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異世界転移

 バイトの面接にバスで向かう途中だった。


 気が付くとまったく奇怪な場所にバスごといた。


 そこは四方八方が石壁で覆われた薄暗い場所――。


 急ブレーキでバスが停まると半数の者が転倒しかかる。




「な、なんだここは?」




 運転手が血相を変えてバスを降り、確認に動く。


 暗い視界に礼治郎の眼も慣れていく中、誰かが声を上げる。




「な、なんだ? バスを兵士みたいのが囲んでいるぞ!」




 兜に盾、剣を持った同一の衣装を着た者が30人ほど、ゆっくりバスに近づいてきていた。


 礼治郎はテロかと思うが、どうも様子が変だと思った。バスを囲む者たちの顔立ちが西欧風で、日本人には見えない。




「おまえら、全員バスから出ろ!」




 そういった兵士の言葉は日本語ではなかったが、意味は分かった。洋画の吹き替えのように、言葉の意味が頭の中で広がったのだ。


 バスから降りたのは運転手を含め、13名。高校生が6人、会社員1人、老人4人、そして無職とバス運転手であった。


 無職が星野礼治郎その人である。31歳、独身で失業保険が切れたので新しいアルバイトの面接を受けにいく途中だった。


 13人は兵士に付き添われながら、移動する。


 ある部屋に通されると、フード付ローブを身に着けた者が多数いる部屋に連れていかれ、大きな水晶玉を触るように強要される。


 高校生の中のうち3人が触ると水晶球が大きく輝き、ちょっとした騒ぎになった。


 礼治郎が触ると、ほんの一瞬だけ水晶球が強く輝いたがそれだけだった。




 あれ、これはもしやマズい展開か?




 それほどに3人の高校生とそれ以外の反応には大きな差があった。


 その通りに区別され、礼治郎ら10名は粗末な部屋に押し込められるとそこで待機を命じられる。


 何が起きているのかわからない中、10名は話し合った。




「想像ですけど、ぼくら、異世界に魔法で連れてこられたっぽいですよ」




「それで、うちらは能力が低くて、期待されないかもっす」




 高校生達が青ざめながら言った。


 礼治郎ら成人たちはただただ狼狽するだけだったが、数時間後に高校生の妄言が真実に近いことを知る。






 3時間待たされ、礼治郎が通された謁見の間に 紫の髪に琥珀色の瞳――端正な顔つきに意志の強そうな笑みを浮かべた少女がドレスの裾を引きずりながら、護衛と共に現れる。


 紫の髪は後頭部だけ複雑に結んでおり、いわゆるお嬢様結びをして上品なボリューム感を出していた。


 広間の中心の椅子に座った少女が、高飛車な態度で口を開く。




「お待たせいたしましたわ? わたしの名はサリアリ・デ・エルティカノン、この国、ギャロス王国の女王ですわ!」




 少女サリアリは絶世の美少女であった。バスの乗客であった者たちがいずれも見たことのない美貌に慌てざわめく。 


 サリアリは中学生ほどにしか見えなかったが、堂々とした態度で礼治郎たちを見回す。




「ふふふっ、なるほど、選ばれた者ではないのが一目瞭然ですわね!」




 サリアリは指を鳴らすと、学生服の少年が2人と少女が一人、兵士に連れられて現れる。




「この勇者達を召喚するように指揮したのが、わたくしでございますわ! その召喚の儀に巻き込まれた方々には申し訳なく思っておりますわ。ですが今は有事、選択の余地はなかったのだとお断りさせていただきますわ」




 サリアリは自分の横に並ばせた少年少女に語り掛ける。




「さあ、天の恵みを受けた者よ、その名前をわたしに教えて欲しいですわ」




 サラサラヘアの、瞳が大きな少年が答える。




「自分は――上里大河、17歳です」




 髪の毛を上に逆立てたシルバーアクセサリーをつけた、タレ目の少年がピースサインを出しながら陽気に語る。




「俺ちゃんは天童宇音人、ウインドって呼んでちょうだい!」 




 続いて、栗毛を腰まで伸ばした華奢な少女が緊張した顔で自己紹介する。




「五代三七子――17歳です。私立鳳凰学院の2年生です」




 2人を見てサリアリは満足げに頷いた後に、髪の毛をバサッと手で後ろにはらう。




「タイガにウィンドにミナコ、これからもよろしくですわ!」




 次にサリアリは冷酷にも映る目つきで、礼治郎ら10人を見つめる。




「天に愛されなかった者たちも最低限の生活は面倒みることは保証しますわ。転移者は特別な資質をもっているので磨けば、何とかなるやも知れませんのですわ。せいぜい鍛錬に励むと良いですわ」




 そういって人差し指をつきだし、10人それぞれに向けた。




「ふざけんな! 早く家に帰せ! 冗談じゃない」




 激昂し怒鳴るバスの運転手がサリアリに向かってつかつかと歩き出す。


 途端に、警棒を持った兵士4人に囲まれ、激しく殴打を受ける。




「ま、まって悪かった! 話せばわかる!」




 運転手はうずくまり、詫びたが殴打は軽く20発を超えた。運転手は自分では立てなくなってしまう。


 サリアリはフンと鼻を鳴らして笑うと、無感情に宣告する。




「有事が収まった後には、元の世界に帰す方法を調べる気はなくはないのですわ。それまでは甘えず、できることをなさって生きて欲しいですわ!」




 当然、礼治郎には納得できることではなかった。


 抗議と権利の主張を口にしたかった。だが、先ほどのバスの運転手への暴行は元より、先ほどから漂う恐怖に何も言葉にできない。


 人権が軽い世界であるのを、ヒシヒシと感じ始めていた。

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