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七十八話裏「おしごとのじかん(アナック視点)」

同じ話の作家側視点となります


「どうぞ」


 やって来たドSのヘイルを我が家に招き入れた我が輩は、家政婦の入れてくれたお茶に買ってきたばかりの鞭を添えて出した。相手はドSで評判になる程の冒険者、カップの脇にはお茶の入ったポットも用意し、かの人物とを挟む客間のテーブルの下には、下僕の方々用にスープ皿も用意しておいた。こう、犬や猫に餌をやる皿の方が良いか迷ったが、慌てて準備した為にそこまで手が回らなかったのだ。


「ありがとうございます。斬新なお茶請けですね」


 さて、どんな反応を見せてくれるのか。そう期待する我が輩を前に、かの冒険者がとった行動はただ礼を言って一口お茶を啜っただけ。驚き、拍子抜けする思いと共に何故という言葉が頭の中で反響し。


「あ」


 無意識に彷徨わせた視線がドSのヘイルの傍らに居た少女に止まることで、我が輩の疑問は氷解する。少女の視線がちらりと鞭を撫でたかと思えば、物欲しげな視線に変わってドSのヘイルの方を向いたのだから。


「そうか、これは話に聞く『焦らしプレイ』というヤツか」


 我が輩は、心の中でそう呟く。Sの矛先は、鞭などと言う物体をお茶請けに出した我が輩に向くかと勝手に思っていたが、よくよく考えてみれば同行する下僕を差し置いて我が輩を鞭で打ち据えるというのは、明らかにおかしい。危なかった、勝手な勘違いで一人勝手に失望し、ドSのヘイルのSの鱗片を見逃すところだった。


「ヘイルさんのご高名はかねがね。Sランクパーティーの方々が依頼を受けてくださったことは感謝に耐えません。さて、早速依頼の説明に入らせて頂きたいのですが」

「あ、はい。ええと、『作品の参考に差し障りのない範囲で良いから今までの仕事や冒険の話が聞きたい』と言うお話でしたね?」

「そうです」


 反省も大事だが、目の前の冒険者パーティーの方々を放置して一人反省会など失礼にも程がある。内心を押し殺して切り出せば、確認してきたドSのヘイルに我が輩は首肯を返す。先程に続いて表向きは何のドSさもない常識的かつ平凡な確認だが、傍らの少女の顔が赤く染まってきた様であり、流石に我が輩とて同じ失敗を二度する気はサラサラ無い。焦らしプレイも結構だが、ドSのヘイルのSがこれだけとは思えない。


「それなのですが……最近、作家としての幅を広げるべく新しいジャンルを手がけてみようかと思い立ちまして、ヘイルさんにはSMの何たるかを教えて頂きたいのです」


 それは誘い水。こう切り出せば、傍らの少女との焦らしプレイも次の段階へと進むのではと言う淡い期待を込めたのだが。


「アナック先生の最新作がSMテーマ?! いや、だが、先生の作品なら……ああ、いや、しかしッ!」


 ドSのヘイルの後ろであがった悲鳴と葛藤は我が輩にとっても計算外。まさか下僕の方に我が輩のファンが存在したとは。だが、嬉しい誤算でもある。我が輩のファンならば、お願いすれば我が輩が今知りたいドSのヘイルについて色々教えてくれるかも知れない。


「SM、ですか」

「ええ、もの凄いSM技で悪党どもを一網打尽にするヒーローが活躍する話を考えておりまして」


 もっとも、今話をしているのはドSのヘイルの方。ポツリと漏れた言葉を笑顔とセットにした頷きで肯定し、言外に期待を込める。


「まず、一つ。依頼で聞きたいと仰っていたのは『仕事や冒険の話』では? 求められるお話は依頼外のモノになると思うのですが?」


 だが、少しの沈黙の後に返ってきたのは、望んでいたのとはほど遠い問い。再び何故という言葉が頭の中をリフレインする。


「失礼、そうでしたね。では――仕事や冒険の中でのSやMなお話を」


 とは言え、呆然とはしていられない。問いの形の指摘も常識に照らし合わせたならもっともなモノではあったので、我が輩はそれを頭を下げて認めつつ提案する。


「SやM以外は不要だと? メインに話そうと考えていた出来事があったのですが、SもMも関係ない話でして、限定されるとご要望にそえないのですが」


 だが、意外そうな表情をしたドSのヘイルの口から出たのはまたしても我が輩の望むモノではなく。


「あ」


 まるでそちら方面の話をしないと言うかのような口ぶりではあったが、ここで我が輩は漸く気が付いた。相手はドSのヘイル。こちらが望む言葉をホイホイ話すようではドSでも何でも無いではないかと。ここは言葉の応酬に耐えることこそドSのヘイルの意に適うのではないかと。


「なるほど、それは失礼しました。では、メインの話を伺ってからこぼれ話的な形でSやMの話も伺うと言うことに――」

「っ」


 今度こそドSのヘイルお眼鏡に適ったのではないだろうか。譲歩しつつも我が輩の向けた言葉に対する反応は今までのモノとは違っていて。


「メインのお話にしても、ひょっとしてヘイルさんの中では『あの程度SとかMとか騒ぐ程のことではありませんよ』と言うことなのかも知れませんが、我が輩から見れば大いに参考になる部分があるかも知れませんし」


 例えばそう、このやりとりなど。望む話を求める我が輩を袖にしようと取り付く島もない様子はある種のプレイのようでもある。ドSのヘイルの片鱗を見せつけられた思いだ。もっとも、我が輩がこの短時間でそこまで見抜くのは想定外であったのか、ドSのヘイルも驚きに固まった様子であったが。



謎の深読み。勘違いさせた原因は、うん、まぁあちらは本物のドMだからしかたないですね?

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