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拳撃と雷撃

「やめろ! もう投げなくていい! 俺は大丈夫だ。お前はこれ以上手を汚さなくていい、後は俺が池上とサシでケリつける!」


 雷久保(らいくぼ)君の一声で頭に昇っていた血が降りて冷静になることができた。しかし、いくら雷久保君でも優秀なボクシング選手でガタイもある池上を相手に一対一で勝つのは厳しいと思う。


僕は声を出すなと釘を刺されていたことを忘れ、池上からは見えない位置で雷久保君に語り掛けた。


「それは危険だ雷久保君! 池上は君が一人で勝てる相手じゃない。それに次はどんなずるい手を使ってくるか分からないよ!」


「そんなことは分かってる! でも、助けてもらった今ようやく気づいたんだ。俺がこいつをサシで倒さないと納得できないし、先に進めないってな」


 雷久保君は頭に血が昇り切っているのかと思っていたけど『納得』『先に進めない』と言ったワードが出てきたことから、冷静に自己分析が出来ているように感じた。


個人的には『先に進めない』という言葉にはどういう意味が込められているの? と今すぐ聞きたい気持ちがあったけど、雷久保君と池上の戦いを見届ける事が最優先だと考え、一言エールを贈るだけにしておいた。


「絶対負けないで雷久保君……」


「おう、まかしとけ」


 大きく息を吸い込んだ雷久保君は両こぶしを構えて、ゆっくりと池上に近づいた。対する池上も僕達の会話を聞いている間に少し冷静になったようで、震えも収まりボクシングの構えで迎え撃つようだ。




「一人で喧嘩すると宣言したことを後悔させてやるぜ雷久保」


 二人の距離が拳の届く位置まで近づいた瞬間、先に池上の方がジャブを仕掛けてきた。現役高校ボクシング選手のジャブは速く重く、雷久保君は一瞬で二発喰らってしまった。


少し唇が切れて血が出ていたものの雷久保君は全く怯むことなく、右拳を繰り出したが、難なく池上の肘でブロックされてしまった。


「大したことねぇな」


 池上がそう呟いた瞬間、雷久保君はガードされてしまった右拳の指をパッと開き、池上の肘を掴んだ。


「掴まえたぜ」


 口角を上げた雷久保君はそのまま握った手をスライドさせて、池上の左手首を掴んだ。


恐らく池上も子分と同じようにシャツの腕の下側を絶縁物で固めていると判断した雷久保君はむき出しになっている手首部分を掴むことに狙いを定めていたのだろう。


そして雷久保君は髪の毛を逆立てながら高出力の電撃を放出した。池上の手首が光ると同時に、池上が悲鳴をあげた。


「いでででぇぇぇあああぁっぁぁ」


 痺れ続ける池上は掴まれた左腕を振りほどこうとするが、左腕自体が強く痺れているため力が入らず振りほどけずにいた。雷久保君は電撃を浴びせ続けながら、池上に降参しろと圧をかけた。


「どうだ池上、このまま痺れ続けたくなかったら降参しろ!」


「ふ、ふざけんなクソガキがぁぁっ!」


 悪態をついた池上は、必死に膝蹴りを繰り出した。それに気づいた雷久保君は慌てて後ろに下がろうとしたが反応が少し遅れ、腿を強く蹴られた。


蹴りの威力とバックステップの力が合わさって雷久保君は後ろへ大きく転がった。


 追撃が来るかもしれないと慌てて起き上がった雷久保君であったが、池上は意外にも距離を離して小屋の方へと近づいた。その様子を見た雷久保君は挑発的に池上に問いかける。


「なんだ、もう逃げるのか天才ボクサーさんよぉ? いや、蹴り技も使ってきたからキックボクサーかぁ?」


「黙れ、もう何が何でもぶっ殺してやる……」


 池上は小屋に立てかけてあった金属パイプを手に取って雷久保君に襲い掛かってきた。


 ここにきて、正々堂々素手で戦わず武器に頼るのか……池上の行動に対して僕は焦ると同時に腹を立てていたけれど、戦いの当事者である雷久保君は恐ろしく落ち着いていた。


雷久保君は振り下ろされた金属パイプに対し、両腕をクロスさせてブロックすることに成功した。しかし、耐えられえるような痛みではなかったようで金属が肉と骨にぶつかる独特で嫌な音が鳴り、それと同時に雷久保君のうめき声が響いた。


雷久保君のうめき声を聞いた時の池上の顔は、今日一番の邪悪な笑みを浮かべていた。しかし、一秒も経たずその笑みは雷久保君に消される事となる。


「ミスったな池上ぃぃ!」


 雷久保君が叫ぶと同時に金属パイプが発光し始めた、雷久保君が金属パイプ越しに電撃を放ったのだ。


再び大きく痺れた池上は、金属パイプを落とすと同時に電撃で一瞬放心状態となった、その隙を雷久保君は見逃さなかった。


がら空きとなった腹目掛けて電撃を纏った蹴りが放たれて、池上の体は後ろへ大きく吹き飛んだ。


池上はえづきながら地面をのたうち回っている。その姿を見た雷久保君が池上へ改めて宣告する。


「これを機に真っ当に生きろよ、そして二度と俺に汚い言葉を吐くんじゃねぇぞ」


 精神的にも肉体的にも完全に雷久保君が上回る形でサシの喧嘩は幕を閉じた。池上は見苦しく這いずりながら無言で雷久保君から距離を離そうとしている。


雷久保君はその姿を見て、もう放っておいていいと判断したようだが、この光景に僕は何か違和感というか嫌な予感を覚えていて、それは現実のものとなってしまった。


なんと池上は這いずりまわって逃げているだけでなく倒れている子分の元へと近づいていたのだ。池上は子分の手元からスマホを取り出し、少し操作をしたあと雷久保君に脅しをかける。


「残念だったな雷久保! お前が俺を殴った動画データは今、俺の手元にある。これを他の仲間に送ればたちまち動画は編集されてお前が悪者だという情報が拡散される。俺が指先を少し動かせばお前の高校生活は終わりだ。そうされたくなかったら今から俺のサンドバッグになれ、百発なぐってやるからよぉぉ」


「くそっ、さっさとスマホをぶっ壊しとくべきだったか」


 池上がまさかここまで卑怯で頭の回る奴だとは思わなかった。今から僕が球を投げて池上に当てたとしても、その瞬間送信ボタンを押してしまうかもしれない。


それに池上が持つスマホには雷久保君が直接的に殴りかかっている動画が残っている以上、互いにチクりあったとしても池上の方に分がある。


文字通り池上の指先一つで雷久保君の高校生活が終わってしまう絶望的な状況になり、僕達はお手上げ状態になってしまった。


 池上は腹部の痛みが和らいできたようで起き上がった後、片手にスマホを持ち、ふらついた足でゆっくりと雷久保君の方へと近づいてきた。


今から僕が姿を現して名乗り出て、雷久保君を殴らないでくださいと頼めばもしかしたら、僕にターゲットが向いて僕だけが殴られるように仕向ける可能性もあるかもしれない……そんな考えが頭をよぎった。


元々子分を二人倒したのも僕だし、雷久保君と同じぐらいヘイトが向いているかもしれないからだ。


それに二人とも殴られたとしても、二人で辛い目にあった方がきっと気が楽になるだろう。僕は覚悟を決めて物陰から姿を現し、大声で池上へ名乗り上げた。


「待て池上! 雷久保君は僕の大事な友達だ、これからお前の一方的な暴力が始まるなら僕だけにしろ。お前の仲間二人を倒したのは僕だ!」


今話を読んでいただきありがとうございました。



















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