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八十話「罠」


「そしてこの迷宮の最深部に辿り着いた俺達が見たのは――」


 だが、俺は慌てない。この話をチョイスした理由は迷宮主(ダンジョンマスター)を処分したのが、俺ではないからなのだ。


「玉座にへたり込む迷宮主(ダンジョンマスター)の足をアイリスさんの放った魔法が凍り付かせ」


 そう、アイリスさんが迷宮主(ダンジョンマスター)を逃げられないようにしてからトドメを刺すまでの間、俺はただの傍観者であり。


「誤解しているようでしたので、まず一つ。俺は確かにこのパーティーの一員ではありますが、メイン戦力のつもりも顔のつもりもありません」


 単なるパーティーメンバーの一人であって、それ以上でもそれ以下でも無いと言うことが言いたくて、俺はこの話を選んだ。


「ヘイル」


 こう、アイリスさんが私までドS認定されるじゃないの的な恨みがましい目で見てきたような気もするけれど、流石に俺も仲間を道連れにするような外道のつもりはない。


「一応言っておきますが、ウチのパーティーは守護騎士のユウキを除いて健全なパーティーですから」


 例外が居るとしたら今パーティーから外れてるござる口調トリッパーくらいだ。


「技能の相性や戦力差で一方な戦いになることもありますが、意図してと言う訳ではありませんし」


 変態パーティーじゃないよーとアピールすることで、疑惑と勘違いを晴らす。そも、戦いになったら結果的に弱者を嬲る風味になってしまったなんてよくあることだと思うのだ。うちのパーティーの場合は魔物を無差別で弱体化させる人がいるからそれが顕著なだけで。


「なるほど」

「わかって頂けましたか」


 だから、依頼人が相づちを打ってくれた時、ホッとしたと同時に少しだけそうだろうなとも思った。いくら何もない所にSM要素を強引に持たせにゆく依頼人でも真っ向から否定してるのにそれを無視して実はドSなんでしょとは言えない、ただ。


「それではその件は脇に置くとしまして、少し調べさせて頂いたところ、あなたはパーティーからパーティーメンバーを何人も追放していると聞き及んだのですが……それでは今まで追放された方は健全でなかったから追放したと言うことですか?」

「っ」


 どうしてそうなるんだと叫ばなかった自分を褒めたい。と言うか、この依頼人、その質問を何故マイの方を見ながらすると言うのか。


「先程仰った唯一の例外である方は、今パーティーにいらっしゃいませんよね?」

「あ」


 しまった、ユウキだからまあいっかと例外にしたのが、裏目に。この依頼人、そこまで考えた上でこんな話の持って行き方をしたのか。俺は戦慄した。


「そして、健全でないメンバーを追放するというのがあなたのパーティーのルールだとしたら」


 そこまで言ってから、依頼人は徐に俺のパーティーメンバーの一人を見た。マイだ。この作家、何処かの段階でマイが手遅れレベルのMだと見抜いたというのか。


「ルールだとしたら、何ですか?」


 落ち着け、ブラフかもしれない。ここで同様は見せるな。そも、うちのパーティーにそんなルールは存在しない。俺は平静を装ったまま聞き返し。


「我が輩をあなたのパーティーに入れた上で、追放して頂きたい」

「は?」


 斜め上を行く発言に俺は耳を疑った。


「我が輩をあなたのパーティーに入れた上で、追放して頂きたい」

「いや、わざわざ二度仰らなくても……と言うか、意図が理解出来ないという意味なのですが」


 まず、何故そこで追放が出てくるのかが、理解出来ない。そして、それを体験しようと言い出したのかも理解出来ない。


「そうですね……強いて言うなら、好奇心と言ったところでしょうか」

「好奇心?」

「調べさせて頂いたと言いましたが、あなたがパーティーから追放した人間の数は異常な程多い。そこが気にかかりまして」


 オウム返しに聞き返した俺に理由を述べてから依頼人はもう一度言った。


「我が輩をあなたのパーティーに入れた上で、追放して頂きたい」


 と。


主人公がS世界の神になって粉バナナしそうな流れに。

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