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これにて、終~~了!!(エピローグっぽいなにか)

 滝川の家に行った翌日。


 どんよりとした曇り空の下、俺は校門の前である人物を待っていた。


 友達と登校してくる生徒達の中に、あいつが混ざっていないかを首を伸ばして確認する。


 しかし、俺が捜しているやつの髪型を見つける事は出来ない。


 携帯で時間を確認してみる。


 もうそろそろ、SHRの開始を知らせるチャイムが鳴る頃だった。



「なにしてんだよ、あいつ」



 呟き、人がまばらになってきた通学路の奥まで目を凝らして見つめる。すると、微かに見えた。


 校門から二十メートルほど離れた位置にある曲がり角から、顔だけをこちらに覗かせていたあいつは、俺と目が合うと角の奥に引っ込んでしまう。



「はぁ……」



 溜息を一回だけする。


 なにを遠慮しているのやら。


 校門から離れて、角の近くに行き、その奥に隠れているであろうあいつを見つけるために、そこを曲がる。


 頭を抑えて道路のしゃがみこんでいた美優を発見。



「なにしてんだよ」


「ひゃうっ!」



 いきなり声をかけられたからなのか、それまで小動物のようにぷるぷる震えていた美優は、肩をビクッと跳ね上がらせる。


 そして、潤んだ瞳をこちらに向けてきた。ちなみに美優はしゃがんでいるから、必然的に上目遣いになる。


 美優を直視できずに目を逸らす。その間に彼女はおもむろに立ち上がると、そのまま逃げ去ろうとする。



「待てって」



 しかし捕獲成功。なんか逃げる気配が放出されてたから、それを察するのはフグを釣り上げるよりも簡単だった。


 俺に腕を掴まれながらも、まだ逃げようとする美優の左肩を掴む。


 そして強引に振り向かせた。


 

「なんで逃げるんだよ」



 今度はちゃんと美優の目をみつめる。


 美優が視線を横に逃がす。


 大きな瞳にはいまだに涙が溜まっており、さっきの小動物みたいという表現はこの辺りからきているのだが、どこか脅えているような感じだ。


 肩も小刻みに震えているし、なにをそんなに恐れてるんだよ。



「どうした? なにか恐い事でもあったか?」



 なるべく優しい声を意識しての俺の言葉に、美優は軽く頷く。



「どうかした? 相談なら乗るぞ」



 そこで、彼女の唇が微かに動く。そこから発せられた声は、とても小さく、酷く儚く、微弱な風に吹かれても消しとんでしまいそうなものだった。



「宗が、僕の事、嫌いに、なったかと思って」


「はぁ?」



 なに言ってんのこいつ。



「俺がお前の事を嫌いになるわけないだろ?」



 むしろ感謝してるんだし。恥ずかしいからこの言葉は言わないけど。



「じゃあ、嫌いになってないの?」


「当たり前だ」



 美優の顔が、一気に明るくなる。



「本当に本当?」


「本当に本当。大体、嫌ってたら、校門の前でお前を待ってないよ」


「で、でも、僕は宗の事をずっと騙してたんだよ? 親の事を聞かれてもなにも知らない振りをして。……それでも?」


「それは美優が良かれと思ってやった事だろ? お前が、あの事を隠していてくれたから、俺はずっと平和な日常を過ごせてた。……そうだ、毎月、銀行に金を振り込んでくれていたのも、美優だろ?」


 

 しばしの逡巡の後、美優は肯定する。


「……うん。でもあれは、宗の両親が自分達になにかあったらって、宗達に向けて貯金してたものなんだよ。だけど僕は、まだ生きているって勘違いさせたかったから、そのお金を振り分けてたんだけど。でも、なんで分かったの?」


「そんなの簡単だ。美優がケーキを作ってきてくれたときあっただろ? あの、誕生日を間違えていたときのやつ。美優は、学校から帰ってすぐにケーキ作りに専念し始めたはず」



 俺はあの日のことを思い出す。


「――で、作り終わったら、俺の家に来た。帰る時間には銀行は閉まっていたはずだから、振り込めなかったってわけだ。まぁ、俺の過去話を聞いてから、考えてみたら分かったんだけどな」



