入学して早々に叱られた
どうして俺の妹は、あんなに可愛いのか。
風になびく柔らかな白い髪、艶やかな肌、長い睫毛の下の瞳は、雪解けの湖を思わせる清らかな青で輝く。小さな唇は、淡いピンク色……。
窓の下を歩くのは、入学したての制服に身を包んだ妹シロノ。数人の友達と歩いている。
教室の窓からそれを見かけた俺は、つい見惚れてしまって、そうつぶやいていた。
「それ、ほぼお前だからな。そっくりな顔しやがって」
前の席に座るマキノが、俺の顔を見ながらそう釘を刺す。
「うるさいな。全く違うだろうが。お前の目は節穴か? そうか、目ではなく節穴が付いているのか?」
双子といえども、俺とシロノでは、美貌には雲泥の差があるだろうが。もはや、同じかどうかを検証するのもおこがましいわ。
軍司令の息子マキノとは、入学してすぐ仲良くなれた。同室だから、仲良くなれないならば、面倒なことになるから助かる。
そう、マキノが使ったあの油、俺が油と思った液体は、ローションというらしい。
何だかエロいことに使う液体らしい。
むかつく。それであんなに先生が大激怒していたんだ。
だが、初日に取っ組み合いの喧嘩をしたからか、それ以来なんだかマキノは俺に優しい。
うん。これが男の友情ってヤツだろう。……知らないけれど。
「なあ、リオス。お前、プロムはどうするんだよ。目当ての女子とかいるの?」
マキノが気にしているのは、卒業後に行われる卒業プロム。
入学して早々に、もうそんなことを気にしているマキノが面白い。
「何だよ、それ。まだ入学したてて、気になる女子なんている訳ないだろう? 俺は、病弱だったから、ほとんど外で交流なんか無かったし。それに、そんな先のことはどうでもいい」
俺の目的は、あくまでシロノの恋を実らせてやること。シロノを王太子セシルの目に留まるようにすること。
それ以外のことなんて、どうでもいい。目的を達成してから考えればいいのだ。
「……じゃあ、さ。俺とお前両方とも相手がいなかったらさ、お前が俺と一緒に行ってくれよ?」
「は?」
男女ペアの多い卒業プロムにマキノと一緒に行く……。
皆、びっくりするだろう。面白そうだな。
「そりゃ、面白そうだ。両方相手がいなかったら……」
俺がOKしようとしていると、
「そんな軽く返事する性質のものではない」
と、背後から叱られる。
? ただのジョークに何を本気で?
どんな堅物かと思って振り返れば、最悪だ。
そこにいたのは、シロノの想い人、王太子セシルだった。
「セ、セシル様……」
びっくりして声が裏返る。
まずい、これからセシルと仲良くなって、「友人の妹が可愛いと、つい目がいってしまいますよね」という状況を作り出そうとしているに。
「軽薄な!!」
一言そう言うと、セシルはさっさと教室を後にしてしまった。
ところで、上級生のセシルがなんでここにいたの?
ここ、一年生の教室なのに。