第1話〜桜井若奈はどこにでもいる普通の女子高生である
桜井若奈は高校生である。
うん、それ以外に彼女を表現する言葉を見つけることはできない。
彼女は高校生である。
もっともそれは『高校生』のところを『女子高生』と変えたところで変わりなく。
それどころか『桜井若奈はどこにでもいる普通の女子高生である』と言った方が的を射ているかもしれない。
何を言いたいのかというと、桜井若奈はどこまでも平凡で、ありきたりで、どこにでもいるような、そんな女の子だ。
飛び抜けて可愛いとか、振り返って見てしまうほど美人だとか、逆に一目で記憶に残るほど不細工、なんてことはない。
ちょっと癖っ毛な前髪が気になるお年頃だったり、やや運動が苦手だったり、父子家庭で中学生の妹がいたり。
まぁ『普通』から大きく外れるような子じゃない。
父親の仕事の都合で高校三年生にして転校してしまうことになったとか。
転校した先の学校がいわゆるマンモス校で、全校生徒が3000人近くいる中高一貫校だったとか。
学校の外縁が走っても30分以上かかるくらい広い敷地だとか。
敷地の中央に駅からも見えるくらい大きな時計塔があるとか。
そんなこと、別に彼女が『特別』だったからなわけではない。
彼女はどこまでも『普通』で。
『特別』なのは彼女の周りにいる友人たちだった。
これはそんな『普通な』彼女が高校三年生にして出会った友人たちと、ちょっとだけ『特別』な日常の物語だ。