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002

(とりあえず、深呼吸しよー)


と、そんなことを考えると、目をつぶるアイザック。平常心を取り戻した後、再び目を開くと、前へ視線をやる。


確かに目の前には、氷の王国が威厳に雲の上に聳え立っている。


幻想でも何でもない。


追憶の結晶の基本原則を知っている上に、1度は体験した事がある、あの結晶のその力を。しかしここへアイザックたちを引きずったのは、追憶の結晶ではなく、多分、みぞれの薬指に嵌めている指輪だった。もし、そうだったら間違いなく、追憶の結晶と同じ基本原則に従っているのだろ。


つまり、


(ここを脱出するには、帰還の結晶を探さないといかない)


そう。そもそも追憶の結晶は完全に魔法でできている。

破壊すると、確かに結晶に宿る魔法がなくなるが、使用中だったらそれのみならず、帰る手段も完全に消える。帰還の結晶と追憶の結晶が同じ要素でできているから、両方がないと発動しない。追憶の結晶が帰還の結晶に依存しているみたいに、帰還の結晶が追憶の結晶に依存しているというわけだ。


(でも帰還の結晶か。どうやって探せるんだろ)


アイザックは魔力を感じ取れる能力を持っているから見つけるのがちょっとだけ楽になるかもしれないが、氷の王国はとにかく大きい。しかしそれだけでなく、その国に住んでいる全ての者が例え魔法が使えなくても魔力がある。


即ち、探すのが大変だけど、帰還の結晶の場所をちゃんとピンポイントしたら見つけるのが簡単ってわけだ。


それはそれとして、何故か分からないが、アイザックはみぞれの薬指に嵌めている石を見る度に、なんとか複雑っていうか懐かしい感じになったんだ。まるで自分の存在感がその石に宿っているみたいな、そんな感じだった。


そう、違和感を感じながらアイザックはその指輪をじっと見つめると、何かに気づいた。


(あれ? よく見れば、あの破片って…もしかして実は追憶の結晶の破片だったりとか?)


考えれば考えるほと、その可能性が徐々に事実のように見えてくる。


(もしそうだったら、僕らが見つける前に誰かが、あそこの部屋にいたんだろ? それになんとか、追憶の結晶の破片を手に入れたんだ。死体はなかったってことは、多分、あの破片が発動して、ここへあの人も転送されたってわけだ。……いやでも、なぜ見つけたとき、あの部屋は封印されたのかな)


そう、頭を悩ませるアイザックだったが、みぞれの発言にようやく、我に返った。


「これから、どうするの?」


そして凄い罪悪感を感じた。


そう。これからの趨勢をちゃんと決めなきゃいけないんだ。

あの偽物の賢者の石の魔力を追うのって自分のイデアだったからか、凄い責任感を感じるアイザックだった。自分のせいでこんなことになっちゃったから、て。


「とりあえず、都市に入ろう。見た目によらず、ビルの中はかなり温かいので、情報収集兼ねて元の世界へ帰る手段を探す。もし、勘が当たったら、簡単にできることじゃないが、無理ではないってことが明らかになる」


そう言うと、アイザックは歩き始める。


凍った青空に、雪が降りながらも太陽が高く昇っている。

でも太陽が放っている紫外線、その温かさが全然感じられない。



(見張りは……いない? つまり入ってもいいんか、これ?)


もちろん、聞いてもアイザックは足取りを止めらず、門をくぐって都市に入った。見渡す限り、氷でできたビルがいくつかあり、大通りを歩いているのは夥しい数の人物。


(ここの人民だろ)


聞かずとも、そんなことがもうわかっている。


(やはりスノーエルフが多いね)


氷の国の歴史を知っているというのに、まだスノーエルフの圧倒的な数に驚愕していたアイザック。こんなに発展したよな。すげぇ、って感じ。彼女たちも同じことを思っているか、または今まで見たことの無い風景に驚愕しているのか、キョロキョロしている眼差しを止めることが出来あるまい。


(さて、宿屋でも探そうか。太陽の位置からすると、もうちょっとしたら昼になるのだろ。元の世界だと夜だった。つまり実質的に考えると、昨日から何も食べてない。あいつらもかなり疲弊しているだろ。まずは宿屋を見つけることだ。食事を取ったあと任務を開始する)


思うことを彼女たちに伝えたあと、歩き続けるアイザックたち。実際に、周りの人からかなりの視線を集めている。それは恐らく、アイザックたちが着ている服装が原因なのだろう。ここら辺にあんまり見かけない服装だから好奇心に満ち溢れる視線を集めるのしかたない。