「そっか」


 俯いた美優は、微かに笑っているようだった。


「でもさ、なんで俺の誕生日を間違えたとか言ってたんだ? 美優は俺の本当の誕生日くらい知ってんだろ?」


「それは……」



 ここで美優は言いよどむ。なにか言いにくい事なのかもしれない。



「あのね、あの日は、僕が宗の口座にお金を入金し始めた日なんだ。それでね、ここから宗を騙していかなくちゃいけないって思ってたから、忘れないようにって意味で」


「……それを誕生日にする意味はあるのか?」


「他の理由が思い浮かばなかったんだ……」



 あはは、と美優は笑う。



「ごめんね」


「なんでお前が謝るんだよ」


「ずっと嘘ついてて」


「……謝るのはこっちの方だよ」



 美優の両肩を掴む。


 陽光が微かに雲の隙間から射しこみ始めた空の下、俺は彼女の華奢な体を抱き寄せる。


 


「この前はゴメン。あの時は気が動転してた。本当は嫌だったのに、それでも俺のお願いを聞いてくれて、話してくれたのに。本当に、ゴメンな」



 美優の髪から発せられているシャンプーの香りが、鼻腔をくすぐる。



「ずっと、こんな俺の傍にいてくれて。飽きもせずに、昔の約束を守ってくれて。俺の生活が今まで平和だったのも、全部、お前のおかげだよ」


 

 恥ずかしい言葉を連発しているのに、それでも全然、恥ずかしいとは思わない。気分が晴れやかだった。



 美優が、鼻をすする音が聞こえてくる。


 俺はそんな彼女の頭を撫でながら、言葉を続ける。



「だからさ、その、あれだ、これからもずっと一緒にいてくれたら、俺は嬉しい」



 ガバッと美優が顔を上げる。目が赤く充血していた。



「今……なんて言ったの?」



 震える声。だけどそれは、泣いているからってだけではなさそうだった。



「だから、さ。これからも俺の傍にいて、支えてくれたらな、って言ったんだよ」


「それって……プロポーズ?」


 今度の言葉に、美優はおろか俺すらも顔が赤くなるのを感じた。さすがに二回目を言うものじゃない。



「ち、違う! ただ、一緒にいて欲しいだけだ!!」


「うん! 喜んで!」



 美優が本当に幸せそうに笑う。彼女の手が腰に回ってくる。



 大丈夫。

 

 滝川に色々言ったけど、あれはほとんど、俺に向けてのものでもあった。


 だけど、あんな点も、美優がいればなんとかなる。


 遠くのほうで、チャイムが鳴るのが聞こえてきた。



「あっ、急がなくちゃ、遅刻だぞ美優!」



 彼女から離れて、俺は駆け出す。美優も後をついてきた。


 少しだけ振り向く。


 彼女はいつものだらしのない笑みを浮かべていた。



「ありがとな」


「ん? なんか言った? 宗」


「~~っ! なんでもない!!」



 やっぱり、素直にお礼を言うのは恥ずかしい。



 昔話を聞かされたとき。俺は本当に生きるのが嫌になっていた。


 それでも、その後に来た鳴海に励まされ。


 その後にあった猫女とは馬鹿みたいに騒いだおかげで、少し冷静なれて。


 その後に出会った会長に、悩みを解消してもらって、独りじゃないって事も教えてもらって。


 そして最後の美優には、本当に優しい気持ちにさせてもらった。



 多分、この四人の内、誰かが抜けていたら、俺は絶対に立ち直る事は出来なかった。


 悩んだ時には、仲間に相談すればいい。


 頭がぐちゃぐちゃの時には、考え事なんてしないで馬鹿みたいに騒げばいい。


 落ち込んだ時には励ましてくれる仲間がいれば、もっといい。


 そして、大切な人と、歩く方向を決めていけばいい。



 時には立ち止まって、時には遠回りして、時には近道を。たまになら、後ろ向きに歩いてもいい。


 最終的には、その日の自分よりも、一歩だけでも前に進んでいれればそれでいいのだ。


 今はまだ、美優の気持ちに応える事はできないけど。それでも一歩ずつゆっくりと、だけど着実に進んでいけば、いつかは……。



「宗」


「ん?」


「大好きだよ!」


「……うっさい」



 今、横で笑顔を作っている幼なじみとなら、確実に一歩は進んでいける。



「ほら、行くぞ」


「宗、真っ赤っかだよ」


「これは……返り血を浴びただけだ」


「あ、そうなんだ」


「何度も言うようだが、頼むからツッコンでくれ」


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