八十一話「追放」
「経験は力。それに追放されたからと言って、我が輩が怪我をしたり死んだりするわけではありません」
デメリットがないのだし、試してくれたって良いだろうと言外に依頼人は言う。本当に、どうしてこうなった。直感的なモノで俺の持つ固有技能とまではいかなくとも追放に何らかの意味があることまでは察したのだろうか。
「仰ってることは正しいのですが」
正確には正しくない。一度追放されたために何かに目覚めてしまって変態街道まっしぐらの少女という例が側にいるのだから。とは言え、それを馬鹿正直に言ったなら深く突っ込んで聞いてきて、SM系の新作とやらの参考にされてしまうのはほぼ確定だ。風評被害からの脱出という夢も消えて、残念ながら俺が社会的に死ぬ。それにマイと言う例が存在する以上、追放によってこの依頼人が新たな扉を開き第二号になることもあり得るわけで。
「逆に言うなら、何もならないなら、何の糧にもならないのでは?」
出来ればこれで諦めてくれと思いながら反論しつつ、俺はただ考える。風評被害を払拭出来ないまでもこれ以上状況を悪化させずにこの窮地を終わらせる方法を。この作家が興味を抱きそうな題材を他に用意するのは、ユウキと言う名の題材提供をして失敗している。同じ轍を二度踏む気はないし、そもそも気軽に出せて相手が食いつきそうでかつこちらの良心まで痛まない題材など流石に皆無だ。
「と言うかなぁ」
そんな人材が居たとして、普段の俺ならどう扱っているか。おそらく、風評被害の原点となったあのオッサン冒険者と同じで何らかの制裁を行っている可能性が高い。そんな話を出した時点で風評被害をパワーアップさせるだけである。
「ヘイル殿」
ただ、世界は俺に考えるだけの時間も与えてくれないらしい。
「ただ『追放する』フリをするだけなら何の問題もないのではないか?」
作家側に回って援護射撃してくる辺りファンの鑑ではあるのだろう。ある意味予測出来た立ち位置であり、この召喚師は俺から実際に追放された人物でもある。自分が何ともないから問題はないはずと後ろ向きな俺の態度を訝しむまでしてもおかしくはなく。
「はぁ……わかりました」
これ以上ゴネても無駄どころかレイミルさんが完全に作家サイドに言ってしまう。そのあげく色々話されたら拙いことになるのは、明白。俺はしぶしぶ「追放ごっこ」をやらされざるを得なくなり。
「ありがとうございます。では、どういう経緯で追放に至ったのかの設定をまず決めましょうか?」
「え」
礼の言葉とともにめんどくさそうな事を言い出した依頼人に俺の顔がひきつった。
「流石はアナック先生。フリでも妥協はしないと言うことか」
依頼人のファンが約一名、感銘を受けたとか感動したとかそんな感じになっていたけど、俺には心底どうでも良いというか、設定までするとかめんどくさいと言った思いしか持てず。
「パーティーの他言出来ない秘密を知ってしまったというのも良いかもしれませんが、やはりやはり我が輩は素人ですから、『仕事の足を引っ張ってしまった』ことが理由で追放されるとしましょうか」
「いや、後者は『だったら、何故パーティーに入れた?』ってツッコミどころは残るもののまだ良いとして……他言出来ない秘密って何?!」
いきなり出てきたとんでもない設定に、気づけば俺は叫んでいた。
「全年齢向けでは差し障る内容です」
「差し障る内容設定にすんな! と言うか、その設定に関わってくるのってウチのパーティーメンバーなんだよね? 勝手にそんな設定でっち上げるとか、あんまりでしょう?」
幾ら依頼人でもこれはない。前世なら怒って回れ右して帰ったあげく訴えてお金まで取れるレベルの酷さだ。
「ヘイル様と成人向け」
とかマイが嬉しそうに呟いた様な気がしたのは、俺の幻聴の筈だから流すとして。
「ヘイルさん、ツッコミを入れるなら物理を伴った方でお願い出来ませんか? おっと、こんな所に丁度良い鞭が」
「丁度良いも何もそれ、お前がお茶に添えて出してきた鞭だろうがぁぁぁぁ!」
敬語が消えてしまった気もするけど、こんなロクでもないリクエストをボケとセットでされたら、きっと仕方ないと思う。
「ヘイル、落ち着いて。相手のペースに乗せられると負けるわよ?」
「勝ち負けの勝負なの、これ?!」
アドバイスなのかボケなのかわからないアイリスさんの言葉に反応したところでぽむと腰の辺りに何かが触れる。
「にゅい」
「あ、うん。ありがとう」
ウサギ勇者の元気を出してと書かれた紙を見て少しだけ平静さを取り戻せた俺は礼を言い。
「もういいや、話全然進まないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」
設定などもうどうでも良いとばかりに依頼人へ追放の言葉をぶつけたのだった。
そろそろメインタイトルから「おためし」消すべきかな?
ここまで続いてると、タイトル詐欺になるような気がしてきた。
あと、リアル事情の方でアクシデントが。




