悪魔は舞い降りた
ゆるーくはじまります。
アリエル・ノートランドは幸せになる筈だった。
そう、《筈》だったのだ。
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由緒正しきノートランド伯爵家に生まれた長女アリエルは
煌びやかな金糸の髪に黄玉の瞳を持ち
シルヴァスタ王国に舞い降りた【天使】
と、比喩されるほど愛らしく神秘的な容姿をした少女だった。
…いや、神秘的なのは容姿だけの話ではない。
アリエルは僅か2歳にして古代語で書かれた魔導書を辞書無しでスラスラと読み始め大人達を驚愕させたかと思えば
独学でいとも簡単に【魔法】まで使えるようになったのだ。
現在のシルヴァスタ王国では魔力を持つ者が減少し魔法使い自体非常に貴重な存在だとゆうのに…
まさに”神童”
天に二物も三物も与えられた彼女は特別な存在だった。
『ノートランド家は優秀な後継者がいて安泰ですな!』
『御令嬢は将来王国の大魔導士か…』
『いやいやこれほどまでに聡明で美しいのですから是非とも王太子殿下とご結婚頂いてこの国を導く未来の皇后陛下に!』
周囲の大人たちは彼女に大いなる期待を寄せ、褒め称えた。
次第に彼女は考え始める…
《もっと褒められたい、、、!!
もっともっとスゴイことをしたら
もっともっとみんなが注目して褒めてくれるかも…!!》
そう、そんなことを考えてしまったのが幸福な人生を歩む筈だった彼女の不幸の始まりー…
神童と言えども幼き子供
物事の加減というものをこの時のアリエルはまだ理解していなかった。
…いや、彼女にこの力を与えた【神】こそがそんなものそもそも理解していなかったのかもしれない。
…さて。彼女に起こる不幸を話す前に
彼女の生い立ちについてもう少し詳しく話そうか。
彼女の生家ノートランド家は
シルヴァスタ王国の長い歴史の中で
最も多くの【魔法使い】を輩出してきた家門である。
王国史に名を残す魔導士といえば
その殆どがノートランドの名前を持つ。
魔法に関することであればノートランド家の右に出る者は長い間いなかった。
…しかし時代とともにその力は薄れていき
ついに魔力を持って生まれたのはアリエルの高祖父が最後となった。
それ以降傾き始めたノートランド家であったが
過去の名誉は名誉、と割り切り
先祖たちが残した魔法記録をもとに地道に【魔法研究】を始めたのがアリエルの祖父・ガスパルだ。
ガスパルは魔法こそ使えないもののその仕組みの殆どを理解し、魔法の新しい可能性を見出そうと没頭した。
【長い詠唱が必要な魔法を簡易的な呪文で発動させる方法】
【古代魔法を復活させる方法】
【今までにない新しい魔道具の発明】 etc...
その研究成果は王家に高く評価され
一度は没落しかけたノートランド家だったが、現在の地位を築き上げるに至った。
僅かに現存する魔法使いの中に彼の名を知らないものはいない。
それだけ偉大な人物だったゆうことだ。
そんな家に生まれたアリエルは”普通の子供”では無かったものの
強い魔力を持って生まれたことは【始祖還り】とされ
異常な程な頭の良さは『流石ガスパル殿の孫だな!』で大方説明がついた。
それに比べてアリエルの両親は取り柄と言えば穏やかな性格ぐらいの平凡を絵に描いたような夫婦だったが、
自分たちに不釣り合いなほどに優秀過ぎる娘について誇りに思うことこそあれ疑問を持つことはなかった。
-しかし。
ある事件をキッカケに確信してしまうことになる。
《ああ…
この子は異常だ。
私たちの手にはとても負えない【悪魔の子】だったのだ…》
と。