視線を無視しつつ、大通りを歩く。するとやっと宿屋的なビルを見つける。看板には【ザ・ドゥランクン・エルフ=酔っ払っているエルフ】という文字が大きく飾っており、その文字の周りに幾つかのジョッキが描かれている。


「ここは……居酒屋?」


ふと、エリスがそんなことを口にした。


「私、未成年だから入っちゃダメって」


続いてみぞれが言う。素直だなぁ、みぞれちゃん 。


「まあまあ、とりあえず入ってみようか。中の様子を窺ってから後のことを考えよう。それに、みんな腹減ってるだろ? 居酒屋でも年齢気にせず飯ぐらいはくれるので。あ、お金は俺が払うから好きなのを食べてもよい」


とりあえず、提案してみるアイザック。


「お金は俺が払うってどうゆうこと? お前は確かあたしらと同じくお金ねぇだろ?」


と、エリスがそう言う。

それにアイザックは


「ふふふ」


と、皮肉めいた笑みを浮かべる。


「忘れたのか、エリス? 俺、錬金術師だよ? 錬金術は根本的に、卑金属から貴金属を錬成する術。つまり簡単に金属の構造を変えられる、もしくは作ることができるってわけ」


アイザックがそう得意げに言うと、一瞬納得したエリスだったが、そこで何かに気づき、アイザックに問いかける。


「自分のお金を作れるってこと? じゃあなんであのときお前のその服装とか購入しきゃいけなかったんだ、あたし達!? あとあれだろ! 冒険者ギルドの入場料も……」


「さあ、中に入りましょう!」


「おい、無視すんなコラ!」


その二人の、強いて言うなら滑稽なシーンを見て、ただただ苦笑いせざるを得ないみぞれとリラであった。



思っていた通り、中はかなり暖かった。

外部に比べて内部は心地よい感じを伝えてくる。古めかしい材木がビルの構造を造り上げていて、壁には幾つかの高そうな絵画が飾られている。

宿屋のド真ん中には石造りの暖炉までが据えられていて、その周りには客がたくさん占めている、木材でできたテーブルがいっぱいある。


入口から左側へ、数メートル離れているところには、受付らしきカウンターが設けられていて、その後ろに立っているのは、背中まで流れるように伸びている黒髪を持っている、麗しい女性である。その女性は今、賑やかな宿屋の中に目を通しているところだ。


やはり昼ともなると、飯や酒を求めて仕事からとうとう解放された人たちがここに集まり、一日中のストレスを発散させる為にその動きや口の利き方を縛り付けた枷を解き放つ。


宿屋では、かなりの数の人物が寄り集まって大声を出しながら、仲間や全く見知らぬ人と笑ったり、話したり、戯れ合ったりしている。その中、ここのとこの者だとアイザックは判断した女性たちがせっせと働いている。


食べ物がたくさん載っている食器やジョッキが幾つか置いてある大皿を運んで客に配っているのだが、露出度の高い服装を着ているからか、または飲みすぎた結果として酔っぱらっちゃったからか、ナンパしてくる客、(特に男性の方)が多かった。


それにもかかわらず、女性たちはその作り笑顔を崩すことなく、客の言葉を軽く受け流しながら仕事を続けていく。随分と落ち着いたような光景だけど、アイザックは何故か分からないが、突然な不安感に襲われていた。


「いらっしゃいませ」


とりあえず、その不安感を押し殺してカウンターに近寄るアイザックと後ろについてくる女の子たち。

ある範囲に入った瞬間、受付嬢がその鋭い視線をこっちに向けて定番の挨拶をしてくる。

どこか警戒しているような体勢だけど、アイザックはそれを無視して屈託のない笑みを浮かべて女性に話しかける。


「すいません、ここは宿屋ですよね? もし良けれは、泊めてもらってもいいですか? あと、昨日から全然何も食べなくて、今は凄く腹が減っていますから、食事付きで。あ、もちろん、お金を払いますから」


