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第12話〜桜井若奈は覚悟を決めた。

「ねー、おねえちゃん、まだー?」


「ねえねえ、きょうはなんのごほん?」


桜井若奈は子供たちに囲まれていた。


なぜか、と問われればそれは絵本の読み聞かせのためである。


どうして、と問われればそれは若奈の方が答えを知りたい。


若奈の心境はまさに「どうしてこうなった?」である。


とりあえず、話はほんの少し前に遡る。


若奈は少年に連れられ、とある一室にたどり着いた。


これまでの行けども行けども様々な様式の本棚の並んだ区画ではない。


そこはそう、一言で言えば…




「事務室?」


作業用のデスクにチェア、棚はあるがそこに置かれているのはクリアファイルや資料集のようだった。


何度か学校の図書室のカウンターの後ろにある事務室を覗いたことはあるが、まさにそんな感じである。


「よし、時間には間に合ったね。それじゃあ5分後、あっちの扉の向こうでみんな待ってるからね。それじゃあよろしく」


「……え?」


興味津々に事務室を見渡していた若奈は少年の言葉が頭に入って来ていなかった。


「5分後?」


聞き返した時には既に遅し。


少年は扉から出て行った後だった。


後に残されたのは若奈と、一緒に本棚から持ってきてしまった絵本が一冊。


呆然と立ち尽くすこと数秒。


あわあわする事数十秒。


読み聞かせってなんだっけと悩むこと一分ほど。


とりあえず扉の向こうを覗いてみるとすでに何人かの子供が座ってスタンバイ。


状況を理解した時にはすでに5分が経とうとしていた。


(°△°)あわわー


見た目にはぽけーっとしているが、本人的には大慌てである。


「うーん、とりあえずやってみるしかない、よね…」


他に大人は見当たらず、子供たちもわくわくとした様子。


これはもう、やるしかない。


桜井若奈は覚悟を決めた。


というわけで…



若奈は子供たちの前に立つ……と目線や声に距離ができるので座って。


人生初の読み聞かせを始めた。


「それではいきます!タイトルは、【孤独なトレント】!」


のだが…


「グスッ……ヒック……なんでよぉ……なんでトレントさんにお友達できないのぉ…?」


「おねーちゃんだいじょーぶ?」


「ほら、これでふいてー。なかないでー」


初めての読み聞かせは普段以上に物語に集中してしまい、結果、若奈は号泣していた。


普段お店で借りてきた映画ではそこまでではなくとも、映画館で観ると何倍も感動してしまうアレである。


若奈は読み聞かせをしていた子供たちに優しくよしよしされたり宥められていた。


「……え?ちょっとお姉さん、どうしたの?というか何この状況!?」


ちょうどそのタイミングで先程の少年が戻ってきた。


かくかくしかじか…


「え?おねえさん、新しい読み聞かせの人じゃなかったの!?」


こうして誤解?は解け、後には子供たちの前で号泣してしまい羞恥に悶える若奈が残されたのだった。

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