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第5話〜桜井若奈はこうして、大図書館へと歓迎された。

「ここ、どこなんだろう…?」


呆然と呟く若奈。


階段下の物置のものと思われた古びた扉を潜り抜けたら、国立図書館もかくやというほどの大図書館の中にいたのである。


潜り抜けた際に扉が勝手に閉まり、そしていつの間にか消えていたことにも気づいていない。


ポカーンと口を半開きにしているその顔は正直思春期の女の子がするべきものではない。


「えっと……あれ⁉︎」


数分ほど頭が現実に追いついていなかった若奈だが、辺りを見渡して後ろにあったはずの扉がなくなっていることにようやく気づいて声をあげた。


桜井若奈、17歳。


高校三年生にして迷子である。


「どうかしましたかな?」


すると慌てる若奈に声をかける人物がいた。


見れば初老と思われる、白髪混じりの黒髪を丁寧にまとめあげ、機能性の高そうな黒い制服のようなものを着た男性。


背筋をピンと伸ばして、穏やかな笑みを浮かべた仕事の出来そうな雰囲気の人である。


若奈は以前友人が見せてくれたカタログに載っていた執事服だとか燕尾服という単語を思い浮かべた。


ちなみにその友人とはやや、いやかなりそっち方面に偏った趣味を嗜んでおり、若奈をあちら側へと少しずつ染めようと、その手の雑誌やカタログを彼女に勧めていたりする。


転校が決まりその企みは頓挫したようだが、もう少し時間をかければ若奈もまたそちら側に染まっていたことだろう。


閑話休題。


「あの、えっと…。私学校で……扉を通ったらここにいて、でも扉がなくなって…あぅ」


混乱する頭でとにかく自分の現状を目の前の男性に伝えようとする若奈だったが、そんな状態でうまく伝えられるわけもなく。


やや支離滅裂な言動になってしまった。


「おやおや、ふむ。なるほど」


しかしそんな若奈の説明からも状況を察したらしい。


男性は顎に指を添えて頷いた。


若者がやればキザったらしい仕草だが、ダンディと形容して見劣りしない容姿のおじ様には非常に似合っていた。


若奈の友人がここにいれば黄色い悲鳴をあげていたことだろう。


「どなたかの利用者様か通った直後の扉を使用してしまったようですね。たまにあるのですよ、偶然こちらに迷い込んでしまう方が」


今尚少し不安げな若奈を安心させるように柔らかい笑みを浮かべ、男性は芝居掛かった動作で腰をおってお辞儀をした。


「ようこそいらっしゃいました。数多の叡智と万物の書物の眠る大図書館【ルハネ=キア】へ」


桜井若奈はこうして、大図書館へと歓迎された。

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