何かがおかしい
「シロノ!」
「ああ、お兄様!」
「私が純粋培養で育て上げた可愛いお兄様! 心配して見に来てみれば、やっぱり襲われて!」
「純粋培養? ……やっぱり?」
ちょっとよく分からないが。
まあ、要は、俺を心配して助けに来てくれたということだろう。
「双子……ということは、お前ら、グスタフの双子か!」
赤毛のでかい男が、憎々し気に俺たちを見る。
え? 俺がグスタフの息子だから、あんな風に絡んできたんじゃないの?
単に下級生だから虐めてたとか?
「わたくしのお兄様に、そのような態度。断じて許せません」
キッとシロノが睨む。
シロノは、あの父のせいで苦労してきた。敵が多く、数々の嫌がらせの中で、今までも病弱な俺を守ってくれたんだ。シロノに恩返しをしたくて、シロノの恋を応援しているのに、なんだか助けられてしまった。……お兄ちゃん、役立たずだ……。ううっ。
「お前達、あの冷血グスタフ宰相の子どもだろう? よくそんな態度に出られるな。あの冷酷な親父に恨みを持つ貴族は多いと言うのに」
赤毛の言う通り、あの父に恨みを持つ者は多い。
経費の無駄と、ドンドン貴族を王宮から追い出して、慣例行事も削減してしまう。宰相グスタフ・エルグによって職を失った貴族は数多。
だが、それを俺は間違いだとは思わない。農奴からの成り上がりで、一代で宰相になった父だからこそ出来た、王国存続には不可欠の仕事だ。
「恨む方が間違っている。恨む前に、自分を磨けば良かったんだ」
俺が言い返す。
「はぁ? 伝統を壊したのは、グスタフだろうが!」
赤毛が俺の胸倉をつかむ。
「待て。ユーカス。何をしている」
セシルだ。
良かった。セシルが来たなら、これ以上、赤毛は何もできないだろう。
セシルは、赤毛の腕をつかんで、俺を引きはがすと、俺を抱きしめて庇ってくれた。
……
……
あれ?
……
……
ポジションがおかしい。
さて問題です。この中で、ヒロインポジションはどこでしょう?
A、悪漢に襲われて困っている人
B、悪漢
C、最初に助けに入った人
D、最終的に助けに来た人
もし、世の中に恋愛検定なんて物があれば、初級で出されそうな問題。
ええ、答えは、誰がどう考えても、Aでしょう。そう、ヒロインポジションは、Aなんだ。
どうして、俺がAに居座っているんだ。
「大丈夫か?」
セシルが俺に優しく尋ねる。
俺は、釈然としないまま、コクンと、頷く。ホッとして、普段の無表情な顔に、少し笑顔が浮かぶセシル。セシルに恋をしている淑女なら、ドキリとする場面だろう。
やっぱ、ここ、シロノのポジションじゃない?
そうだよ、そうあるべきだよ。なんで俺がセシルに抱きしめられちゃっているんだよ。いい感じの笑顔向けられているんだよ。
今からでも、やり直しでチェンジお願いできないだろうか?
「お兄様、大丈夫でございますか?」
シロノが駆け寄ってくる。
「あ、うん。平気。ありがとう」
シロノが駆け寄ってきたからか、セシルは俺を放してくれる。
「ユーカス。下級生を揶揄うにしてもやり過ぎた。節度を持て」
王太子の言葉に、赤毛のユーカスが逆らえるわけがない。
ユーカスは、大人しく引き下がってくれた。