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002

ロズランドに入ることが許可されたアイザックたちは装甲馬車を他の装甲馬車のある場所に馬車を置いて、今は大通りを歩いている。これから何をすればいいか、それを決めているところである。


「宿屋でも探した方がいいと思うよ」


エリスの提案に、アイザックは首を振る。


「まあ、僕はまだ魔物避けポーションの数瓶を持っているから必要品の買い物を兼ねて売りに行きたいと思う」


「却下……」


「いやでも」


「却下って言ってんだろう? 」


(どう考えても理不尽すぎやろ、それ)


そう思いながら、アイザックは次にリラに目を向ける。


「リラは? どうすればいいか、もう決めたの?」


「えっと、私はどっちでもいいんですが」

「ほら、リラも宿屋を探したいって言ってるよ」

「いや、それ言ってないんだけど」


無表情な顔つきで、アイザックは言うと、エリスは頬を膨らせてそっぽを向く。


(いや本当に子供かよ、お前。と言っても、270歳の僕に子供ですけど)


「しかも、僕たちはまだ飯食ってないから、やはり散歩しながら食えばいい」

「宿屋で食事取れるのに」


(子供は黙てろ。でもまあ確かに……)


「えっとじゃあ、」


リラはが言い出すと、エリスとアイザックは彼女に目を向ける。


「私とエリスは宿屋を探しに、アイザックは魔物避けポーションを売りに行くのってどうですか?」


そう聞かれて、エリスの目がきらきらと輝く。


「あ、それいいわ」

「うん、確かに悪くは無い提案だな」


「じゃあ、これでお決まりですね」

と、そこでアイザックは、あることに気づいた。

「いや待って」

そう言われて、エリスは不満そうな顔をすると、アイザックに睨みつける。


「待ち合わせ場所は? 初めてこの都市に来たから、分かれたら道に迷うに違いない」


「そ、そうですね」


リラは言うと、なにか探しているか周りを見回す。


すると30秒後。


「じゃあ、あっちは?」


前に指差すリラ。


あちらに目をやると、広場があり、そしてその広場の中央には石造りの噴水がある。


「うん、あれなら大丈夫。見逃しづらい場所だからさ」


「……うんじゃあ、私たちはここで。待ち合わせ時間はそうだな……まあ、3時にしようか?」


「わかった」


そんなことを言うと、三人は解散した。



【アイザック視点】



アイザックは大通りを歩きながら注意深く景色を眺めている。まるでうろうろしている子供のようだ。


(考えれば今の僕の姿は通りすがりの人に結構怪しそうに見えるのだと思うけど、まあ、そりゃぶっちゃけどうでもいい)


さて、せっかく新たな場所を発見したから、まずはポーションや素材、インベントリにある要らないものを全部売りに行くとしよう。


そう決めると、アイザックは周りを見回す。すでに繁華街にいることがわかった。周りを観察すれば鍛冶屋や雑貨屋、冒険者ギルドまではここにあるから。


でも見渡す限り、薬屋的な建物が見えない。とりあえず、前に進もう。


そう頭の中で決めると、アイザックは薬屋を目指して歩き始めた。


そして2時間後。


人混みの中を、彼は歩いている。まるで海に溺れているかのよう、ほとんど息が出来ず、光を掴まうとするように手を伸ばすけど、決して届けない。っていう状況である。薬屋へと辿り着いたアイザックは、四方を人に囲まれている。薬屋はすぐ目の前にあるのに。


腕時計を一瞥すると、すでに午後3時を回っていたところだ。そろそろ用事を済ませないと、待ち合わせ時間に間に合わないよな。そう考えると、しばらくしてやっと薬屋へと着いた。慎ましいサイズの建物だった。その建物に入った瞬間、鼻孔が不思議な匂いに襲われた。


(いい匂いがするね。これは確か、イゼンという、主に耐性や強化ポーションに利用される材料だな)


それはさておき、背の高い棚が並んでいて、その一つ一つにポーションや素材が所狭しと陳列されている。さすがは薬屋だな。こんなにたくさんのポーションや素材を集めるなんて驚異的と言わざるを得ない。


アイザックはカウンターに近づいた。店員がまだ彼の存在に気づいていないようにポーションの合成に集中し続けている。


それを見てアイザックは彼女が作っているポーションをすぐに把握した。


「魔法耐性強化ポーションだな。しかもかなりの上質」


アイザックの言葉を聞いて、少女はアイザックの存在にやっと気くと、擂り鉢と擂粉木から目を逸らしてこっちを見やる。


驚いているみたい。


「あ、すみません。チャイム聞きませんでした」


そう深く頭を下げながら、薬屋さんは謝った。

それにアイザックは「いえいえ」と微笑みながら手を振り、軽く受け流す。


頭を上げ、再びこっちに見やる薬屋さん。


店の薄明かりに包まれて、彼女のその肌が月の光を浴びる雪のように白くキラキラしている。背中まで伸びた艶々とした黒髪が、体の動きに合わせてゆらゆら揺れる。そしてその、空より青い目。深く青い深淵に吸い込まれるかのように、アイザックの魂がその時、その瞬間、彼女に奪われた。


「何かお探しですか?」


薬屋さんの声を受け、アイザックは我に返り、「あ、はい」と、言った。「魔物避けのポーションを売りに来ましたよ」


それを聞いて「なるほどなるほど」と頷く薬屋さん。それにアイザックは腰に巻かれているポーチを開いてしばらくあさると、魔物避けのポーションを見つけてとりあえず1個を手に取った。


「これはどうかな」と、薬屋さんに手渡すと、薬屋さんはそれを手に取って【鑑定眼】というスキルを発動した。しばらくすると、満足げに頷く店員。


「いいなこれ。流石は上級薬剤師だな」


(上級薬剤師か? それは錬金術師ってこと?)


