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003

「はぁ〜。気持ちいいっ!」


ふわふわしたベッドの上に腰をかけると、エリスは空を届けようとするように四肢を延して、盛大な欠伸をこぼす。一見だけで結構疲れていることがわかる。朝早起きして、何時間も何も食べずにここまで来たからには、だいぶ疲れているに違いないから。


「なかなかいい部屋だな。ね、妹よ?」


そう聞かれて、リラはお姉ちゃんの隣に大の字に横たわると、気持ちよさそうな笑顔を作りながら答える。


「うん、ベッドもふわふわし、陽当たりもいい。ここ、好きかも」


「でしょ。故郷のアナシテェジアよりも?」

「そこまで言ってないんだけど」

「でも違うか?」


エリスが聞くと、リラは少し悩む。

すると数秒後。


「……まあ、違うっていうかそうじゃないかも。言うまでもなく私、アナシテェジアが大好き。だって、故郷だもん。でもここ……えっとなんだっけ?」

「ロズランド?」

「そそ。ロズランド。ここって生まれ育ちのアナシテェジアとは全く別のとこなんで、ここにいるとなんとか、新鮮(?)な感じになる」

「それわかる。超わかる」


エリスが言う。するとリラは上半身を起こし、窓の外を見やる。窓ガラス越に数え切れない程の背の高い建物が聳え立ち、大通りを行き来する人の輪郭も枚挙にいとまがない。やはりアナシテェジアは、こんな凄い都市とは比べ物にならない。なんとリラは思っていたが、思っていたからとって生まれ育ちの故郷が嫌いという訳じゃない。死ぬ程大好きと言ってもいいくらいアナシテェジアが好き。でも時として、環境の変化はいいものだ。


「そろそろ朝飯の時間だな、リラ」


隣から、お姉ちゃんのエリスの声が聞こえた。それを聞いたリラはエリスに目を向けるとひとつ頷いた。


「そうだな。お姉さん、まだ出来てないのかな」

「いや、出来てるでしょ? なんかいい匂いがするんですけど」


確かに、と空気をくんくんするリラ。するとその時に、「グルルル」と咆哮が聞こえた。


妹の腹の咆哮を聞いたエリスは、急に笑い出した。お姉ちゃんの反応に、リラは恥ずかしそうに頭を下げると、頬をふくらせる。


「笑わないでよ」

「ごめんごめん」


そんなやり取りを交わすと、落ち着くエリス。


「とりあえず食いに行こうか。アイザックのバカのせいで朝早起きして全然何も食べてないわ」

「こっちも」


そう言うと、ベッドから立ち上がり、部屋を跨ぐ。すると扉を開け、二人は部屋から出て、階段を下りる。



【アイザックの視点】


アイザックは薬屋から出ると、溜息をもらす。相変わらず大通りは人に覆われて、行先が見づらい。それにもかかわらず、アイザックはなんとか人混みを抜けて、開けた道に出た。


(さてと、これからどうするかな?)


魔物避けポーションの10個を売れたら、なんと金貨20枚アンズを手に入れた。ポーションの質は高かった上に、かなり珍貴だからそうなったとアスカは言ったんだ。その為にアイザックはお金をいっぱいもらって、夥しい量の材料も手に入れた。


腕時計を一瞥するとかなりの時間が残っているみたい。時刻は2時15分。待ち合わせ時間は3時。今からぴったり半時間だ。それを考慮すると、アイザックはあんまり遠くに行くことに気をつけると、歩いていく。


(まあ、とりあえず飯でも食うか? こっちはまだ朝飯食ってないし、腹がすげぇ鳴いてる)


そんなことを決めるとアイザックは見回す。


(なんかいい店ないかな)


と、そう悩むと、突然、小さな何かが彼にぶつかった。倒れそうになったアイザックはすぐ、姿勢を正すと、小さな何かの方へと目をやる。


「おい、ちょ……ちょっと待って!」


でもその小さな何かが逃げ足を止めずに、どこか遠くにその姿を消した。それを見ると、チェと舌打ちするアイザックだった。すると頭を揉みながら、踵を返す。………と、そこで何かが欠けていることに気づいた。目を大きく見開いてポケットを軽くたたいて調べると、やはりない。さっきまでポケットの中の銭袋がない。


