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不老不死になった錬金術師には居場所が無いので、旅に出たいと思います  作者: 鏡つかさ
プロローグ 【200年の帰還】
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※4/26 改正しました

世界の貿易業界と言われている迷宮都市、アンブローズはかつてエンジ王国として知られている。雲の上に聳え立つビルと大通り並みに咲き誇る幾つもの植物。それがエンジ王国だった。目の前の場所とは大違う。言うまでもなく、目の前にはエンジ王国じゃなく、迷宮都市アンブローズだ。エンジ王国の中心部に王城が位置しており、王城の周りをぐるりと城壁が囲んでいた。でもアンブローズの中心部には複数の迷宮が立てられ、今でも多くの冒険者の輪郭がその迷宮を入出することが見える。


そう。エンジ王国の何処からでも見ることができた豪華絢爛な王城は跡形も無く、代わりにあの迷宮が位置されている。いつ変わったのか、アイザックは知らなかったが、200年間の眠り中に変わったに違いない。少なくとも、魔の森はそのままだった。魔物や幾つもの植物が生息する危険な森である。それが魔の森だ。あの危険な森を抜けて北へと道なりに進めば、アイゼン王国に到着するが、やはりエンジ王国がこんなに変わっていたなら、きっと他の国や都市も変わっていたんだ。


リラ曰く、迷宮都市アンブローズは4地区に分かれている。迷宮都市の北西部は穀倉地帯が広がっており、迷宮都市内部の北西地区は一般の市民が多く住んでいる地区である。反対側の南東部は繁華街で、今アイザックたちがいる地区だ。ここには様々な商店や飲食店、宿泊施設や冒険者ギルドがあり、冒険者を相手とする商業施設で賑わっている。


南西部は迷宮都市アンブローズを取り巻く山脈との距離が最も近いらしい。自然の影響で険しく造られた為、幾つもの鉱山が掘り出された。実際には、初めに掘り出された鉱山のお陰で迷宮都市アンブローズが世界の貿易業界となった。新たな発見という噂がどんどん広がるにつれ、世界各地から商人があの噂を確認する為にアンブローズに来て、本当だと知った瞬間に取引を開始した。


そして貴族街は、都市の北側に位置している。あそこにも迷宮都市を治める辺境伯家の城も建立されているそうだ。エリス曰く、迷宮の建設を命じたのはあの辺境伯家の太祖だったらしい。何の為にそんな事を命じたのか、アイザックは全くもってわからなかったが、過去は過去、今は今。例え止めようとしていも、流石にあの有名な錬金術師であるアイザック・クロスでもそんな権力がないから結局のところ、何も出来ないじゃない? それは今でも真実のままであり、圧倒的な現実である。



「着きましたよ」


リラの声に、アイザックはふっと我に返る。やっぱり考えすぎると、頭が痛くなる、なんと思いながら体を起こすと、周囲を見回す。目の前には一軒の建物があり、その建物の前に看板が置かれている。看板にはシャツとズボンの絵が幾つもある。


「ここは、服屋さん?」


アイザックが尋ねると、返事してくれたのはエリスだった。


「当然だろ? ほら入ろう」


そう言うと、リラとエリスは馬車から降りた。仕方ないとため息を漏らすアイザックだったが、馬車から降り、エリスとリラについていくと、服屋に入った。


「らっしゃい! あ、エリスにリラ! お二人とも、元気かなぁ」


(どうやらエリスとリラ、この迷宮都市の者じゃないのだとしても、かなりの人気者だな)


「こんにちは、アルメ爺さん」


「やあジジ」


そう挨拶を交わすと、カウンターの後ろに店主(?)のアルメは笑い出す。


(いやそこで笑うんかい?)


「で、今日何しに来たんだ? もしかして、服を買えにきた?」


アルメが尋ねると、リラは答えた。


「まあ、一応ですね」


「そうかそうか」と、頷くアルメ。


「ところで、そこに立ち尽くしている怪しい坊主は一体誰だ? 見ぬ顔だな。敵国の斥候か? それとも……」


「いやいや違うんだよ、ジジ」


鋭い視線をアイザックに向けているアルメはエリスの声を聞いたとき微笑むと、エリスとリラの方向に視線をやる。


「本当かい? 斥候の匂いがするぞ、こいつ。危険かもしれない 」


「いや、本当ですよ、アルメ爺さん。アイザックさんは敵じゃないです」


言ったのは、いつも丁寧であるリラだった。妹の言葉に口の悪いエリスは頷いた。


「ああ、リラの言う通りだ。もし斥候だったらとっくに殺したからだ」


そう言うと、可愛いらしくほほ笑みかける姉妹。


(ありがとう、リラ! 怖いけど 感謝するぜ、エリス! ってここ、お前の故郷じゃないって言ってたやん? もし僕が斥候だったらなんでこの迷宮都市の為に僕を殺すか? おかしいだろう?! どう考えてもおかしいだろう?!)


「まあ、リラとエリスが言うなら信じるわ」


(そしてお前、ちょろすぎね? 女の可愛さに捉われるなんて、流石に情けないにも程があるぞ?)