アイザックのその言葉を聞いて、しばらく目の前のグループを見つめる受付嬢。


ここは宿屋であることを知らない上に変な服装をしている。恐らく外国人。


というのが受付嬢の思考回路だった。


1番幼い子は気になっていたが、今の時点で大丈夫そうだからとりあえずほうっておくことにした。


「畏まりした。何泊されますか?」


受付嬢がそう聞くと、アイザックは考えるようなポーズを取った。しばらくそのままでいたが、数秒後やっと決めたからか、口を開いて語り出す。


「まあ、とりあえず1週間でいいですか?」

「1週間……ですか?」


脅かされたように受付嬢は怯んでから問い返す。

それを見てアイザックは少し目を細めた。


「そうですけど、ダメですか?」


と、そう言った。

すると受付嬢は首を振りながら答える。


「いやいや、だい……大丈夫です。お名前は?」


そう言うと、


「僕はアイザック。ロングヘアの子はエリス、ショートヘアの子はロングヘアの子の妹リラ。そしてこいつは……」


すぐ隣にいるみぞれに、アイザックは指差す。


「僕の娘、みぞれ。娘と僕は一室で、姉妹はもう一室で宜しいですか?」

「もちろんもちろん」


そう言うと、頷く受付嬢。するとその情報を書き記した後、カウンターの下に手を出し、その中から鍵を二つ取り出して目の前のグループに手渡した。


「えっと、お客さん。宿泊費は前払いですが……」

「あ、もちろんもちろん。1週間食事付きで幾らになりますか? 」


そう言うと、ポケットから結構太い銭袋を取り出すアイザック。それを見て、受付嬢は一瞬目を大きく見開いたが、その次の瞬間に紙切れをどこから取り出し、カウンターの上にある羽根ペンを手に取る。


羽根ペンのその先端をインク瓶に浸す。


「今計算しますから少々お待ちを」


受付嬢の言葉を聞いて頷くアイザック。するとこっそりと後ろに目を向ける。それを合図として承認し、エルスはポケットからコインを取り出し、アイザックに見せる。


しばらくエルスが持っているコインを詳察し、アイザックは手にある銭袋に魔法を流通し始める。


錬金術。


それはすべての錬金術師が共通している魔法である。錬金術の基本原則は色んな効果がついているポーションを作ることだけじゃなく、卑金属から貴金属へ変えるということも含まれている。しかしポーション作りとは違って、自らの魔法を使って金属の構造やその物質自体を編集できる。金属の構成分子を理解する限り、分解し、再構築することができる。つまり金属だけに限っているというわけじゃなく、どんな物にでも当てはまるということだ。


幸いなことに、すべてのコインは同じ素材でできている。それはアルミニウム、銅、スズ、亜鉛、そしてニッケル。つまりアイザックにやらなきゃいかないことは、その外見を編集することだけだ。それをするために、アイザックは自らの魔法をコインの表面上に流し、想像しているイメージに変えるだけ。


受付嬢が計算をし終えた瞬間、アイザックは銭袋にあるコインの編集をちょうど終えたところだ。


「お待ちしておりました。計算しました。7泊6日食事付きで1000ナリス(ここの通貨)になります。宜しいですか?」

「あ、全然大丈夫です」


そう言うと、アイザックは銭袋に手を入れ、銀貨10個を取り出し、受付嬢に手渡した。


それを受け取り、受付嬢は深く頭を下げて礼を言う。


「ありがとうございました。お客さんの部屋は2階の200と201号室です。部屋に案内されますか? それとも食事を取りますか?」


聞かれると、アイザックは答える。


「あ、はい。食事を取ります。ありがとうございます」


そう礼を言うアイザック。

彼の言葉に受付嬢は首を振って言う。


「いえいえ、仕事ですから」


するとカウンターの後ろから出てきて、空いているテーブルにアイザック達を案内した。テーブルは宿屋の片隅に位置している。周りには誰もが近くに居らず、強いて言うなら完全に疎遠のところにある。


(なんて都合のいい場所だな、ここ)


と、そんなことを思いつつ席に座るアイザック。


「こちらは今夜のメニューとなります」


テーブルの上に置いてあるメニューを指差す。


「もし食べたい物を決めたら、わたくし、もしくは他の女性たちに声をかけてください」


「はい。わかりました」


彼女の言葉にアイザックは言うと、受付嬢はもう一度頭を下げて言う。


「では、ごゆっくりどうぞ」


そう言い残すと、カウンターに戻る受付嬢。

彼女の遠ざかっている後ろ姿を細めた目で追いかけ、アイザックは真剣な顔で告げる。


「あの人、何を隠してるだろ。まるで、何かを恐れているみたい」


彼の言葉を聞いた女の子たちは何も言わずに、ただカウンターに戻ったまで、アイザックとともに静かに細めた目で受付嬢の後ろ姿を追いかけただけだ。

なんか、ちょっとあれなんっすけど(笑)お待ちしておりました。続きです。なんかちょっと再読してたんすけど、やっぱ最初はよかったな、っていうことを実際は思ってました。だからとりあえず氷の国の編が終わったらもっと世界観を広げたいと思ってます。あとやっぱ色んなところを書き直したりもしたんですけど、みなさんはどう思います? 是非、意見を聞きたいです。

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