアルテミスだよ。もと……だけどね」


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