第10話〜桜井若奈はブックカバーを作ることにした。
だいぶ間が空いてしまいました…。
一般的に、未成年であっても、高校生ともなればある程度の落ち着きを持つものである。
子供から大人へと成長する段階であり、最も多感な時期を経験し、思慮深さというものを学んでいく年頃。
そのまま社会に羽ばたくもよし、人生の夏休みを謳歌するもよし。
しかし概ねの性格、人格というものはこの頃には出来上がって来るものでもある。
つまり桜井若菜もまたそろそろ人柄というものが固まってきているはずなのだが……。
桜井若菜17歳。
彼女は、彼女の人格はすでに小学校高学年になる辺りですでに出来上がっていた。
そうと決めたら真っ直ぐに。
思い付いたらとりあえずやってみる。
後になってから「どうしてこうなった?」と自問自答。
つまるところ桜井若奈は少々天然でありマイペースなのだった。
異世界の図書館で迷子になりながら、彼女は布製のブックカバーを縫っていた。
そこは本の分類としては童話が集められているようだった。
文字は読めないものがほとんどだったが、絵本ならば一目でわかる。
一本の木が表紙に描かれた絵本を本棚から取り出す。
桜井若菜はその本の大きさと厚さを計り、そのまま手元のソーイングセットで布を縫い始める。
すでに若菜が縫ったブックカバーの数は10冊分を超える。
なぜそんなことになったかというと、特に意味はない。
絶賛迷子中の若菜は、ようやく動き回ることの愚に気付いたはいいが、その時にはすでに後の祭り。
本でも読んで助けを待とうと思ったが文字が読めない。
そしてなんとなく思った。
裁縫をしよう。
若菜は実は裁縫が趣味だったりする。
簡単な小物ならよく自作している。
そしてちょうどカバンには余った布とソーイングセットがあった。
そして周りには本。
桜井若菜はブックカバーを作ることにした。
「よーしできたー」
若菜は今しがた完成したばかりのブックカバーを絵本にかぶせた。
ぴったりである。
いい仕事をした。
めくるのに邪魔にならないかを確かめるために本を開く。
普通の文字だけの本ならいざ知らず、むしろ絵本にブックカバーをかけてしまうと内容が分からなくなってしまうのだが、なんとなくて始めてしまったし特に考えてもいなかった。
「よし、大丈夫そう。にしても、これ何て書いてあるんだろう?」
「おねえさん、字、読めないの?」
「わひゃっ!?」
独り言に反応が返ってきたことで、若菜は頭にあるまじき声を上げる。
見れば肩がぶつかり合うような距離に10歳くらいの少年がいた。
「この絵本のタイトルはね、【孤独なトレント】って言うんだ」
【孤独なトレント】は短編小説で投稿した作品です。
URL
https://ncode.syosetu.com/n0184fj/




