七十四話「視線を浴びて」
「何だろ、リザーブトまで凄くあっという間だった気がするんだけど」
肉体強化を馬に行使した馬車の速度が凄かったからか、関所と兵士宿舎で無駄に時間を消費したように感じる反動なのか。城壁をくぐって周囲を見回せば以前訪れたことのある町並みが広がっており。
「まぁ、どっちにしても遅れた分を些少なりとも取り戻せたならどうでも良いことかな」
王都や首都ではないものの、それなりに大きな規模の都市にはたどり着けたのだ。何の役にも立ちそうにない意外さの欠片を突き回す位なら、もっと生産性のあることをすべきだろう、情報収集だとか、路銀の調達だとか。
「とりあえず冒険者の斡旋所……所謂ギルドかな、行くとしたら」
「そうね。仕事も探せて情報も手にはいるかも知れないし、無難な選択肢じゃないかしら」
「にゅい」
ボソッと行動指針を口にすれば複数の賛意が聞こえて、じゃあそうしようかと俺は歩き出す。
「おい、あれって……」
「ドSのヘイルじゃねぇか、戻ってきたのかよ」
感じる見知らぬ人達の視線と囁く声は、聞こえなかったことにしながら。
「そう言えば、ここ噂の中心地だったわね」
「ヘイル様」
割と人事的な声のトーンのアイリスさんとは対照的にマイは俺を気遣ってくれる様で何も握っていなかった手が握られ。
「マイ……」
「大丈夫です。私はMですし」
「いや、そう言う問題じゃないからね? はぁ……」
マイが天然で変態さんなのを失念していた俺は、精神的に疲労しつつも自分へポジティブに考えようと言い聞かせる。
「マイの声が大きくて回りに聞こえているよりはマシだし、ここが噂の中心地ならさっさと移動してしまえばここ以上に酷いことにはならない訳だしさ」
言語化するなら、内容はだいたいそんなところだ。
「それに――」
注目を集めているのは俺だけにあらず。
「うおっ、でけぇ?!」
「何、あれ?」
でけぇの一言だけでだいたい誰についての反応かはわかる。大きいのは事実なのだから。
「まぁ、視覚的なインパクトだけならあの娘に勝つのは難しいわね。ヘイルがあの娘のリード持ってれば相乗効果が産まれたかも知れないけれど」
「要らないから、そんな相乗効果!」
ただでさえこの都市で俺はもう風評被害の犠牲者なのだ。これ以上状況を悪化させられては、たまらない。
「けど、あの子ってここから関所に来たって話じゃなかったっけ? やけに通行人が反応してるような」
「ヘイル、あの娘達が普通に外を出歩けると思う? 光神教会からすればとっておきの戦力の上、日常生活にもお付きの人が必要なのに」
「あ」
アイリスさんに呆れたような目で見られてから馬鹿なことを口にしたことに気が付いたが、最近精神的に疲れているので、許して欲しいと思う。
「普通に考えたら、外に出そうなんて思わないな、確かに」
好奇の目で見られるのは間違いないだろうし、エリーシア達のあり方を知られれば光神教会に非難が殺到するだろう。
「あれ? じゃあ、あの子は何故外に出せ――」
出せたのかと疑問を最後まで口にする前に、ふと気づく。
「ひょっとして、俺のせいにされるとか?」
エリーシアが胸の大きい理由なんて回りにいる一般人は知らないと思う。アイリスさんみたいな裏側を知ってる人間が例外なのだ。
「『ヘイルが特殊な趣味をしていて、その欲望のために何らかかの手段で罪もない女性の胸を異常に大きくした』ってところかしら?」
「ちょっ」
アイリスさんの挙げた例で俺の顔は引きつった。
「まぁ、変身や性転換の魔法が存在するのだから、理論上は可能よね。ただ、光神教会の方も考え無しだったって線を私は推すけれど。あの娘の服が光神教会の神官服なのはわかる人にはわかるもの。そこ問題よ。もし、ヘイルが変態趣向であの娘の胸を大きくしたとするなら、何故神官服が今の胸の大きさに合わせたモノなのでしょうね?」
「あー」
風評被害を快く思っていないはずなのに俺は大ポカをやらかしたようだけれど、怪我の功名とでも言うべきか、何も考えていなかったことが俺のえん罪を晴らす材料にもなったらしい。
「ひょっとしたら、ヘイルのモノになったら着替えるように言われていたのを忘れたとか、兵士宿舎でのあれこれで着替えるタイミングを逃したと言うこともあり得るけれど、真相はあの娘に聞かないとわからないわね」
「けどさ、それなら世話係の人が何か言っても良さそうなモノだと思うけど」
「……言われてみると、そうね。存外、思考停止していて言われたことしか、今回のケースだとあの娘の世話をすることしか命じられて無くて、アクシデントに対処出来なかったとか、『ヘイルの命令に逆らわないように』と言い含められていて、ヘイルが『着替えろ』と命じなかったからそのままって可能性もあるけれど」
どのみちエリーシアに聞いてみるしかなさそうなことは、俺にも理解出来た。
「ただ、その前に情報収集、かな?」
歩いていた俺達はいつの間にか冒険者の斡旋所の建物の前に辿り着いていたのだ。
「おい、あれは」
「ドSじゃねぇか、戻って来――」
周囲の人間がいかにも荒事に向いていそうなごついオッサンや顔に傷のある戦士なのか山賊なのか判別に困りそうな毛皮のベストを纏った男に変わっていても集まる視線と口にする言葉はほぼ変わりなかったけれど。
「アイリスさん、路銀調達して情報をある程度集めたら、この都市を出ようか」
今から情報収集開始だというのに、この都市は俺のメンタルに優しくなかった。
唐突なQ&A
Q:エリーシアさんの胸の大きさはどれぐらいなのでしょうか?
A:ヘイルの「見たこともない大きさ」が前世でテレビで見た映像も含まれているかによって変わってきます。
現実世界だとごくたまに世界最大の●●とかそんな感じで胸の大きな女性とかも出てきますので。(ネットで調べたら最大は183cm位だとか)
アイリスさんが肉体強化魔法を使えば前衛もこなせると発言してるところを鑑みると、身体能力をブーストすれば近接戦闘が行える程度の大きさでもあるのかと思われます。




