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ノートランドの悪魔  作者: 春夏秋冬
第一章 悪魔と少年
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悪魔は約束を果たす

「…《身代わり》、ですか?」


(誰、の)

…なんて分かりきっている。


セレーナ様が《身代わり》になってまで護りたい人物で国王が恐れる王家の正当な血筋…


そんなの1人しかいない。


「…ランディの?」


思わず口を衝いて出たその言葉にセレーナはゆっくりと頷いた。


「…ちょ、ちょっと待ってください!!

だとしてもこのまま【呪い】を引き受けることに何の意味が?


ランディを護るためだと言っても

結局は根本的な解決にはなりませんよね?


国王陛下がどのような方かは存じ上げませんがセレーナ様を亡き者にしたからと言って

果たしてランディのことを諦めるんでしょうか…?」


「…そうね。諦めないでしょうね。」


「でしたらっ…!」


アリエルの声には自然と熱が籠ったが

セレーナはまったく動じずただ淡々と話を続ける。


「…私が《身代わり》になることで稼ぎたいのは【時間】。


実際【呪い】をこの身に受けてからもう5年の月日が経つわ。

ランディも今年で8歳。

近い内に…彼にも【先読み】の力が目覚めるでしょう。」


(…そうか。【先読み】の力があればランディも【呪い】を始めとする身の危険から自身を守れる、ということね…)


「少なくとも私が【呪い】を受けている間にルキウスが動くことはないわ。

いくら一国の主人(あるじ)とはいえ【呪い】なんて危険なものはそう何度も使えない。


…それに下手に動くことでこんな下らない暗殺計画が明るみに出ることを()()()自身望んではいないでしょうからね。」


(…要はセレーナ様が【呪い】に苦しみながらも生き長らえている間はランディの無事が保証されるってこと?

その間にランディが【先読み】の力を覚醒してさえくれればセレーナ様にとって万事解決…?)


…でも。


どうしたって腑には落ちなかった。

もはやどれほど呆れられようが、しつこいと思われようが関係はない。


「でも…それでも【呪い】を解いてはいけませんか?」


(セレーナ様だって悩みに悩み抜いて出した結論だろうけど…それが”最善”だとは思えないよ)


「たしかに…【呪い】を解けば国王陛下がまた新たな計画を企てるかもしれないですが…

その時、セレーナ様がお側にいれば何度だってランディを助けてあげられますよね?


そのうちにランディも自身の危機を回避できるようになるんでしょうし…」


しかしセレーナは静かに首を横に振った。

この提案のどこに問題があるのだろうか。


(もしかして…)


「…もしかして私が失敗する未来でも視られたのでしょうか?」


気付けばひどく喉が渇いているような気がした。

この緊張感は一体どこから来るのだろうか…


目の前の公爵夫人は先程からずっと穏やかに微笑むが

その心中まで察することはアリエルには難しかった。


「いいえ。貴女は失敗しないわ。

ただね…”貴女が私を救おうとする未来”はどんな結末になっても貴女にとって最悪よ」


「…最悪、ですか?」

(…まぁたしかにそうかもしれない。)


でもそんなこと最初からある程度承知の上でここにいるのだ。


「…貴女のその若き才能の芽を私が今ここで摘む訳にはいかないの。

できればこのまま私のことは見逃して頂戴。


ーそしていつか貴女の力が()()()()()()時。

その時にもし…今日、この日のことを憶えていてくれたなら…ランドルフを助けてくれると嬉しいわ。」


…ー言いたいことは分かる。


何せ公爵夫人(このひと)は未来を見据えた上でこう言っているのだ。

きっとランディにとっても私にとってもその選択の方が間違いないんだろう。


(セレーナ様は私と会いたくなかったんだろうな…だから”勘違いであって欲しかった”と言ったんだ。


たぶん…このままランカストル公にもランディにも悟られず静かにこの運命を受け入れて果てたかったんだ。


そして…私には今この時じゃなくてもっとランディが危機的状況に置かれた時に力を貸すことを望んでる…)


どうするべきか…なんて愚問だ。

アリエルはその大きな瞳を隠すように瞼をすっと閉じた。

…それから暫くの沈黙ののち


「……分かりました。」


とだけ小さく答えた。


「…っ!分かってくれて良かった!

私のために貴女が犠牲になる必要はないもの。

もしかしたらランディは悲しむかもしれないけど私がうまく説明しておくから。」


セレーナはアリエルのその一言に心底安堵した様子で先ほど迄の静かな微笑みとは違った色のある無邪気な笑顔を見せた。


(私には犠牲になるな、と言うけど…この人は大切な人の未来のために自分が犠牲になることに全く抵抗がないんだな…)


「貴女にもいろいろと事情があるんでしょ?良かったら暫く安全に身を寄せられる場所をいくつか紹介して…


…アリエル、さん?」


アリエルは俯いたまま一切こちらを見ない。

その感情は無念かまたもや憤りか…


セレーナはそっとその震える肩に折れそうな程繊細な手を置いた。


「…大丈夫?」

と問いかけた瞬間、カッと閃光が走り

何本もの光柱が身体を貫いた。


はっ、と気付いた時にはもう遅く

そのか細い身体は小さな少女に目一杯力強く抱き留められていた。


「…事情はよーく分かりました。

ですがっ!!セレーナ様がセレーナ様の未来をご自分で選んだように

私も私の未来は自分で選びます!!」


その少女はまるで眠れる獅子が覚醒したかのような鋭い眼光を向ける。


(あぁ…やはり、この未来は避けられなかったのね…)


セレーナもその爆発的な輝きの前では実に無力で

ただ静かに目を閉じることしか出来なかった。


アリエルはその間にも容赦なくセレーナの体内に魔力を注ぎ込みその複雑に絡み合った【呪い】の鎖をひとつひとつ丁寧に(ほど)いていった。

5年分育った【呪い】はあまりにもセレーナの身体を

侵食し同化ていてどこまでが彼女の身体でどこからが駆逐対象か判別に困難を極めた。

これらを全て解いていくのは途方もないことにすら思える…。


(…でもセレーナ様は言った。”貴女は失敗しない”、と。)


その時にアリエルの答えは揺るがないものに変わったのだ。

失敗しないなら何を恐れる必要がある?


(…だって約束したんだもん。先にランディと)

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