七十話「どうするかを決めるためにも情報は必要」
いよいよこのお話も70話(番外、裏を除く)ですね。
こういうモノってやっぱり100とかキリのいいところまで行ったらお祝いに特別編やるべきなのかなぁ?
「前回までのあらすじ。自分で追放した超乳女神官を追いかけて部屋を出て行ったヘイルが超乳女神官を調教して連れ帰ってきた件」
「やめて!」
現実がまるで創作物であるかの様な口ぶりで独言したアイリスさんにデジャヴを覚えつつも俺は叫んだ。言われそうな気もほんのちょっぴりしては居たが、悪質なデマであり濡れ衣である。
「ヘイル様の調教……いいなぁ」
「マイもちょっと黙ろうか?」
風評被害がさっそく飛び火したことに頭痛を覚えつつ、うらやましそうな顔をした少女の肩に手を置くと俺はアイリスさんに向き直る。
「悪質なデマはさておき、偏見と言うか俺がもの知らずだったことは痛感したから、意見が聞きたくてアイリスさんにも残ってもらってるわけだけど」
「『それって、誰に対する説明なのかしら?』とツッコむのは野暮ね。まぁ、話を聞く限りヘイルが訝しむのはもっともな話だけど……教会関係者と言う訳じゃないし、私が知ってることなんて出てゆく前に話したことが殆どよ?」
「あぁ、そうなんだ。いや、まぁそれもそうか」
アイリスさんも魔法職だからこそ知っていたということなのだろう。
「ええ、あとはせいぜいこの娘達のことを教会上層部の人間が『蚕』って隠語で呼んでる噂があるとかくらい」
「え゛」
納得した後で新情報放り込んでくるのはどうなのだろうか。聞き覚えでもあったのか、マイとは逆側でまだ手を握ったままだった女神官が硬直し。
「一応私も貴族の出だから、冒険者になる前はいろいろと、ね」
「あー」
忘れていた、と言う訳ではないがアイリスさんは確かに貴族の令嬢なのだ。社交の場に出て居たときに小耳にはさんだ話として存在しても不思議はない。
「『蚕』、ね」
この世界に蚕は存在しないから語源はおそらく転生者かトリッパーがもたらしたのだろう。この女神官達のあり方を聞いて連想した誰かが居て、それが定着したと言った辺りだろうか。
ちなみに蚕は品種改良されたことで人に世話をされずには生きて行けない。幼虫は身を隠す術を知らないず、色も白で目立つし、成虫も蛾であるのに飛べなかったと思う。野性に返すべく野山に放てば成虫だろうと幼虫だろうとまず間違いなく捕食者のご飯となって終わりだ。幼虫に関しては餌も人の手で用意して貰っていたと思うから、運良く捕食者に見つからなくても成虫にはなれないだろう、おそらく。
「まぁ、隠語の話は余計だったわ。それよりも、問題はこの……ホルスタインをどうするか、よね?」
「ホルスタインって……」
「勘違いしないで、ヘイル。私、ついさっき『超乳』を連呼するのも卑猥かなと思い至ったのよ」
真面目な顔で割と酷い呼び方をしたことに顔を引きつらせると、真顔のままアイリスさんは言う。
「それ『今更』とツッコミを入れるべきか『もっと酷いこと言ってなかったっけ』って首を傾げるか微妙というか、卑猥……卑猥、かぁ」
時々アイリスさんのボーダーラインがどこにあるのか、俺にはわからなくなる。
「と言うか、そもそも妙な呼び方しなくても普通に名前を呼べば……って、よくよく考えるとまだ名前も聞いてなかったような」
「そうよね。初対面の時自己紹介しないどころか、紹介してくれようとした人がいたのに遮っていたもの。ただ、ヘイルは戻ってくるまでの流れで名前ぐらい聞いてると思ったのだけれど?」
「それを言われるとアレだけどさ」
傍らの女神官が喋らなくなるまではそれどころではなかったし、その後は気まずさとか何やらで名前を問う余裕など無かったのだ。
「ヘイルは結局見捨てられず連れて行くつもりなんでしょ? 名前も知らないのは問題よ。新しい名前つけてその名前を刻んだネームプレートを首輪の下にぶら下げさせるつもりがあるとかなら別だけど」
「ちょっ、何をどうしたらそう言う発想にッ?!」
「え? あらすじの『調教』のあたりからの連想だけど?」
わかっていたことではある、だが俺はやっぱりアイリスさんにからかいのネタを提供してしまった様だ。
「連想すんな! と言うか、誰がそんなことするかーッ!」
何故わざわざ社会的な地位を自ら下水道にぶち込む様な真似をしなくてはいけないのか。
「だいたい、そう言う妙なことを言うとマイが……」
「ヘイル様、私、首輪用意してきま」
「って、ああッ、予想していた通りに」
予想可能回避不能とはこういう事を言うのだろうか。
「色々話を聞きたいのに、相手の名前すらまだ聞けてないんだけど?」
「そうね、少し巫山戯すぎたかしらね。反省するわ」
「するなら最初からしておいてよ」
何故こんな事で労力をつかわなくてはいけないのか。
「あの……」
「何? え゛」
弱々しい声で呼びかけられた俺は声の方を見て固まった。まさにこんな事も有ろうかとと言った展開で問題の女神官が首輪につける用とおぼしきネームプレートを取り出したのだから。
首輪が用意されてた段階でアイリスさんの発想は首輪を用意した誰かも想定していた模様。
主人公、ドSと噂になっていたんだから準備されてても仕方ないよね?