なんて思うアイザックだったが、やはりあえて言うと、殺される。絶対に。


「で、お前はアイザックっていう名前だったっけ? 俺の孫娘たちとなんで一緒なんだ?」


(え、本当に身内なのか? なんか、意外だな。……って、そんなどころじゃねぇ! こりゃかなりやばくないか? 魔の森の近くに僕を見つけたことがバレたら、こいつ、やっぱり斥候だ、なんてそんな出鱈目な推理で僕を殺そうとしてくるに違いないよな、このおっさん。なんで僕だけが死ねなきゃいかないんだ)


と、脳内で乱れるアイザックだったが、決して表に出さなかった。


それを聞いて、エリスは深く溜息をつく。


「もうそんなことはどうでもいいじゃねぇ?」


そう言うと、髪の毛に手を走らせる。孫娘の言葉に「でも……」と、言おうとするアルメだが、遮られた。


「それよりさ、ジジはこの店の店主だぞ? そんな口調でお客さんに接したら大変だろ? 店の評価 ・・・」


「わかったわかった」


慌てて手を振ってエリスを遮るアルメ。爺の反応を見て、エリスは偉そうに腕を組んで言う。


「本当に自分の間違いわかったのかしら。身の程を弁えろ、このクソジジ。ほら早く謝りなさい」


(どう考えても言い過ぎやろ)


「わかりました。ごめんなさい、エリスさま。二度としませんからどうかお許しを」


と、頭を下げながら謝るアルメ。


(ってお前、なんで嬉しそうな顔をしてんだ?)


ちなみにリラは楽しそうな笑みを浮かべている。


(お前もある程度まで狂ってるかな)


などなどとアイザックは思いながらバレないように小刻みに家族の三人から距離を取った。その動きを見たか、アルメは顔を上げ、若き錬金術師に目をやる。なんでそわそわしているのかわからないが、とにかく死にたいと言わんばかりの顔をしている。


「悪かったよ、ぼう……じゃなくて、アイザック……さん」


(苦しそうな顔をしてるな。こいつは本当に僕のこと嫌いだな? 今日会ったばかりなのに)


「いえいえ、大丈夫ですよ」


とりあえず謝罪を受けることにした。それを聞いてアルメはふん、と溜息を漏らす。


「で、新しい服を買いに来たのはお前だな。そのボロボロの服からするとわかるさ」

「まあ、それはそうですね。爆発に巻き込まれたらこうなっちまうもんね」

「爆発?」

「ああ。魔法の練習をしていて、思わず炎嵐という呪文に魔力を注ぎすぎてってさ」

「なるほどなるほど」

「まあ、森の中で練習していたから誰にも傷づけられなくて済む」

「だろうな」


(完全に嘘なんだけど。これで余計なことを言わずに済む)


「うん、気に入った」

「ん?」


(気に入ったって? じゃあさっきは一体なんなんだ? おっさんはもしかして双極性? 否、それ違うなあ)


「服はあっち」


そう言うと、後ろにある服を頷きで指してくれた。


「好きなほうを選ぶがよい。久しぶりにエリスとリラに会ったからちょっとあいつらと話したいな」


「はい、わかりました」


そう言い残すと、孫娘の元へと向けるおっさん。


(さてと、とうしたもんかな)



日が暮れると、世界は闇の中に飲まれている。その闇の中の透明な断層を滑るように風は音もなく流れ、大通りを行き来する人の姿も跡形もなく消えていく。夜の秋風に襲われ、アイザックは少しだけ震える。季節の中の好きな季節は秋と冬の二つというのに、とてもじゃないけど意外と寒さに敏感だ。リラが買ってくれた黒いマントに体を包み、アイザックは小さなあくびをする。


それを見ると、リラは優しく微笑むと隣のエリスに声をかける。


「姉ちゃん。今日宿屋に泊まろう」


リラの言葉を受け、エリスは妹にほほ笑みかける。


「うん、そうしよう。私も丁度眠くなってきた。あ、でもちょっと腹が減ったなぁ」


「じゃあ、お決まりですね。まずは夕食を取ります。すると夕食を食べ終わったら寝ます」


「うんうん、私も賛成」


いつも丁寧で優しいリラと、毒舌を誰にでも浴びせるが、意外と優しいエリス。その二人の交流を見ると微笑まざるを得ないアイザック。


「お二人とも、仲がいいんだな」


お互い話し合っている姉妹に声をかける。


「まあ、そりゃそうでしょ。あたしとリラは子供の頃からずっと一緒だったからさ」

「そうですよ。私、子供の頃に友達はいなかったが、お姉ちゃんはいたから全然寂しくはなかった」


「うーん」


「なんだ?」


「いや、何も。ただ、なんか羨ましいねーって思ってただけだよ」


「そうか? アイザックには兄弟姉妹はいないのか?」


「うん、だってガキの頃に両親が亡くなったから、作る余地なんかなかったんだ。僕はずっと一人だったよ」


アイザックの言葉を聞いたエリスとリラは少し落ち込む。それを見ると罪悪感に襲われるアイザックだった。


(なんとかしないと、)


「あ、でもお師匠さまはいたから大丈夫だったよ」


(そして師匠さまが亡くなった時に、僕はまた孤独になっちまった)


そう思うが、あえて言わなかった。


「それよりさ、」


話題を変えようとし、アイザックは急に言った。


「僕は決めた」


すると一瞬にして姉妹に目をやり、枚挙にいとまがない星に埋もれている夜空に浮かぶ月を見上げる。


「そろそろ旅を始めようかなと、思ってたんだ。だから明日は、旅に出る」


それを聞いて姉妹は目を大きく開く。眦からそんな反応を見ると、アイザックは続いた。


「だって前も言ったじゃん。この大陸をあんまり知らないから出来れば地理も習慣も学びたいなって」


そう言われて、三人の間に沈黙が続く。しばらくの間、世界は平和を味わったが、それも結局のところ、儚いことだった。そんな心地よい沈黙を破ったのは、アイザックだった。


「だから、アナシテェジアの街までよろしくね、エリス、リラ」


そう言うと彼は振り返って姉妹に優しくほほ笑みかけると、再び歩き出す。


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