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ノートランドの悪魔  作者: 春夏秋冬
第一章 悪魔と少年
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そして、悪魔と少年は。-前編-

※ランディ視点です。

「…あ、あれ?」


ーあれからどれ程の時間が経ったのだろう。

夜更かしにあまり慣れていない僕はいつの間にか眠りに落ちてしまっていた。


()()()()()様とお母様は…大丈夫かな。)


幸いにも僕が眠っていた間、誰かがこの部屋には近づいた気配はない。

一先(ひとま)ずはほっ、と胸を撫で下ろす。


暫くは警戒して周囲をキョロキョロと見廻したが

相変わらずの静寂に自然と僕の視線はお母様の部屋へと戻った。


(正直、今この部屋の中でどんな治療(こと)が行われているのか気にならない、と言えば嘘になるけど…)


目の前の扉をそっと開けて覗き見ることは実に容易い。


(少しだけなら…)


ーなんて。好奇心が悪戯に囁きかけてくる。


…が。

それはあまりにも天使様に対して不誠実な気がして(はばか)られた。


(そもそも…天使様は誰にも治療しているところは見られたくない、と仰っていたし…)


ーもしかしたら【天界の厳しい戒律】でもあるのかもしれない。

人間に無闇矢鱈に正体を知られたり、【聖なる力】を使ってるところを見られてしまったら掟を破った罪で神様に罰せられてしまう、とか。


(…そんなの絶対にダメだっ!!)


頭をブンブン横に振りながら

やはり覗くのは止めよう、と固く決意する。


(…それに。)


視線は自身の手のひらへと流れる。


(僕の両手をぎゅっと握り締め

『大丈夫だよ』と優しく言葉を掛けて下さった時の…

ーあの瞳。)


瞬きすることすら惜しいと思う程に綺麗で……



…ーもの凄い熾烈だった。




天使様が必ず僕の願いを叶えてくださるのだと。

そう、確信せざるを得ないような…強い力を感じた。


あの刺すような瞳が今も脳裏に灼き付いて離れない…


(…だから。僕が今、出来ることは信じて待つ事だけ。)


ーただ。


ただ、それとは別にひとつだけ。

気がかりなことがあって…


(天使様は僕の願いを叶えてくれたらその後…一体どうするのだろうか)


天界に戻られてしまう?

それとも、救いを求めている他の誰かの処へと行ってしまう?

どちらにせよ、長く引き留めてはいけない様な…そんな気がした。


それなのに…《ずっとそばにいて欲しい》、という矛盾した考えが生じる。

どうしてそう強く思うのか、自分でも不思議だ。


…いや、彼女は僕の救世主なのだから執着してしまうのは存外普通のことかもしれないけれど。


「っあぁ!なんだかすっごく落ち着かない!!」


お母様のことよりもこちらの問題の方がずっと気になっている自分がいる。


(とにかく…

天使様が戻られたらたくさんたくさんお礼を言わなければ…!!


ううん、言うだけじゃなくて僕も何か天使様のために出来る事をしよう!


そして許されるのなら、少しでも長く一緒に…)



「…ランディ?」


ーそんな風にあれこれ思いを巡らせていた僕の背後はそれはもう隙だらけで。


突然に掛けられた声に「ひゃああああっ」と情けなくも大声を上げ仰天し、そのまま尻餅をついてしまった。


慌てて振り向けば固く閉ざされていた部屋の扉が無造作に開いている。


そして、そこには…


「お、母様…?」


(…っ凄い!!暗がりでも分かるほどに顔色がいい。

それに…お母様が一人で立っている姿を見るのはいつぶりだろう…!!)


「…っ」


感動でうまく言葉が続かない。


(治ったんだ…!本当に本当に天使様が治して下さったんだ!!)


あまりにも嬉しくて目頭がカッと熱くなる。

さっき尻餅ついた時のお尻がまだ痛いから夢じゃない、と確信する。


…でも、なんだろう。何かがおかしい。


お母様の表情は長年苦しめられた病からようやく解き放たれた、とはとても思えないほどに沈んでいた。


《ーもし、お母様の病気が治ったら

その胸に飛び込んで思いっきり甘えたい。》


今日までそんなことを何度も何度も思い描いて来た。


それが今、たしかに現実となったのに…

実際は手も足もその場で硬直したままだ。


元気そうなお母様の姿を見て感動したのも束の間、

手放しで喜んではいけないのだ、という空気だけが2人の間に重苦しく漂っていた。



…ーあ。そういえば…天使様はどうしたんだろう?



(たしか…

天使様はお母様が寝ている間に全てを終わらせる、と仰っていた筈だけど…

でも今、お母様は起きているし…あれ?)


「…ランディ。あのね、よく聞いてー…」


お母様の口から発せられた言葉は

その瞬間(とき)僕の耳にはもう、届かなかった。


五感の中の視覚だけがやけに鮮明で。

それ以外受け付ける事を拒否する。


ふいにお母様がその細い身体で僕をそっと抱き締めたが

どうにも反応することが出来なかった。


その場で凍てついたように立ち尽くした僕は…


扉の向こう側で力なく横たわる少女の姿をただただ呆然と見つめていた。

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