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七十五話裏「知らせを受けて(アナック視点)」


「依頼を引き受けてくれる冒険者が――」


 その言葉に我が輩は思わず本当かと尋ね返していた。わが輩の名は、アナック・ル・スィウホーン。物書きで生計を立てているせいか、丁度依頼の事を知らせてくれた担当者を含め何人かの知人は我が輩のことをアナ先生と呼ぶが、そんなことはどうでも良い。


「そうか、三つも指名依頼を出しておいた甲斐があったな」


 最近巷を賑わせている冒険者が居ると聞いて、町の噂に耳をそばだて情報を集めていたのだ。


「『ドSのヘイル』、会うのは初めてだが……何というか、待ち遠しいな」


 我が輩は作家であるのだが人の身故に欠点というか、苦手とする方向性があった。


「嫌いという訳じゃない。むしろ、好きなんだが。好き嫌いと才能は別物というわけだな」


 我が輩はお色気描写方面をとくに苦手としているのだ。克服のため、最初は娼婦を呼んで話を聞いてみたのだが、上手く行かず、行き詰まったところでかの人物の噂を聞くことになったのは、きっと運命だったのだろう。


「正真正銘のSをその身で体験すれば、見えてくるものがきっとあるはずだ!」


 生憎と縛られるのと踏まれるのと罵られるのの内、どの依頼が引き受けられたかはまだ聞いていないが、我が輩はまた一つ物書きとして成長出来るはずであり。


「アナ先生、それが引き受けて貰えたのはご指名された依頼の方ではな」

「何だと?!」


 あがっていたテンションがいきなり床にたたきつけられた。


「どういう事だ?! 報酬は相場より高くしたし……あれか、ドSのヘイルは嬲る相手を選ぶにも好みがあったりするのか? そう言えば噂で嬲られていたのは、冒険者の男だったと言うし、ある程度筋肉のついたオッサン専門だったりするのか?!」


 失敗だった。依頼を出すなら罵られたり踏まれるオッサン冒険者を確保するべくもう一つ依頼を出しておくべきだったのだ。そうすれば、ドSのヘイルも二つ返事で依頼を受けてくれただろうに。


「くっ、私の新作『強くて調教者』が」


 大まかな構想だけ勢いで組み上げてしまった我が子(さくひん)も世に出ることなくここで終わってしまうと思うと、悲しかった。


「新たなジャンルを開拓して、また一歩成長出来ると思ったのに」


 悔やんでも悔やみきれない。


「あの、アナ先生。それで、引き受けてくださる方が見つかった依頼の件ですが……」

「ん? そう言えば、そんなことも言っていたな。確か『作品の参考に差し障りのない範囲で良いから今までの仕事や冒険の話が聞きたい』と出した依頼と、参考資料の配達の依頼だったな、指名をせずに出していたのは」


 前者なら何らかの参考にはなるだろうが、どう考えてもドSのヘイルには劣る。


「いや、この考えは依頼を引き受けてくれた冒険者に失礼だな。それで、引き受けてくれた方は?」


「はい、何でもこの都市に戻ってきたばかりなので、宿を確保してからこちらに向かうと」

「そうか、旅をしてきた冒険者なのか。なら、期待できるかもしれないな」


 冒険者の護衛付きで取材旅行なるモノを何度かしたことのある我が輩だからこそ旅の過酷さは知っている。城壁の外は何時魔物と出くわしても不思議ではない危険地帯だ。だからこそ、そんな場所を旅してきた冒険者には敬意を抱くと同時に期待してしまうわけだが。


「それで、引き受けてくれた冒険者の名前は?」

「はい、ヘイル、と」

「は?」


 思わず耳を疑った。


「待て、ヘイルと言ったな?」

「はい」

「そのヘイルというのは……その」


 視線を泳がせ、我が輩は躊躇う。確認すべきなのに言葉が出てこない。指名依頼は断ったというのに、別の依頼は引き受けたとはどういうことなのか。


「ああ、そう言えばお仲間と一緒にこちらに伺うそうですよ」

「っ、仲間か! 盲点だった!」


 きっとドSのヘイルは椅子にしたり乗り物にしたり足蹴にするための要員をいつも連れていたりするのだろう。


「個人指名で『ペット』や『家具』を持ち込んで良いかがわからなかったから指名依頼を断ったのだとすれば、納得が行く」


 なんと言うことだろう、まさに天国と地獄。後から来た方が天国だが、わざわざ個人指名依頼を出した相手が仲間連れで話をしてくれるため我が家に来てくれるというのだ。


「こうしては居られない。拷問具や拘束具、ああ、鞭やロウソクも用意しないとな。忙しくなるぞ!」

「先生、その辺りの物品の用意はアナ先生一人でお願いしますね?」


 居ても立っても居られなくなって声をかけた担当者は無表情で一歩後ろに引き下がりつつ言い放った、解せぬ。



世界は主人公にとって残酷だった模様。


一応こう言うのも勘違い要素って言って良いんですよね?


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