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密告の報酬

 300人いる子供たちのうち、80名の男子がテンジンについて回っていた。

 80名の男子のほとんどが,テンジンの指揮のもと行われる魔獣パイアを狩る練習に随伴していたのだ。

 上は14歳から下が6歳の勇ましい男子が蛮勇に胸躍らせて参加していた。

 ガサツなテンジンが子供をどう扱うのか礼治郎は心配であったが、まったく危なげなく配置を指揮していると子供たちに評判であった

 意外にも子供の扱いは巧みであるように伝わっている。

 ヴァラステウス曰く、若返る前のテンジンは教え上手で、組織・集団を扱う才があるということだった。

 現に誰も怪我もせずに、2日に1度はパイアを一頭仕留めてくるのだから実績もあるといえる。


 300人いる子供たちのうち女子70名はヴァラステウスと農作業を行っていた。

 ヴァラステウスが取り出した、謎の植物――アムブロシア、ガオケレナ、バロメッツを栽培・採取するのを手伝い、働いたのである。

 元々農村に住む女子は、ほぼ参加しているように礼治郎には映る。

 またヴァラステウスに至っては何の心配もなく女子たちを委ねることができた。礼治郎には厳しいが、子供たちの指導者としてヴァラステウス以上の存在はいない。

 女子たちも人知を超えた包容力を持つ妖精王を父のように慕い、笑顔で付き従う。

 穏やかで聡明なヴァラステウスは誰にもバランスよく声をかけ、心を配る。

 この子たちからいつかヴァラステウスを取り上げることになるかもしれないと思うと、礼治郎は心が痛んだ。


 男女合わせて70名が魔王ナフィードについて回った。

 ナフィードは魔獣であるブロブ、アラクネ、アーヴァンクの管理と町の巡回、そして魔法の基礎講座を開く役目を担っている。

 もっともナフィードの行動に定期性はなく、酒を片手にフラフラと歩き、行き当たりばったりで仕事をしているようだった。

 それでもその高貴すぎる外見は見るモノの背筋をシャンとさせ、佇まいを凛とさせているように映る。

 現にナフィードに従う子供たちは、その上品な足運びを模倣して歩いていた。

 当然、魔法に覚えのある者は、ナフィードの一挙手一頭足に注目し、魔法の秘訣を聞き逃さないようにしていた。

 突然始まる魔法の講座も評判は上々で、魔術を知らない者さえ十分に関心をもって聞けるレベルとなっているという。



 かく言う礼治郎にも付き従う少年少女はいた。

 全員が全員ちょっとポッチャリ体系で食事を真っ先にもらいに来る子たちだった。

 つまりは礼治郎のご機嫌を取って、何とか〈ラッキースター〉の食べ物をもらえないか、常に狙っている者たちである。

 そんな子が常に20名近くいた。

 その中で一際腹が突き出た少年が、5体目のパイアの解体を終えた礼治郎の背後に立つ。


「レイジロー様、例のチョーシ町の連中が、農奴の子らを監視しておりました。そして監視情報を仲間で共有し、憤っておりましたね」


「そうか……全員に『この聖母の丘で人に暴力をふるうのは禁止』と言ったのにそういうことはするんだな。ありがとう、ニドル」


 そういって礼治郎はニドルに10円チョコを5つあげた。それに食いしん坊軍団が反応し、小さく歓声を上げる。

 次は茶毛のそばかすの少女がニドルに入れ替わるようにいう。


「レイジロー様、兵士のドウモンが子供たちに『レイジローを信用するな』と吹聴することを続けていますよ」


「そ、そうか。まあ、教えてくれてありがとう、マイサ」


 そういってそばかすのマイサにグミのお菓子をあげた。

 礼治郎を慕う少年少女は次々とここで起きている情報を告げに来ていた。情報と交換に食べ物やお菓子をもらえることが定番化しつつある。

 もともとは商人の子供であるニドルが始めたことであったが、みんながそれを模倣して、ここで生活する者の情報を持ち寄るようになっていたのだ。

 だが礼治郎はその子供がもたらす密告を生かすプランもアイデアもない。

 それでも礼治郎は〈使役化〉の影響を知るには非常に役に立っていると思った。

 〈使役化〉によって、「暴力の禁止」「暴言の禁止」「盗み・だましの禁止」など指示したが、その効果はいま一つわかっていなかった。

 だが少年少女の密告で、あるていどの怨嗟や疑心暗鬼がいまだに漂っていることを知り、〈使役化〉が絶対ではないのだと理解する。

 礼治郎はパイアの肉を切り分けて、〈保管空間(インベントリ)〉にしまいながら、チョコ菓子「土筆のチョコ」を取り出し、子供たちに言う。


「さて、頼んでいた『今後どうしたいか?』を聞いてきたものは誰かな?」


 「土筆のチョコ」を見つめながら、子供たちが全員手を上げる。礼治郎は前日にアンケートを取ってきた者に「土筆のチョコ」を贈呈すると云っていたのだ。

 皆、次々とレポートを発表していく。

 聞いていくとほとんどが「この地に家族を招きたい」という意見であった。故郷に戻りたいという意見は2割に留まっている。

 報告がほぼ終わったと思われたときに、太っちょニドルが声を上げる。


「わたしからも報告を――ここにいる者の7割は生活に元々、困っている者たちです。いずれレイジロー様が去るとして、戻って過酷な労働と貧しい食事の環境に戻るのを嫌がるっているのです」


 ニドルの報告はいつも子供の枠を超え、本質を突くものが多い。

 商人の家に生まれたニドルは情報こそが商売の要であると親に教えこまれているという話だった。

 礼治郎はこの先のことをどう考えるべきなのか、改めて自分ができることを整理しようとする。

 この周辺が貧しく、国の税金がなかなかに厳しいこともぼんやりとわかり、安易に介入することはできないと肝に銘じるのであった。

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