「え」


と、そんな間抜けな声を出す。


「もしかしてすり………でしたか?」



(追いかけてるかな、あいつ)


そう考えると、振り返る少女。そこには人がたくさんいるが、「あいつ」の姿がないみたい。それを確認すると、少女は一息をつく。すると再び、前に目を向ける。


(追いかけてないみたい。よし)



黒髪ショートに、赤い瞳。年齢は15、6歳といったところで、身長は153センチくらい。傍観者の視点からすると、とても可愛いらしい少女だ。スタイルがいい上に、顔立ちはとても整えている。


そんな可愛いらしい少女は人にぶつからないように気をつけて、道を進む。

でも決して、その逃げ足をあえて止めなかった。

「あいつ」の姿が見えないからとって、必ずしもいないとは限りないから。足が遅いかも。そんな可能性はある上に高い。なぜなら「あいつ」が着ていたその服装からすると、明らかに魔術師(?)的な存在だった。察知魔法でも使って簡単に見つけられる、そんなことを考えるだけで震えざるを得ない少女だが、やはりこの状況ではそうじゃないと祈るしかできない。


少女は全力で、右に曲がる。そしてその時に、久々に痛みを味わった。


尻餅つき、少女は頭痛を抑える為に額に手を置いた。そしてその時、聞き覚えのない声が聞こえた。


「いてぇなぁ」


その声が言う。声色からすると、相手が男性だった。しかもめっちゃ怒っているみたい。早く立ち去らなせば、なんと、そんなことを思うと、少女が素早く立ち上がると、


「おい、クソガキ」


怒っている男性が手首を捕まえた。


「どこ行くつもりなんだ?」


そしてそんなことを言う。

どんなに藻掻いても、少女が男性の握りから抜け出すことができない。


そして目の前の藻掻く少女を見ると、男性はいやらしい目で少女に微笑みかける。





「エリスとリラ視点」


「はぁ〜、美味しかった~」

「うん、めっちゃ美味かった」


食事を食い終わったエリスとリラは、安堵の溜息をもらす。サンドイッチらしき物とスープ、そしてサラダが運ばれてきた。パンが少し固かったけど、やはり朝から何も食べていない二人にその味は充分満足できる味で、美味かった。


「お二人さん、満腹したか?」


お姉ちゃんが言ってくる。それにエリスとリラは視線を交わすと、満面の笑みで返事をした。


「うん、とても美味しかった……えっと?」


と、そこで、リラは訝しげな顔をする。すると聞く。


「ごめん、名前は聞いてなかったんです」


彼女の言葉に、お姉ちゃんは微笑みかけると、返事する。


「アレナだよ」


「あ、アレナさん。食事ありがとうございます」


それにアレナと呼ぼれるお姉ちゃんが「いえいえ。あんたたち、大切なお客様だから」と、答える。


すると二人の皿を手に取ると、問いかける。


「ちなみに、これからどうする?」


その質問を答えたのは、エリスだった。


「さあ、どうするかな。多分、散歩でもするか。どう思う、妹よ?」


エリスはリラに聞く。

お姉ちゃんの質問に、リラは微笑みながら頷く。


「うん、ナイスアイデア」


それにアレナは言う。


「あ、散歩か。それはいいなぁ。あたしも散歩してみたいけど、やはり宿屋の唯一の店員としてなかなかできないわ」


それを聞いて、エリスは「なるほどなるほど」と言わんばかりに頷く。


「大変だな」

「まぁな」


そう返事すると、アレナは微笑む。


「まあでも、楽しくないとは言ってないんだけどね」「そうですよね」


と、他愛ない言葉を交わす三人。


「さて、そろそろ皿洗いをしますか。お二人、散歩楽しんでくれ。あたしのためにも」


と、アレナは言う。


それに、エリスは「はいよ、任せとけ」と返事をすると、リラとともに立ち上がった。


「そんなじゃあ、行ってくる」

「はいよ、いってらしゃい」


そう別れの挨拶を交わすと、エリスとリラは宿屋を後にした。



【アイザック視点】


アイザックは大通りを走っている。息遣いが荒く、足もかなり痛くなっているが、それでも彼は走っている。さっきの少女は、やばい状況に巻き込まれているから。察知魔法で、アイザックは少女の気配を感じ取った。だから銭袋が盗まれた時に慌てずに冷静に状況を考慮した。