実の所、アイザックは本当に薬屋さんを正したいが、我慢することにした。


「薬屋さんこそ。さっきの魔法耐性強化ポーションを見るだけで上級質だとわかったから」


そう言われると、なぜか薬屋さんの顔が真っ赤に染まった。


「いえいえ。私はまだ初心者ですから」


(え? そんなわけないだろ?)


「初心者……ですか」


アイザックの言葉に、薬屋さんは頷く。


「はい。実を言うと、合成や錬成を練習し始めたのはつい先月だから、まだあんまりよくわからないんです」


「なのにそこまで合成出来る? 嘘にも程があるぞ」


「だから嘘じゃないですっ!」


彼女の反応を見て、微笑むアイザック。


(それはさておき、そろそろ本題に戻るか)


「あ、魔物避けポーションは10個くらい作っちゃったんだけど、いいかな」

「いや、それは全然大丈夫ですよ」


(意外といいやつだな、この人)


そう思いながら再びポーチに手を入れ、残りの魔物避けのポーションを一個ずつ手に取り、カウンターの上に置いた。.


と、その次の瞬間、


「あ、ちなみに私はアスカと申します。あなたは? よかったら名前を教えてくれないですか」


目の前の女の子が急に言った。呆気に取られたアイザックだったが、我に返って、自分の名前を教えることにした。


「はじめまして、僕はアイザックと申す者です。これからよろしく頼む、アスカさん」


「うん、こちらこそよろしくお願いします、アイザックさん」


そう恭しく頭を下げながら言うアスカという名前の子。


それを見るとアイザックは、「うん」と言い返すのだった。



【エリスとリラの視点】


「ここはいいかな」


アイザックと分かれてから、約一時間後。エリスとリラはやっと、宿屋を見つけた。宿屋の前に看板があり、そしてその看板に【双月】が書いてある。


「とりあえず入りましょうか、お姉ちゃん?」

「うーん、入るとするか」


そう言うと、二人は宿屋に入った。

両開きの扉をくぐると、一階は酒場というか食堂らしき感じになっていて右手にカウンター、左手に階段が見える。


「いらっしゃーい。食事ですか。それともお泊まりで?」


カウンターにいたお姉さんが声をかけてくる。赤毛のセミロング髪で、溌剌とした感じの人だ。年齢は二十歳前後というところか。


「えっと、宿泊をお願いしたいんですが、一泊いくらになりますか?」


リラが聞いた。


「うちは一泊、朝昼晩食事付きで銅貨二枚アンズだよ。もちろん、前払いでね」


なるほどなるほど、と言わんばかりに頷くエリス。


「えっと、姉ちゃん」


リラの声に、頷くのをやめるエリス。そのエリスが視線を妹に向ける。


「どのくらいロズランドに滞在するの?」


「うーん」


と、腕を組んで考え込むエリス。すると、「さあ、わかんねぇー」と、そんなことを言った。


お姉ちゃんの言葉にリラは汗を滴る。すると再び前を向け、カウンターのお姉さんに言う。


「とりあえず1泊でお願いします」


「はいよ。お二人さんだけ?」


「いえ、もう一人がいますよ」


「そうかそうか」


そう言って、記録する。そして再びこっちに視線をやって尋ねてくる。


「えっと、三人で一室ですか?」


それにリラは首を振る。


「いえ、出来れば三人で二室でお願いします」


「はい、わかりました。あとお客様の名前」


「えっと、エリスにリラ、あとアイザックという名前の人物です」


「うんうん」


そう頷いて記録すると、お姉さんは、どこからか鍵の二個を取り出して差し伸べる。


「じゃあこれが部屋の鍵ね。無くさないように。場所は三階の一番奥の三室。トイレと浴場は一階、食事はここでね。あ、どうする? お昼食べる?」


「あ、お願いします。朝からなにも食べてないもんで…」


「じゃあなにか軽いものを作るから待ってて。今のうちに部屋を確認してひと休みしてきたらいいわ」


「わかりました」


そう言うと鍵を受け取るリラ。そして念の為に金貨一枚アンズをカウンターに置いた。


「え? これ多くない?」


「大丈夫ですよ。ここにどのくらい滞在するのってわからないからです」


「あ、ああ」


そんな間抜けな声色で言い返すカウンターのお姉さん。


「では」と、リラは恭しく頭を下げたあと、エリスとともに階段を上る。



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