表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/153

七十一話「考察もいいけど」

「なるほど、と言うかおおよその予想はできていたというべきかしらね」


 アイリスさんは女神官の持っていたネームプレートを手に天上を仰いだ。


「そのプレートがどうかしたの?」

「これ、一応マジックアイテムなのよ」


 しぐさからろくでもない秘密がありそうな気はしたものの、訊ねてみればアイリスさんはすわった目でこちらを見つつ俺にプレートを突き出す。


「ちょ」


 持って、もしくは手に取ってみてということだろうけれど、マジックアイテムと聞いた俺は素直に受け取る気にはなれず。


「大丈夫、触ったところで何もないわ。このプレートの効果は名を刻んで対象に装着させないと効果を発揮しないタイプのものだから」

「あー、そうなんだ。それで、どういう効果があるかもわかったりする?」


 流石は魔法職と思いつつ気軽にたずねたが。


「まさか、ヘイル……これ、使う気があるの?」

「え゛? まさか――」


 それが失敗だったということに気付いたのは、アイリスさんが驚きの表情でこちらを見つつ一歩退いた時だった。


「まだ推測だけど、これ……人を乗せて空を飛ぶ魔物を信頼関係のない騎手に任せるときなんかに使う支配系マジックアイテムを人にも効果をもたらすように改造したモノだと思うのよね」

「あー、それは引きもするよね。って、違うから! 使う気なんてないから!」


 効果を聞けば、アイリスさんの反応もある意味で納得のゆくモノだったけれど、何と言うか、今回も俺が迂闊だった。


「ちなみに、人を洗脳したり支配するアイテムの製造はこの国だと死刑だったと思うのだけれど、これ、見つかったらどうするつもりだったのかしら?」

「取り締まる側と裏でつながってて捕まらないか、もしくはこれ自体が罠の可能性もあるね。自分で渡しておいて、『ご禁制の品を持っているとは何事だ、だがこちらのいうことを聞いたら見逃してやろうゲヘゲヘ』みたいなことを言い出すつもりだったとか。後者だった場合、相応に後悔させてやるだけだけれど」


 そんなモノを扱っているだけでも真っ当な連中で無いことは明らかだ。まぁ、人を支配するアイテムなんて無かろうとも、この女神官みたいな子が存在する時点でアウトなのだが。


「『勇者のお供』と言う話だったけれど、こんなモノが用意されていたりすることを鑑みるに、『勇者をやってくれるなら手付金にコイツをやろう、好きにして構わん』とでも言った感じかしらね、そっちの娘に直接話を聞いた訳じゃないけど」


「まぁ、あちらの思惑はどうあれ――」


 俺に放り出すつもりはもう無い。ただ、人は口に出して言わなければ伝わらないこともあるのだろう。


「そう、放り出すつもりはないからさ、それは止めようか?」


 柔らかく大きな何かを押しつけられた感触に口元を引きつらせながら、俺は傍らの女神官をやんわりと制止する。別に胸を当ててきている訳ではなく、トイレの時のように俺にしがみつこうとしただけなのだとは思う、思うのだけれど、側面からしがみつかれた為に俺の片腕は女神官の胸に挟み込まれる形で固定されており。


「ユウキが居たら血の涙とか流して羨ましがりそうな光景ね」

「冷静にコメントするなら助けてよ、アイリスさん」


 片腕が動かせない状態で真顔の俺は乞う。もう、この時嫌な予感がしていたのだ。


「ヘイル様、私、そっちの娘程大きくありませんけ」

「ああ、やっぱり?! 良いから、マイも張り合わなくて良いから!」


 女神官(このこ)がくっついてる光景だけでも人に目撃されたら、良くない誤解を招きかねないというのに。

「はぁ、仕方ないわね。流石に話が進まないから止めて貰って良いかしら?」

「っ」


 ため息に続き発せられた言葉に、くっついていた女神官の身体が一瞬震え、躊躇いがちに離れ出す。


「助けたわよ?」

「アイリスさん……」


 感謝の気持ちはもちろんあるが、一番に感じたのは驚きだった。むしろここからからかわれるかと思った位なのだ。


「何というか、流石にそろそろこの娘の名前も知りたいし……と言うわけで、名前を教えて貰って良いかしら?」

「ああ、そう言えば聞きそびれてたっけ」


 言われて名前をまだ知らないことを思い出した俺も視線の向きを変えたアイリスさんに倣って、女神官の顔を見た。


「……え、エリーシアと言います」

「ああ、良かった漸く名前を聞け――」


 どことなくおどおどしつつも名乗ってくれたことに、俺はほっとし。


「その、宜しくお願い致します、ご主人様」

「え゛」


 深々と頭を下げた女神官(エリーシア)の呼び方に凍り付いた。


「だ、そうよ……ご主人様?」

「アイリスさん、話が進まないから巫山戯ないんじゃなかったんですか?」

「あら、名前を聞くところまでは進んだじゃない?」


 どことなく楽しそうなアイリスさんは、俺が恨みがましげな視線を向けるとそうとぼけて見せ。


「ご主」

「ああ、マイは『ヘイル様』でいいからね? なんだったら『ヘイル』でもいいから」


 案の定張り合おうとしたマイの声に被せるようにして釘を刺す。


「エリーシアも俺のことは最初の時みたいにヘイルで良いから。呼び方が急に変わると変な勘ぐりとかされかねないし」


 俺の社会的地位をこれ以上いじめるのは止めて頂きたい。


「とりあえず、俺の呼称はそう言う感じでさ、そろそろこれからどうするかとかについて話そうよ」


 エリーシアを連れて行くことこそ決めはしたものの、それ以外はほぼ何も決まっていないのだから。


エリーシアが加わったことで三角関係が発生?


どうなる主人公!?


と言うか、ユウキが去ったら急にユウキが待ち望みそうなキャラが登場する不思議。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=368208893&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