プロローグ 一人の兄
──こりゃあもうダメだな
柄にもなく、そう思ってしまう。体中から血がでる。一瞬でグシャグシャにひしゃげた、胴体、右足、左足、右腕はもう感覚がない。顔面の右側が熱い。潰れている。
──辛くない
まるで他人事のように感じられる。自分がこの体が潰れているのに映画やモニターで自分の姿を見るように思う。いたって冷静だ。たんすに足の小指をぶつける方がもっと動揺する。
──周也は大丈夫かな?あいつはもっと生きなくてはならない。
──俺より優秀で、俺より友達がいて、俺より強くて、俺より笑っていた。
隣にいるはずの俺の弟……あいつには負けっぱなしだった。いつか、いつか勝ちたいと思っていた。
寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い
意識が薄れる、左目だけの視界がぼやけていく。歪むいびつな世界は薄くなり、恐怖を感じていく。
涙が流れる。さらに見えなくなる。涙なんて何年ぶりだろう、、、、、
もう見ることもできない。暗闇の中、もう会うこともない自分の弟に「さようなら」といいたくない。
ありえない可能性に願いを込めて、
───またな、周也……
この瞬間俺は死んだ。