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六十七話「いつもの」

「んぐっ、何て狭いドアをっ、これだから国境何て辺鄙な場所の宿舎はっ!」


 話の続きをする場所が俺にあてがわれた宿舎の一室となったのは、役人と女神官の間で交わされたやり取りに異論をはさまなかった以上、仕方ないことだとは思う。まぁ、口を挟まなかったからこそ、入り口で女神官の大きすぎる胸がつっかえてる現状において、責任も追及されずに済むんだろうなぁとも思う訳だけれど。


「どうやら横向きにドアをくぐらないとつっかえてしまうようね」

「冷静に観察できるって、凄いなぁ」


 今世が同性だからこそなせる業だろう、俺が同じことを言ったら即セクハラ確定だ。コメントするアイリスさんの横で遠い目をして俺は事態の解決を待とうとし。


「何を突っ立って見ているのです! 手伝いなさい!」

「え? 嫌だけど」


 飛んできた命令を即座にはねのけた。


「なっ?!」

「だって助けたら助けたで、おん……女でいいか、女の身体を触ったんだからどうのこうのって無茶な要求とかして来そうだし」


 あのバカ勇者が女で同じ状況に陥っていたらほぼ間違いなくやっただろう、助けて貰った恩人に対して。


「あのバカ勇者、謝らない感謝しないはデフォだったし」


 そのくせ他人には謝罪や感謝の言葉は要求するのだ。


「ヘイル……アレのことよっぽど腹に据えかねてたのね。関係者にまでバイアス掛かるとか。まぁ、わからなくもないけど」

「一応それだけじゃないけどね、あの状態に手を貸して、引っ張ったとするとまず間違いなく抜けたとき勢いで俺が押し倒される形になるし」


 いくら性格が酷くても異性とそういう体勢はアウトだろう。


「まず間違いなくアイリスさんは揶揄ってくるし」

「私にまで偏見(バイアス)が?!」


 ここ数日のいじられ被害を受けてる俺からすると、当然だと思うのです。


「こういう時、ユウキが居てくれたらなとも思うよ」


 アイツなら嬉々として手を貸して押し倒されて喜んだ筈だ。前にバカ勇者が巨乳美女でもノーセンキューって言ってた様な気もするが、きっと俺の記憶違いだと思うし。


「そうね、水を得た魚と言うか、もうこっちが見てられないぐらい嬉々として助けに行く様が目に浮かぶわ」


 ほら、アイリスさんも同意してくれている。


「そう言う訳で、アイリスさん、手を貸してやってくれない? 一応女性陣だし」

「一応言うな! ……ひょっとしてヘイル、からかったことを根に持ってたり――」


 するのと続ける前に、俺は良い笑顔で頷いておいた。


「仕方ありません、妥協しましょう。引っ張りなさい」


 渋々ではあったものの、話が進まないと見たのだろう。ドアにつっかえたソレも俺ではなくアイリスさんに命じ。


「こういう時ってやっぱり、あれよね? 『ハイ、カシコマリマシタ』って棒読みしてから胸を思いっきり――」

「ぎゃああああっ」


 こう、女性のモノとしてはどうなのと言う悲鳴をドアにつっかえた生き物があげたが、力一杯胸を掴んで引っ張られたのなら、無理もないのかも知れない。


「ユウキが居たら、喜んでいたかな?」


 一応、女の子が胸の大きな女の子のソレを鷲掴みにしている光景なのだ。半年前に家出して戻ってきてないレベルで色気は行方不明だけれど。


「なかなか抜けないわね。引くより押して一度出した方が良いかしら?」

「ぎっ、あ、あ゛ぐっ」


 冷静に状況を分析しつつも力を緩めた様子がないところを見るにアイリスさんも割とイラッとしたんだろう。


「アイリスさん、いつから暴力ヒロインに……」

「その言い方は『解せぬ』って言いたいところだけれど」


 数分後、何とか超乳神官をドアから引っこ抜いたアイリスさんは俺に呆れた目で見られ不本意そうにしつつも小声で続ける。


「今回だけよ。最初に痛い思いさせておけばアレの関係者でも流石に学習するでしょ」

「成る程、って言いたいところだけど、何処かの誰かみたいに新しい扉とか開いたら拙いんじゃ?」

「あ゛」


 俺が指摘して、アイリスさんが凍り付く。珍しい構図だと思う。逆は割とよくあった気がすることについては、我ながら反省すべき点だろうけれど。


「まったく、酷い目に遭いました。今の勇者ヘイルのパーティーには問題があるようですね」

「一応、否定は出来ないかな」


 自分の胸を撫でつつ涙目で女神官のもらした言葉に、俺は目を背ける、だが。


「やはり、どこの馬の骨ともわからぬ有象無象の輩など勇者の供にはふさわしくありません。供はこちらで用意しておきましたので感謝するとよいでしょう」


 いきなり出てきたあげく、これまでの俺の仲間をこき下ろす。アイリスさんは些少乱暴だったかも知れないが、この女神官の態度からすれば情状酌量の余地は大いにあったし、アイリスさん以外とは目すら合わせていないというのにだ。


「はぁ」


 一通り話を聞いて出てきたのは、ため息。


「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」


 続いていつものセリフを口にしたとして、誰が咎めようか。


「なっ」

「少なくともお前は要らない。何か自分が同行すると事を確定事項みたいに言ってるけど、今のメンバーの半数は俺が乞うて協力して貰ったり仲間に誘ったメンバーだ」


 謀略の魔王の手の者に襲われる可能性があるのでと言う理由で念のため同行して貰っている者もいるけれど、それはそれ。


「俺の判断で仲間に加えたメンバーを詳しく見もせず否定するって事は俺を信用しないって行ってるのも同じ、俺としてはそんなヤツを仲間に加えたいとは思わないから」


 性格とかがまずノーサンキューだけれど、言って更生するとも思えなかった俺は、一番駄目な理由を告げ。


「あと、出てく時は横向きでね? またつっかえてもめんどくさいし」


 冷めた目で見つつ虫でも追い払う様に手を振った。


うぐぐ、説明にまで行けなかった。


説明は次回でお願いします。


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