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ノートランドの悪魔  作者: 春夏秋冬
第二章 悪魔と王太子
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悪魔は戸惑う

自ら”得意分野”と言うだけあって

トビーの手際の良さは実に鮮やかなものであった。


アリエルに対する指示も的確で

お陰でいつもは日が暮れるまでせっせと床を磨いているのに昼前にはあっさり終わってしまった。


(この人、有能過ぎる…!!)


毎日汗水垂らしながら必死こいて頑張っていたのは一体何だったのか、と思わせるほど隅から隅まで完璧に綺麗だ。

若干自分の存在意義を見つめ直したくはなるが…

何はともあれ…これでアバリスから嫌味を言われる事もなく午後は久々に完全フリータイムを獲得した訳だ。


「手伝ってくれて助かりました!!本当にありがとう!」


「いえいえ!やっぱり綺麗になると気持ちがいいよね!」


深々とお辞儀をするアリエルにトビーは風のように爽やかな笑顔を向ける。

……その笑顔にアリエルはやはりどこか既視感を覚えた。


(あ……そうだ。この”エメラルドグリーン”はー)


「ねぇ!!」


「…っ!?」


記憶の答え合わせに夢中になっているといつの間にかトビーの顔がほんの目の前まで迫って来ていた。


突然なことに身体も顔も隠しきれずにビクッと強張るがトビーは全く気にする様子もない。


「アンはやっぱり神職を目指しているの?…掃除も修行の一環だよね?」


「う、う〜ん…それは。…どうかな?」


少しずつトビーから後退りしつつアリエルは真意を濁してそう答えた。


神殿(ここ)にずっと居たい、と思う時もあるが

神職を目指すには…あまりにも信仰心もなければ忍耐力もなかった。

第一にしてアバリスみたいには(色んな意味で)到底なれない。


「…あっれ?意外…断言はしないんだ?

()()アバリス様の妹さんだからてっきり……

うん。でもそっか!良かった!神職目指さないなら俺とも結婚できるね♬」


「……はい?!」


「俺アンに一目惚れしちゃったみたい!」


(…最初から距離感がちょっとおかしい人だな、とは思っていたけども。)


確実に変な人。


「わー…どうもありがとう☆」


たかだか出会って数時間の相手に軽々しく好意を語るなんて正直ドン引きなのだが

仮にも神殿のお客様だしまぁ事を荒立てず適当にあしらう方がいいだろう。

どこまで本気なのかも分からないのに真面目に取り合っても無駄だし。


「んんっ?…その顔は全然本気にしてないでしょ〜?」


「いやいやいや…一目惚れなんて本当光栄です〜」


(なんでそこだけは鋭いのよ…)


「正確に言うと一目惚れってゆうより運命感じちゃった、てのに近いかな?

アンの持ってる魔力の波動がすっごく心地よくて…こんな感覚は初めてで。」


「へぇ〜それはどうも……ん?」


マリョクノハドウ?


「言葉で表現するのはなんとゆうか難しいんだけど…一目見た瞬間に圧倒されたとゆうか…とにかくアンに惹かれて…」


「ちょ、ちょっと待って!!トビーって【魔法使い】なの!?」


ーーそうなのだ。

他人の【魔力】を感知できるのは同じく【魔力】を持つ者だけ。


それも専門の知識を持ち、ある程度の経験を積んだ者でなければ難しい。


アリエルみたいに独学で【魔法】を学んだ異例中の異例を除けば

それができるのは【王立魔法学校】で学んだ【魔法使い】しかいない。


現在この国では【魔力保有者】自体かなり稀有な存在であり、その中から【魔法使い】になれる程の実力者はごく僅かだ。


そんな貴重な存在である【魔法使い】に会おうと思っても普通は王都まで行かないと会えない筈だが…


ーよりにもよってこんなところで出会うなんて。


(まさか国王からの追っ手…いや…でもアバリスの知り合いだって言ってたし…偶然?)


「魔法、使い…?…って俺が?

……ふ、あははは!そんな大層なもんな訳ないじゃーん!!同じ【使い】でも俺はただの【小間使い】だよ!」


しかしトビーのあっけらかんとした返答はアリエルの予想から外れたものだった。


単純に身分を誤魔化そうとしているだけかもしれないが…たしかに一つわからない事がある。


トビーが【魔法使い】ならばアリエルだってその【魔力】を感知できるはず。


それなのにトビーからは感じられても非常に微弱な【魔力】しか感じられない。

【王立魔法学校】に入学する者は皆【魔力鑑定】を受ける事になるがこの程度なら【魔力0】と判定されて入学する事すら出来ない。


アリエルと同じく独学で、とゆう可能性もなくはないが…【魔法】なんて難解な学問を一人で勉強するのはよほどの才能と環境がないと難しい。


じゃあ一体彼は何者なのだろうか…


「…でもその…私の【魔力】をどうして?」


どうしてもこの疑問をぶつけずにはいられなかった。


「…え、なに?これってそんなすごい事なの?」


それなのに逆に疑問系で返されてしまう。


「凄い、とゆうか…ある程度訓練された【魔法使い】じゃないと他人の【魔力】まではわからないよ…普通」


「あー…なるほどなるほど。……まぁ訓練みたいなものは受けたかもなぁ、結局挫折しちゃったけどね」


とほほ、と言ったようにトビーは肩を落とした。


「それって魔法学校に通ってたってこと?」


彼の正体を明らかにしたくてついつい尋問を続けてしまう。


「んーにゃ?学校は騎士養成学校出身」


「え?!…騎士なの?!」


「違うよ、根本的に騎士には向いてないね」


…なんだろう。要領を得ない。

彼が何者かに辿り着かない。

もうストレートに聞いた方が早いだろう。


「…結局トビーさんって何者なんですか?」


「あれ?それって俺に興味持ってくれてるっていう解釈でいいのかな?」


…良くない。良くないけどっ…


「そーゆーことでいいんでっ!」


投げ捨てるようにそう答えた。


「うーん…何者か、と聞かれても《何者にもなれなかった。》て答えるしかないんだけどなぁ。」


ポツリポツリと彼は言葉を落とし始める。


「そうだなぁ。強いて言えば…かつては【魔法使い】になれたらいいのに、と思っていた夢見る少年で…

でも現実を知ったからと言って親の期待するような【騎士】にもなれなかった…つまるところそんな半端者かなぁ?

なんだか自分で言うのも辛いんだけど…これ。」


トビーは気まずそうに苦笑いを浮かべた。


警戒心は消えないが彼の言葉に嘘があるようにも思えない。


彼の言葉通りなら専門的に【魔法】を学んだ訳ではなさそうだ。

それなのに他人の【魔力】に敏感なのは生まれ持っての才能なのかも知れない。

アリエルみたいな【魔力】オバケがいるのだからそーゆー人が1人くらいいても不思議ではない。


「ところで…」


トビーはニッコリと微笑む。


「結婚前提の交際…してくれるの?してくれないの?」



アリエルは基本敬語使えない子なので

ところどころタメ語に戻ってるのは仕様です。

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