スキル『病弱』を発動して一ヶ月入学が遅れました
セシル王太子が通うのは、由緒正しき王立の学園。
十三歳から十五歳の貴族の子息が、この学園に通うのだ。国王の子息が通う学園、当然のように入学するためには、家柄、教養、剣術などの基本的能力に加えて、礼儀作法などのたしなみも要求される。
裏口入学なんて許す訳もない親父。俺はシロノの恋心を知ったその日から、必死で努力して、堂々と、表からこの学園への入学資格を得たのだ。
入学早々、俺は、持ち前の病弱スキルを発動して一ヶ月ほど寝込んでしまった。
そのためにセシルの誕生日という大切なイベントを逃してしまったが、まあいい。
「あれが、悪名高いグスタフの息子……」「リオス・エルグ、フンッどうせ裏口だろ?」「一体いくら積んで入れてもらったんだか」
周囲では面倒な噂が飛び交っているが、俺は気にしない。
陰でコソコソ何かいう奴に、関心を払うなんて、無意味だ。俺は、忙しい。
この最底辺から、王太子セシルに近づかなければならないのだから!!
俺のことよりも、姉妹校である、貴族の子女の通う寄宿制の学園に通う妹が気がかりだ。
シロノもきっと、同じように酷いことを言われているに違いない。
まあ、とは言っても、シロノの通う姉妹校は、同じ敷地に隣同士に建てられている。
気になるなら、許可さえもらえれば、出入りは出来るし、合同授業も頻繁に行われているから、どうしても気になるならば、見に行けばいい。
……入学して初日だが、見に行こうかな。さすがにまだ早いか……。
聡明なシロノの事だから、きっと気高くそんな言葉は跳ね返しているだろうが、あの子は本当は繊細な子なんだ。親父譲りのキツイ言い方で、世間から誤解されているが、本当は優しい子なんだ。
願わくば、シロノに、シロノの良さを理解してくれる友達が出来んことを。
寮室に入れば、同室のマキノ・エルデが、「よろしく」と握手を求めてくる。
……マキノ・エルデ、確か軍司令が親父だったな。
陽気そうなマキノ。悪い奴ではなさそうだ。
「こちらこそ、よろしく」
俺が、握手に答えようとすると、手にはべったりと油……。
なんだろう? この油。ヌルっとしてトロっとして……?
ひっかかったぁ!とマキノが大喜びしてやがる。
ずいぶん子供じみたことをしてくれる。
この野郎!!
俺は、油の付いた手で、マキノの頬を引っ張る。当然、マキノの頬は油まみれ。マキノとそのまま、取っ組み合いの喧嘩になってしまった。
ドロドロのベタベタになって、二人して大笑いしながら、暴れる。
騒ぎに気付いた寮監督が、俺達の部屋を見に来た時には、俺達は全身油まみれ。
入学早々に大目玉を喰らうことになってしまった。
こんなんで、王太子に近づくことができんのかな?
一抹の不安を抱えながらも、俺の学園生活は、始まったのだ。




