第14話〜桜井若奈は今…
…………。
「……それで、少し目を離した隙に消えていた、と」
アルバートは疲れたように目頭のあたりを抑えながらそう言った。
先程から背後のに立っている高津本咲の射抜くような視線がチクチクと痛い。
父と娘どころか祖父と孫近く歳の離れた子からの非難の視線は素直に心が痛む。
そしてアルバートは孫の顔を見る事は恐らく不可能。
二重の意味で胃が痛い。
「はい。本日読み聞かせに来ていた子供2人の姿もないことから、彼女たちの世界に入り込んでしまった可能性が高いと思われます」
シュカもまた苦虫を噛み潰したような顔をしながら答えた。
その背後では我関せずと言った様子で少年、カルスが端末を弄くり回している。
おそらく若奈たちの行方を探しているのだろうが、しれっとゲームをしている可能性もある。
これで一応は上司で、歳上で、やろうと思えばシュカの何倍も仕事をこなせるのだから苦々しく思ってしまうのも仕方がない。
噛み締め過ぎた奥歯がギリリと鳴らないよう一度息を吐く。
「困りましたね。我々の管轄から外れてしまいました」
「捜索隊を送り込むよりは、自分で外に出て来るのを待つ方が得策かと。一つの世界に匹敵する範囲の捜索となると、人手も時間もいくらあっても足りません。来週には読み聞かせがありますので、彼女たちもやって来るでしょう」
「彼女たちも幼いとは言え管理者の一柱を担う存在。若奈様の身にも危険が及ぶ事はそうそう…」
状況が状況だけに、具体的な解決策が取れない。
なので希望的観測とも取れる考えがこぼれ落ちる。
が、それを咲が許すはずもない。
「若奈に万が一があれば…」
「「……!」」
いつの間にか咲の手には、大の大人でも振り回すのに苦労しそうなほど長く、造りのしっかりした槍が握られていた。
「私はあなたたちを許さない」
その気迫は10代の少女が出すには少々物騒過ぎた。
「だ、大丈夫です、高津本様。ご存知の通り本の危険度は【番号】を目安に定められております。彼女たちの世界が記録された本の【番号】は三桁台。管理者が近くにいれば万に一つも危険はありません」
「そうです!彼女たちはまだ生まれて間もないと言ってもいい管理者ですが、それでもその世界の力ある存在と比べても別格です。危険はないかと…」
「……。」
普段の2人を知る人物ならば驚くであろうほどに、少女に対して腰が低い、というより恐れた様子を見せる2人を見て、咲は手元の槍を虚空にしまった。
「カリヤと、あと常春たちに連絡しなさい。この図書館での不祥事は彼らの責任なんだから」
「あ、あの方々を…?」
「早くしなさい。少なくともカリヤがいればどこにいるかすぐ分かるはずでしょ」
「かしこまりました…」
足早に去っていく二人を見送り、咲は若奈が入ってしまった本を手に取る。
「すぐ、助けに行くから…」
一方、桜井若奈は今…




