第9話〜桜井若奈はそうと決めても真っ直ぐな子なのだ。
「……ここどこかなぁ」
桜井若奈は、再び絶賛迷子中である。
不思議な光を追いかけて階段や曲がり角を追うこと数分ほど。
壁の隙間に入って行ってしまった光に、さすがに物理的な進行は不可能と追跡を断念。
そして小さな子供のように興味を持ったものを追いかけてきてしまったことに気付いて恥じ入りつつ、さて戻ろうかと振り向いてみれば……先ほどまで通路だった場所には本棚があった。
さすがファンタジー、どうやら本棚は自由に移動できるらしい。
よくよく見ればシャンデリアの光の当たり加減に好みがあるらしく、本棚とそこに収められた本たちが自由に場所の入れ替えっこをしていた。
実にほのぼのとする平和な光景だったが、これだけ本たちが自由だと司書たちの仕事はなかなかにハードそうである。
もっとも再び迷子になった若奈もなかなかにハードな心境だったが。
「ここどこー?」
少し幼児退行しても許されるはず。
しかし若奈の呟きに応えてくれるものはいない。
気ままな本棚たちは収まりが良かったのかどっしりと腰を据えてしまい、元の道には戻れそうもない。
しばらく、といってもほんの1分。
若奈はポンと手を合わせる。
「よし、進んじゃいますか」
戻れないなら進んでしまおう。
遭難者がやってはいけないことである。
もっともここは山奥でも樹海の奥地でもないのだが。
常識も通じず、ありえない事も起こる不思議な図書館。
ある意味では普通の遭難よりもタチが悪い。
いつの間にか、図書館は再び内装を変えていた。
柱には蔦が巻きついたような意匠が施され、シャンデリアの代わりに木製のランタンが等間隔で吊るされている。
磨かれたように綺麗な床は継ぎ目のない、木目の揃った樹木で出来ていた。
まるで若奈が一歩踏み出すのを待っていたように、ゴシック調と木造が融和している場所に彼女は立っていた。
シャンデリアの煌びやかな灯りを背に、若奈は落ち着いた光を放つランタンの通路を進んでいく。
桜井若奈はそうと決めても真っ直ぐな子なのだ。
先程までとはほんの少し違う足音を響かせながら、若奈は図書館の通路を進んでいく。
とりあえず、目的地は未定で。