察知魔法は基本、音波探知機の仕組みを真似する魔法である。例えどんな生き物でも、必ず音を出す。普段はその音が小さくて、動物ぐらいしか聞こえない音だが、察知魔法を経てその効果が強化され、人間でも聞こえるようになるくらい大きくなる。


でもどうして、少女はやばい状況に巻き込まれていることを知っている? それは初めて会ったときに、少女の体の中、特に心臓の鼓動はとても激しかったからだ。間違いなく少女は直接に心臓を襲う病気、あるいは異常状態にかかった。その為に心臓が不明な【敵】を排除する為に、必死に反撃している。その心臓がいま、ありえないほど激しくなっていたのだ。


間に合わないと、少女は確実に死ぬ。だからやばい状況に巻き込まれていることを知っている。でも一体、何が起こっているか、アイザックは全くわからない。魔物に出くわした? 否。そんなことはない。だって、都市にいるから。ロズランド都市は他の都市や迷宮都市と同じ、高い壁に囲まれている上に、見張っている兵士団がいる。きっと兵士団でも魔物を討伐できる。


つまり少女のストレスを引き起こしているのは、都市内の何者だ。それに違いない。そう結論を付けたアイザックは息を吸って、吐き出す。これを何回も繰り返すと、やっと冷静を取り戻した。とりあえず、目標に集中しよう。そしてそれは、少女を救うことだ。


少女の元を目指して、アイザックは魔力を足元に練り込んで少しだけ、速度をあげる。これで間に合うでしょ?


そう祈りながら、アイザックはその足を止めることなく、走っていく。何が起こっているのかわからないのだとしても、彼は確信していた。少女を必ず救ってみせると、確信していたのだ。



【リラとエリス視点】


と同様に、宿屋を後にしたリラとエリスは、駄弁りしながら大通りを歩いているところだ。


「え、それ本当ですか?」


声を上げながら視線をお姉ちゃんに向けるリラは聞いた。リラは明らかに、エリスの言っていることにすごく感動され、続きを聞きたいように耳を立てる。


「うん、本当よ、妹。だから男ってバカって言ったでしょ。リラももっと気をつけた方がいいとお姉ちゃんは思ってるんだ」


なんで偉そうな声色。それでもリラの目はきらきらと輝く。


「うん、わかりました」


と、そこで、


「……やめ………」


近くの裏路地から少女の声と、誰かの呻きが漏れてくる。


「誰か……たす……助けて。犯され………」


と、そこで世界はまるで止まった。


何も聞こえない。

何も動いていない。


時間に止まっていた、残酷な世界。


そして、その瞬間、世界は真っ赤に包まれた。目を細め、エリスは腰に携える剣を一挙に抜け出し、躊躇わずに裏路地に入っていた。



「姉………ちゃん?」


と、リラは枝を手に、お姉ちゃんのあとについていく。何が起こっているか、わからないみたい。でもお姉ちゃんの表情からすると、何かよくないことが起こっている。お姉ちゃんの表情からすると、今日この日、誰かが死ぬ、ということを知っている。


なぜなら、いつも魔物と対峙している時にお姉ちゃんの目つきが鋭い。今と同じ。そのお姉ちゃんの顔を見ると、震えざるを得ないリラ。やはりお姉ちゃんがこうなると、誰かが死ななければならない。その一瞬、リラは悲しみに包まれた。だがその悲しみは儚く、次の瞬間に圧倒的な恐怖に押し付けられた。


「え」と、そんな間抜けな声を出すと、顔を上げるリラ。するとそこに屋根の上に佇み、禍々しいオーラと圧倒的な魔力に包まれているアイザックの姿が見えてくる。


「アイザック……さん?」

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