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ノートランドの悪魔  作者: 春夏秋冬
第一章 悪魔と少年
3/21

悪魔は旅立つ

…非常に残念なことに私の人生のピークは5歳までだったらしい。


「いやいやいや…そんなことってあるッ?!」


とやや大きな声でツッコミを入れてみても反応してくれる人は1人もいない。


実に虚しい。


だって”ここ”には随分長いこと私1人しかいないから。


(最後に人と会話したのっていつだっけ???)


…あぁ、そうだ。


パパとママに引き攣った顔で

「アリエル…私たちが非力なばかりにすまない!!」

と、一方的に言われたのが最後だった。


…いやはや。もはや()()ですらないけど。

ママとは目すら合わなかったし。


******************


我が父、ノートランド伯爵が治める領地の北のはずれには

今は誰も近づかない石の塔が聳え立つ。


私、アリエル・ノートランドはそこに幽閉されてから早5年ー…


はじめはいくらなんでもすぐに迎えが来るだろうと思っていた。


けど。待てど暮らせど誰も来ない。


それならば自力で帰ろう、と思ったものの

何やら強力な魔法結界が張られていて脱出は困難を極めた。


「完全に詰んだ…」


…ーそう言えば、当時は絶望したっけ。


不幸中の幸いか


この石の塔はかつて私の祖父・ガスパルが【魔法研究】に没頭していた際に長年籠っていた施設のようで

興味を惹かれる資料や本、魔導具に溢れていて私を飽きさせることはなかった。


しかもどういう仕組みか

部屋の中央にある円卓にはどこからか朝昼晩の食事がきちんと届く。

つまり最低限の生命の保障はされている、ということだ。


(たぶん、これはこの塔に籠りきりだったお祖父様が発明した魔導具の一種なんだろうけど。)


そんなわけで早々に抵抗することは諦めて

ここで暮らすことを受け入れた。


(けど。


けどけどけどけどッ、、、!!!


流石に5年って長すぎないかなぁ???)


もうこの塔にある大体の書物は読み尽くしたし

そこら中にある魔導具の使い方もマスターした。


なんなら暇つぶしにオリジナルの魔導具も作ってみたくらいだ。


たとえば

孤独な私の話相手になってくれるぬいぐるみとか…ね。


(商品化したら売れるかな…?)


-なんて。

考えてみたところで外に出られないなら意味がない。


とにかくこの5年間、

外に一切出られないのは勿論、蟻んこ一匹ですら私を訪ねてくることはなかった。


冷たく薄暗い石の塔の中に1人

完全に外界から忘れ去られた存在だ。


(…なんとなく。

現実から目を背けていたけど

これはもう実質捨てられたってことだよね?

【有害危険ゴミ】だからポイ捨て出来なかっただけで。

寧ろ処分(ころ)されなかっただけでも奇跡(ラッキー)なのかな…)


そもそも。

なんでこんなことになったのか。


…まぁ、自業自得ではある。

やり過ぎた、それは認める。

調子に乗ってた…その自覚もある。

だけど動機は至って純粋だった。


「みんなをもっともーっとビックリさせちゃおっ♬」


ただそれだけ。


本当にただそれだけの理由で


今や禁術とされている【召喚術】を使い

ありとあらゆる魔獣をノートランド領に召喚してしまったのだ。


ケルベロスにゴーレム、そしてドラゴン…

その数ざっと100匹余り。


(…子供の考えることはなんでこうも突拍子もないのかな。)


その時の私はサーカス団の団長にでもなった気分で

それ見よ!とばかりに魔獣達を従え、踊らせてみせた。


この世のものとも思えないあまりに禍々しい光景に

領民たちは阿鼻叫喚

ノートランド領は空前絶後の大混乱に陥った。


つまり加減を知らずにビックリさせ過ぎたんだよね。


()()()()()しないで大人しく過ごしてたら…

そもそも魔力なんて持って生まれてこなかったら

今頃平凡だけど平和で幸せに暮らせてたのかなぁ。」


アリエルはまだたった10年しか経っていない人生を振り返り深い深いため息をついた。


(…-”おそらく”なんだけど。


私はこの王国一、いや大陸一…それどころか世界一強い【魔法使い】なんだと思う。)


あの頃はあまり自覚してなかったけど。

この塔に来てあれこれ魔法に関する書物を読み漁ってる内にそんな憶測に行き着いた。


基本的に、魔力の高い魔法使い自体はこの国では非常に貴重だし重宝される。

私だってかつてはよく『将来は是非王国宮廷魔導士団に!』なんて渇望されたものだ。


…しかしまぁ人間というものは。


少しばかり優れた力には羨望や尊敬、そして期待の眼差しを向けるけれど

桁違いに…並外れた…まぁとにかく見たことも聞いたこともない様な力を見せられた途端それはただの脅威にしか思えなくなるらしい。


しかも相手はまだまだ子供。


これが10年後、20年後どうなるか、と想像しただけで足がガクガクと震え出すほどだ。


最終的にその【脅威】はいずれこの国どころかこの大陸全土を呑み込み、滅ぼすのではないか?と危惧された。


事件のあと

王国屈指の魔導士達が次から次へとノートランド家に呼び集められ

私の魔力をどうにかして封印できないものか、と議論が繰り広げられていた。


ーが。当然、そんなこと出来るわけがない。


あまり覚えてはないけど

【脅威】は芽が出る前に処分してしまおう、という意見も絶対あったはず。


(でも結果、閉じ込められるだけで済んで生きてるんだからこの状況でも我慢するしかないのかなぁ…)




……


………否ッ!!!!



たしかに禁術に手を出したのはイケナイことだけど

まだたった5歳の幼な子がやらかした事。


その罪の代償が一生幽閉なんてあんまりじゃない?


だいたい

私はこの力を悪いことに使いたいとか全然思わないし!

どちらかと言えば静かに平穏に暮らしたいし。


無害!100%無害!!神さまにだって誓える。


「よし決めた!!私はもう一度外に出る!!今日出る!!」


思い立ったら吉日!と言わんばかりに

私は勢いよく塔の入り口まで走って行った。


(…よくよく考えたら私はこの世界最強のはず。

どうしてこの塔に張られた結界如きが破れなかったんだろ?)


まぁ。一度打ち砕かれてからチャレンジする気にもならなかったんだけどさ。


でも。なんでか分からないんだけど。


「今ならなんか出来る気がするんだよね…」


その予想は予想外なほどに正しくて。

塔の入り口に張られた結界は私が手を触れた瞬間バンっと音を立ててあっという間に粉々に破壊された。


「うっそ…」


5年前どう頑張っても出来なかったこと…

それがこうも簡単にできるもの?


「いや、出来るとは思ってたけどさ…」


あまりに簡単過ぎて逆に呆気に取られる。


(5年前出来ないと思っていたのは私の思い込みだったの?


…うーん、まぁ、細かいことはいっか!!)


そうして私は私の未来を変える一歩を踏み出した。


5年ぶりの外!!5年ぶりの太陽!!5年ぶりの風!!

私は今解き放たれたよ!


自由だぁぁあああああああああ!!



******************


アリエル・ノートランド 10歳


容姿端麗、頭脳明晰、そして世界最強の魔力を持つ

そんな無敵すぎる彼女に欠点があるとするならば…


その後先考えない猪突猛進な性格なのかもしれない。

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