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【完結】大好きだった恋人と別れて友達になった  作者: 金石みずき


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第三十八話:元カノを呼び出す

 最近、日が長くなってきた。

 少し前までのこの時間は、すでに太陽が地平近くまで降りてきていたものだった。

 だが今はそこそこ高い空から、一人汗を掻いてベンチに座る俺を小馬鹿にするように燦燦と照らしている。


 既にここに来て一時間は経過した。

 待ち人は未だ来ず。

 講義が終わる少し前のタイミングで連絡したし、あいつが見てないってことないはずだから、単に無視されているだけだろう。


 そろそろ諦めた方がいいんじゃないかとも思う。

 だけど靴底はしっかりと地面にへばりついているにも関わらず、うまく力を伝えることが出来なかった。


「……呆れた。まだ待ってたんだ」


 と、そこに待ちわびた声が降ってきた。

 安堵して、ほっと息を吐く。

 その声を噛みしめるようにゆっくりと頭の中で反芻した後、首を回して声の方向を見た。


「よ、紗香。久しぶり……でもないか」

「うん、まあ一週間とちょっとくらいだからね。……あーあ。もう会うつもりなかったんだけどなぁ」


 からかうようなわざとらしい演技がかった口調に、思わず笑いが漏れた。


「悪いな、それなのに呼び出したりして」

「別にいいけどさ。……そんなに私に会いたかったんだ?」


 まださっきのノリは継続中らしい。

 からかうように俺を覗き込むように見る紗香に「まあな」と素直に返すと、紗香は意外そうに目を丸くし「ふぅん」と素っ気なく答えた。


「……で、何の用事? というか、このメッセージ……どういう意味?」


 そう言って、紗香はスマホを操作して画面を見せてくる。

 そこには短い二つのメッセージが表示されていた。

 送信者はもちろんこの俺。

 内容はこうだ。


『五号棟端のベンチで待ってる』

『彼女と別れた』


 俺はそれを確認し、あっさりと言う。

 

「そのままの意味だよ」

「……本気で言ってるの?」

「ああ。事実だからな」

「……そう」


 紗香は何かを迷っているかのように視線を彷徨わせてから、こちらを向いた。

 

「じゃあ、わざわざ私を呼び出した理由については、これから教えてくれると思っていいんだよね?」


 紗香の問いかけに俺は頷く。


「ああ。やっとこの前訊かれたことの答えが出たからな。だから今日はそれを言いに来た」

「……答え?」

「ほら、この前訊かれただろ? 俺が紗香のこと、ちゃんと好きだったかって」


 紗香は一瞬、きょとんとした表情を浮かべたもののすぐに合点がいったようだ。

 表情が変化し、険しくなった。


「――ああ……そのこと。でもあれはこの前結論が出たでしょ?」

「出てないぞ。あれは紗香が勝手に早とちりしただけだ。俺は何も答えてない」

「そんなわけ――――ある、かも、しれないけど……それってなんかズルくない? だって智樹、あの場で何も言わなかったでしょ」


 不満そうに言う紗香。

 ま、そりゃそうだろうな。


「ズルいかもしれないけど、事実だ。だからまだ答えるチャンスをくれてもいいだろ?」

「…………はあー……私の中ではもう決着がついたはずだったんだけど。まあ、いいや。――じゃあこの長い時間かけてよーーく考えた答えを聞かせてもらうとしますか」


 呆れたような、でもどこか僅かに恐れを含んだかのような声だ。


 俺は首肯する。

 そして気合を入れ、目に力を篭めて紗香をじっと見つめた。

 紗香も俺の目を見つめ返す。


 お互いの間が緊張感で満たされる。

 そして俺は口を開いた。


「……俺も同じだったよ。ずっと紗香が好きだった。だから訊けなかった。――怖かったんだ。もし紗香に『もう好きじゃない』なんて言われたら、立ち直るなんてもう無理だと思ったから。だから、長い時間をかけて自分をだます必要があった」

「……だます?」

「ああ。もう〝俺が〟紗香のことを好きじゃなくなったんだって。ほら、自分が好きじゃない相手だったら、フラれようがフろうがさして気にならないだろ?」


 俺の問いかけに、紗香は一瞬考えるような間を作ったが、首を縦に振って返してくれた。

 それを見てから、俺はとうとうと話していく。


「だからなるべく紗香のことを考えないようにした。連絡も減らしたし、態度だって淡泊になっていったと思う。そしたら少しずつ心が軽くなっていったんだよ。それでどんどん止められなくなって……。あとは……紗香も知っての通りの流れだな」


 そこまで言って止めると、紗香「…………そう」と小さく呟いた。

 そして「じゃあ私たち、お互いとんでもなく無駄なことをしてたんだね」とどこか諦念するように、へにゃりと笑った。


 その言葉に、俺は首を横に振る。


「そうでもないと思う。もしこういうことでもなかったら、あのとき別れなくてもきっとどこかで同じことが起こって別れてたよ。拗れたきっかけを紐解いてみようと思ったところで、本当は結び目なんてなくって……それどころかそもそも交わってすらなかったんだから」

「……そっか。それもそうかもしれないね。そう考えれば、遠回りでもなかったのかなぁ」


 紗香はどこか遠くを見るような目でこちらを向いた。


「それで――智樹の用事は済んだとして……ついでにもう一つ聞かせてもらおうかな」

「ああ」

「それで、わざわざそれを言いに来た智樹は……これから私とどうなりたいと思ってるの? ……もちろん答えは決まってるんだよね?」


 期待と不安が入り混じったようで――どちらかと言うと不安の方が大きそうな声色で問う。

 それに俺は短く「ああ」とだけ答えた。

 そして言う。


「紗香。これから俺と友達としてやり直して欲しい。もう怯えるのも誤魔化すのもなしだ。俺はもっときちんと紗香のことを知りたい」

お読みいただき、ありがとうございます。


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