第7話〜桜井若奈は夢見る年頃である。
「ところで若奈様はどちらの扉を通られたのですかな?その制服の校章の色からすると、稲穂学園の2ハウス付近のものでしょうか」
二人はすでに簡単な自己紹介はすませてある。
しかし若奈が2ハウスであることは言っていなかった。
稲穂学園はハウスごとにデザインは同じだが色違いの校章をしている。
中等部、通称1ハウスは赤い校章で、高等部は順に黄色、白、緑、水色、紺色の順で校章の色が違う。
若奈のいる2ハウスの校章は黄色で、ハウスカラーも当然のように黄色である。
アルバートは稲穂学園について詳しく知っているようだった。
老執事……老司書は何でも知っている。
「わあ、よく分かりましたねぇ。そうです、2ハウスの校舎の外の階段下の扉から入ったんですよ」
「ふむ。確かお友達のあとを付いて入ってしまったのでしたな。そのお友達は女性ですか?」
「はい、そうです」
「もしや……その女性は高津本様ではありませんか?」
「知ってるんですか⁉︎」
言い当てられたことに驚く若奈。
「ええ、私は当図書館の利用者様については、利用状況から何まで把握しておりますので。…少々お待ちください」
アルフォードは流れるような動作で制服の内ポケットに手を入れ、ノートほどのサイズのタブレットを取り出した。
最近は多くの施設でタブレットや設置型のモニターといった機械が導入されているが、なんとなくイメージ的に皮張りのメモ帳でも取り出しそうだったので少しだけ残念な若奈だった。
桜井若奈は夢見る年頃である。
というか明らかに内ポケットに入るような大きさではないタブレットにこそ違和感を感じるべきだろう。
「…ふむ、やはり若奈様が入館される直前に高津本様も入館されていますな。転位石ですぐに別エリアに移動されたので入れ違い……というよりすれ違いになってしまわれたようです」
「そうなんですかぁ」
もっと転位石やらのファンタジー要素に突っ込め若奈よ。
なんかちょっと変わってるなぁ的なノリで流しているが、道中にも色々とおかしなことはあった。
というか学校の階段下の物置の扉から大図書館に来ている時点でもっとパニックになってもおかしくない。
桜井若奈は平凡だがかなりの天然が入った少女でもあった。
細かいことは気にしない。
学校の成績も気にしない方向で。
「ちょうど高津本様がいらっしゃる区画の近くを通ります。一度そちらにご案内いたしましょう」