七十九話「ケチをつけるときりがない」
「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」
いつもマイに言っているその台詞で目の前の依頼人を追放出来たら、どれだけ良かったことか。
「どうしよう」
今の胸中を言語化するなら、その一言に尽きた。依頼人が話を膨らませて何もない所にSM要素を強引に持たせにゆくとするなら、ここ最近の冒険はSM要素を持たせられてしまう話か何らかの理由で口外出来ないようなモノが殆どなのだ。
「山賊アジトの壊滅」
この話は先任のバカ勇者の死と変装士の少年の機密に触れるため無理。
「暗黒神崇拝者の村での一件」
こちらは、俺が油断してマイを殺しかけた件を除くと村人と魔族が仲間割れして自滅しただけである。その後の魔族の捕縛については、一方的だったし、それこそSM要素話扱いされかねない。
「鉱山の町に行くまでの小悪党退治」
なんかに至ってはそもそも俺がドSなんてデマの原因になった決闘を含むワンサイドゲームオンリー。話したらそのままもの凄いSM技で悪党どもを一網打尽にするヒーローの話に使われてしまうこと請け合いである。
「ヘイルさん?」
「すみません、どの話からしようかと考えていまして」
沈黙が長かったからか、訝しまれてしまったが、どの話からどころか、実情は最近の話はほぼ全滅という有様。だが、ここで誰かを頼るという選択肢はない。
「そうですね、それなりに昔の話になりますが……」
最近の話が使えない異常、やむを得ず、俺が選んだのは埃を被りそうになるぐらい過去の話だった。
「しかし迷宮探索は本当に久々でござるなぁ」
|魔物の湧かない安全領域の床に腰を下ろし剣を自らにも垂れかけさせるようにしつつ、ユウキが天井を仰ぐ。
「俺としては罠の回収が出来るからありがたいけどね。しかもここ自動生成型みたいだし」
迷宮と一口に言っても色々と種類はある。自然の洞窟に野生の魔物が住み着いただけのモノ、地脈だとかの淀みに溜まった瘴気が洞窟とその内部の生物を変質させて誕生するモノ、瘴気のかわりに強力な魔力や思念の残滓が作り出した迷宮に、迷宮主なる謎の存在が造り出した迷宮など。
「自動生成型となると、一番可能性が高いのは迷宮主の居るパターンでござるな。ここはやはり『いえーい、迷宮主見てるー?』とお約束をやっておくべきでござろうか」
「ユウキ……」
うちの守護騎士は相変わらずだった。
「私、迷宮主って嫌いなのよね。例外もいるのでしょうけれど、冒険者を餌としか見ていない気がするし、個人的な見解だけれど性格的にも下種とかクズか独善的な勘違い野郎が多い気がして」
「まぁ、餌食と見なされてる側の冒険者が悪く思うのは無理もないとは思うんだけどね」
アイリスさんの迷宮主アンチっぷりについては、前世の読み物の話をしてませんかとちょっとツッコミたくもなるものの、それはそれとして。
「とりあえず、この迷宮に主が居たとするなら、友達になれないのは間違いなさそうかな。即死系トラップとか性格の悪そうな罠をいっぱい貰っておいてこんな事を言うのもアレかもしれないけどさ」
魔物の出てこない安全領域などこそ用意してはいるものの、低い階層から侵入者を捕獲もしくは殺す罠が散見していたし、この迷宮から出てきた魔物は近隣の村に被害を出すこともあったそうで、可能であれば潰して欲しいという依頼を受けて俺達はこの迷宮に潜っているのだ。
「何の罪もない村人に迷惑をかける時点で、ね」
居るとするなら、迷宮主は考え無しなのか、自分の力に絶対の自信でもあって自惚れていたのか。
「しかし、アイリス殿によって迷宮の魔物は片っ端から弱体化、罠で仕留めようにもヘイル殿に看破されて手持ちの罠にストックされるとなると、この迷宮の主、詰んでるような気がするのでござるが?」
「まぁ、否定はしないけど……それでも捕まえた冒険者とか村人を人質にして悪あがきするかも知れないし」
油断する気はない。ついでに人質を出されてもスルーするつもりで居る。迷宮の性格の悪さを鑑みると、脅しに応じたところで約束を守るとは思えないのだ。
「と言うかさ、人質とってどうこうする気なら、約束は自分も守る的な誠実さを印象づけるべきだよね」
などと声に出して言う気はサラサラ無いが。迷宮主側に筒抜けの可能性もあるのだから。
「成る程、流石ヘイルさんです。相手が下種であればこそ、手足をもがれるように抵抗手段を失って行く様もどことなくスッとする」
そこまで話したところで、俺は賞賛を受けたのだが。
「あれ?」
この人にとってそんなごく普通の迷宮攻略もS的にに映るとは計算外だった。
これ主人公も無自覚というか、天然のSなのかもしれませんね。(とおいめ)




