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ノートランドの悪魔  作者: 春夏秋冬
第一章 悪魔と少年
9/21

悪魔は見破る

「…あら?お友達?珍しいわね」


その貴婦人はとても優しく、そして上品に微笑んだ。


(本当は綺麗な人なんだろうけど…)


その青白い顔は頬がごっそりと()けていて隈も酷く、ベッドから覗く腕はまるで枯れ木の枝のように細かった。

…お世辞にも美しいとは形容し難い。


「はい。僕の大事なお客さんなんです。」


少年は母親の問いに満面の笑顔を見せて答える。

それに合わせるようにアリエルはすっと会釈をした。


「ふふふっ。とても可愛らしいお嬢さんね。ランディと仲良くしてあげてくださいね。」


(あ、なんかこの感じ懐かしい)


子供を思う母親の優しい眼差し。

アリエルはふと自分の母親に想いを馳せた。


(そういえば…ママもよくこんな風に笑ってたな。あの日までは。)


胸の奥がチリっと痛んだ。


「お名前は、なんて言うのかしら?」


「あ……えーと。ア…アンジェラです。」


目を泳がせながらそう答える。

流石にアリエルとそのまま名乗るわけにはいかない。


【天使】だから【アンジェラ】

…ちょっと安直過ぎたか。


「まぁ!イメージ通りのとっても素敵なお名前ね!」


「えへへ、それ程でも…」

(そりゃ偽名だからね!!)


少年の母親はとても朗らかな人物のようだった。

アリエルのような得体の知れない子供相手にも気さくに接してくれる。


(金持ち貴族の奥様だからちょっと気難しかったり高飛車な人かも、と思ったけど全然違ったな…)


だからと言っていきなり


「私は天使なのであなたの病気を治します!」


なんて言える訳もなく。


(笑い飛ばしてくれたらまだいいけど頭のおかしい子供だと思われるかもしれないしね…)


ま、そもそもそんなこと言うつもりなんて最初(はな)からないんだけど。


…ー実は、少年には一つ条件を出してある。


《私の正体は絶対誰にも明かさないこと。》


この場合の”正体”は

少年にとっては【天使】であること

私にとっては【アリエル・ノートランド】であること

になる訳だけど…まぁそこは些細な問題だ。


少年の”お願い”を引き受けるとは決めたが

なるべく大事にはしたくなかった。


「いい?私はあくまでも偶々(たまたま)君と知り合って仲良くなったお友達っていう設定で!」


周囲の人間は勿論だが

治療を受ける当人にも出来れば正体は悟られたくない。


(…いや。みんながみんな本当に【天使】だと誤解してくれるんならいいんだけどさ)


成功する、しないはひとまず問題じゃない。

私にとって一番問題なのは【超上級治癒魔法】なんて使える金髪金眼の少女が一体何者なのか詮索されること。


まず【魔法】を使ってるところを誰かに見られるのも避けたい。


つまりこのミッションは秘密裏に成功させる必要がある。

誰にも見つからずそして誰かに捕まる前に終わらせる。


「とりあえず君には私が治療してるところを誰にも見られないように協力して欲しいんだけど…いいかな?」


「誰にも、とは…お母様にもですか?」


「うん、そうなるね。」


「…そう、ですか…」


少年はアリエルの発言の意図を暫く考え込んでいる様子だったが


「…はい。わかりました。」


と、自分の中で何か納得いく答えでも見つけたのか大きく頷いてくれた。


正直自信があるわけではないけれど…

やる、と決めたからには万全を期したい。


今はまだ自称だけど【世界最強の魔法使い】の名に相応しいほど完璧なまでに鮮やかに。


そのためにはまず、現状把握が必要になる。

患者の状況を知ってからじゃないと作戦の立てようもない。


と、ゆうわけで現在に至るのだがー…


(これって…病気ってゆうより…)



-呪いだ。



先ほどから魔力を視界に集中させて少年の母親(かのじょ)を視ているのだが…


その身体は禍々しい邪気に覆われていて精気という精気を喰らい尽くされている。


これは医者には絶対に治せない。

治せるはずがない。


(私も本で読んだ知識しかないけど…)


禁忌中の禁忌【黒魔法】による呪い…


(…呪いなんてかける方もいろんな意味でリスク大きいはずなんだけど一体誰がこんなこと…?

と、ゆうかそもそも誰かに呪われるほど恨みを買うような人には見えないけど…)


いや、もう治すと決めたのだからそれはあまり重要ではないのかもしれない。


重要なのは彼女に今必要なのが

【治癒魔法】ではなくて【呪いの解除】だとゆうことの方だろう。


(それはそれでまた厄介な…)


病であればその根源を消し去った上で傷ついた場所を元の通りに修復すれば終わり。

言葉で言うほど簡単ではないのは確かだがその原理は極めて単純だ。


それに比べて呪いは…

対【魔法】である分そう簡単に消し去れるものじゃない。

まずはその【魔法】の構造を1から紐解いていかなければならない。


(呪いをかけた術者の能力レベルにもよるけど…かなり面倒なことには変わりない)


自然と眉間に皺が寄った。


そんなアリエルには気づかず

少年とその母親は仲睦まじく会話を続ける。


「…-それでとても仲良くなったのでぜひお母様に紹介したかったんです!

もっとお話がしたいので彼女を今日、この邸に泊めても構いませんか?」


「もちろん!ランディにそんな気が合うお友達が出来て私も嬉しいわ。

もてなして差し上げて。


…あ、でも。()()()()()()()は大丈夫なのかしら?ご両親とか…心配しない?」


治療を誰にも見られないために計画の遂行は深夜の方がいい。

外から忍び込むよりも中から入り込む方が容易なので

できれば今夜は泊めて欲しいと提案したのは他でもないアリエルの方だ。

いい加減野宿を避けたかったとゆうのもあるが…


「はい。大丈夫です。両親は…いませんので」


きっぱりそう答えたあとで少し気が重くなった。

たしかに外泊の許可を取れるような”両親”はいないが

両親自体はノートランド領でご健在だろうから。

まるで勝手に殺したかのような言い種に少々後ろめたさを感じる。


「そう、だったの…。」


少年の母親はこの少女は孤児なのだと勘違いしただろう。

…でもそれでいい。


「ランディ。だったら貴方の寝室の隣にある客間に案内して差しあげたらどうかしら?」


「はい!てんs…コホン。いえ、アンジェラ様が良ければ行きましょう!」


「う、うん…そうだね。あまり長居するのも悪いし行こうか。」


少年は母親に「では失礼します」と軽く頭を下げると再びアリエルの手を取り歩み始めた。


その後ろ姿を見送る母親は穏やかな表情を浮かべていたが

完全に2人が見えなくなると目線を落としてポツリと呟いた。


「もしかして…いえ、そんなはずは無いわね」

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