雨ごいの為、水神様に生贄として捧げられた村娘です。実は領主が使用人に手をだして産ませた私生児で、領主の娘に代わりで無理やりされたのですが…実は番だったとわかって溺愛されてます。
「……私がどうして?」
私はただの村娘、この地方で水不足が続いていて、「水神に高貴なる生贄を差し出せば雨が降る」という予言に従って、高貴なる領主様のお嬢様が生贄となることになったはずですが……。
「お前はわが娘だ、使用人に産ませた……な」
私は衛兵に無理やり手を取られ、家から引きずり出されました。
私は祖父母に育てられ、父は病で死んで、母も私を産んですぐ死んだと聞かされてました。
その祖父母もすでに亡くなり私は一人で暮らしていたのです。
領主様が私を自分の娘と言い切ります。私はそんなはずはないといっても、聞いてくれず……。
無理やり水神様の住む湖に連れていかれました。
「高貴なる生贄、わが娘だ! これでこの地方に水を降らせてくれ神よ!」
私は縄でぐるぐる巻きにされて、無理やり湖に突き落とされたのです。
抵抗しても、暴れても聞いてもらえず、お前の存在を思い出してよかった、これでわが娘は助かると領主が安堵したように言うのです。
あなたの言葉が本当なら私もあなたの娘とやらじゃないですかね?
どぼんっと沈み、私は息ができず死ぬのかなと思っていました。
『またゴミが沈んできたか……』
私が目を開けると、息ができるようになっていました。
湖の底? 神殿のような広い建物が目の前にあり、長い銀の髪をした男の人がこちらをため息をついてみています。
「私は!」
『領主の娘とやらか? 私は生贄などはいらない、地上に帰してやるから安心しろ』
青い目でこちらをじいっと見て、いやお前はわが伴侶となる運命の娘か? と不思議そうにこちらを見る青年。私は息ができるし、話ができるのが不思議だとあたりをきょときょとと見まわしました。
『ほお、千年待ち続けて現れた番が生贄とは笑えるな』
「帰ってもどうせ領主様に目をつけられたら村では生きていけません、ここにおいてください!」
私はわかったとにやっと笑う青年を見ました。しかし湖の底にこんな建物があるなんて知らなかった。
水汲みにいつも来ていたのに……。
『しかし、お前、殺されるところだったぞ。私が拾い上げなければ今頃……』
「ええそうですね」
『復讐とやらを人間ならしたくはないか?』
「腹は立ちますけど、雨が降らなければどうせ飢え死にしてましたし……」
『雨くらい別に降らせてやってもいいが?』
目の前にいるのはだれか? 私はすでにわかっていました。この地方の湖にいるという水の神の化身です。彼はクスクスと楽しそうに笑ってこちらを見ます。
「お願いします」
『そのあと復讐するか?』
「村の人の迷惑にならないようなら……」
『お前は優しいな、わが番、名前は?』
「リアです」
『ほお良い名前だ、ではリア、お前の願い通りにしてやろう、お前だけ助けてやるというのでも楽しいかもしれんな』
神の名前は発音ができません、仮でアーデンと呼ぶがいいといわれました。
『神といっても魂はもともとは人だ、私は水の中で死んだのさ、そしてなぜか目覚めるとこの地方の湖の神になっていた。なぜかはわからぬが』
アーデンはクスクスクスとまた愉快げに笑います。私はいつの間にか現れた使用人に着替えさせられ、神殿の中に招き入れられ、ごちそうに囲まれました。
「番とはなんですか?」
『魂の半身、そういわれてもであったばかりでお前も納得いくまいリア、ここで私と過ごし、私を愛するようになればわが番として一緒にいてくれ、永劫は寂しい、千年ここで一人だった』
一人ぼっちは寂しいです。祖父母が死んで私も一人、確かに村の人はいましたが、遠巻きにされていました。やはり父が領主だったからかもしれません、みなうすうす知っているようでした。
『ほら、雨が降ったぞ』
「ありがとうございます」
水晶玉を見せられ、地方に雨が降りそそいでいきます。
それを見ると、領主が娘を抱きしめにこにこと笑っているのも見えました。
「……私は娘じゃなくてその人だけが娘だったということですね」
『合理的判断かもしれぬな、使用人に産ませて捨てた娘を捨て置き、正妻の娘はそばに置く、政略の駒としては使いようがある』
アーデンは愉快気に笑います。価値観が少し違うのを感じます。
でも私を湖に無理やり放り込んだ領主の冷たい目を思い出すと、まだアーデンのほうが人間らしいのかもと思います。
「……復讐するとしたらどうしたらいいですか?」
『領主の館とやらのところだけに雨を降らしてやろう、ずっと降り続けばどうなるかな? ああ、近くの川を氾濫させて館を飲み込むのもいいな』
「雨のほうでお願いします」
さすがに使用人などもいる館に川が襲うのを想像して心が痛みました。
アーデンがわかったと笑うと、ずっと館に雨が降り続けるのが見えました。
『館が呪われていると使用人が逃げ出し、水だらけになった館にはいられないと、領主たちが出ていく。呪われていると皆が噂をしている。もっと呪ってやろうか?』
「未来永劫、彼らのいくところに雨が降るように、雨を望んでいたようですから」
私を憎悪し、私のせいでこんなことになったという領主の怨嗟の声が聞こえてきて、私は腹がますます立ってきました。だって悪かったと一言でも言ってくれたら……。私は。
『そうだな、それは楽しそうだ』
アーデンとともに私は水晶玉から流れる映像を見ます。ずっと彼らのいくところ雨が付きまとい、彼らは一つのところにはいられず、流れ流れて、病気で領主は死んで、残された娘は一人どうしようかと困っています。
「もういいです……」
『もういいのか?』
「ええ」
私の妹でしょうか、私より年下の少女が困っているのを見ると心が痛みました。
湖に身を投げようとする妹を見て、私は助けてあげてとお願いします。
『わかった』
彼は湖に身を投げた妹を地上に戻し、呪いを解いてくれました。
彼は私にはとてもやさしい。人よりも優しいかもしれません。
ずっとずっと一緒に彼といてもいいかもしれないと思い、私は彼に寄り添います。
アーデン、その名前は千年前に竜を殺した竜殺しの英雄、竜を殺して行方知れずになったといいます。私はでもそれは彼には言いません。
千年の孤独を思えば、私がそばにいることで少しでも心が慰められたらいいと思うのです。
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