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六十五話「んで、数日後」


「呼び出し、か」


 関所の脇にある詰める兵用の宿舎での滞在は今日までらしい。役人の配下の兵にそう告げられた俺達は割り振られた部屋を出て合流すると、呼び出しの主である役人の部屋へと歩き始めていた。


「長かった、と言う程ではないのかも知れないけれど、ここに足止めされた理由……明かして貰えなかったし、気になるわね」

「あー、うん」


 何というか、心当たりらしい心当たりもないのだ。暗黒神崇拝者の件ならリサーブトに早馬を出すというのがまずおかしいし、こちらの国でここ最近やったことと言うと、不心得者なオッサンを何人か懲らしめたぐらいだが、わざわざ関所まで通達を出して該当者が現れたら知らせるように言うとも考えにくい。


「他に何かあったかな? 大したことはしてないと思うけど……せいぜうい元悪役令嬢を追ほ――あ゛っ」


 あれか。俺は思わず足を止めて固まり。


「あの『元令嬢を散々痛めつけた上で適当なところで捨てて欲しい』とか言う怪しい依頼の一件か!」


 一応依頼通りに散々痛めつけひとりでいけていけるようスパルタしどうした上で追放し、依頼は果たしたはずだが。


「『依頼人の要望にそぐわなかったので追加依頼ね』とか言うオチとか?」

「流石にそれはないんじゃない? こんな所まで手配を回したら隠せるモノも隠せなくなるわよ?」

「とは言ってもなぁ」


 俺には他に心当たりがない。それでも、再び歩き出しつつ記憶は漁ってみるものの。


「ハーピーの雛の件はユウキに託したし、山賊のアジト潰したのは、ここの国境を出たあとだった筈」

「となると、ヘイルがドSだって聞きつけた手遅れ級のドM王族とかが『噂のドSを体験したい』とか言い出したとかじゃないかしら?」

「やめて?!」


 必死に記憶を掘り返していた俺はアイリスさんのとんでもない予想に思わず叫んだ。


「前なら『ねーよ!』って全力でツッコんでたとこだけど、手遅れな人の存在を知っちゃうとあながち『あり得るかも』って思っちゃうから本当に止めて!」


 そも、この世界は本当に時々立てたフラグが回収されるのだ。前振りなんてされたらもしもが現実になる確率が上昇してしまう。


「って、コントやってたらもう部屋の前だし!」


 我に返るタイミングが遅すぎたのか、ドアにかかるプレートはこの宿舎を案内された時紹介された覚えの有るソレで。


「ヘイル、覚悟を決めるのね」

「ちょっ、人事だと思って」

「人事だもの……と、ここに来てまで悪ふざけするつもりはないけれど、喚び出されたのは事実だし、先方が明かさない以上、足止めの理由を知るには応じるしかないでしょ?」

「うっ」


 何処か冷めた調子のアイリスさんに食ってかかろうとした俺は、言葉に詰まった。正論だったのだ。


「そもそも一人で来るようにと言われた訳でもないんだし、あなたには私も隣の娘も居るでしょ?」

「ヘイル様」

「っ……そう、だね」


 言われてみれば、その通りだった。そも、ドM王族だのどうのはアイリスさんの勝手で嫌な想像だ。何故それを前提にしたのだろうか。俺は、頭を振り。


「例えドM王族が『踏んでくれ』と目の前で這い蹲っても、その娘を示して言えばいいのよ『奴隷は間に合ってますんで』って」

「だから何でそれを蒸し返すのさぁぁぁぁッ!」


 全力で叫んでいた。


「ヘイル様の奴隷……」

「それ、アイリスさんが勝手に言ってるだけだから。だからそこ、嬉しそうに反芻しない。と言うか、『何故、嬉しそうなの?』って聞いたら無粋? いや、マイなら平常運転か――じゃなくってぇ!」


 なんなんだろう、これは。


「ここのところアイリスさんとマイがセットだと、いつもこれだ」


 俺をどうしてもSと言うことにしたいのか、気づかないうちに俺はもうSなのか。


「にゅーん」

「あ、えっと、ありがとう」


 フォローというか慰めてくれるウサギ勇者の書いた元気を出して下さい文字が心に染みる。


「宿命とはいえ、運命は時として皮肉」

「あ、ありがとう?」


 カルマンさんもきっと慰めてくれてる側なのだと思うけれど、中二病が全開だとどうしてもこちらの感謝も微妙にならざるを得ず。


「ふぅ、気を取り直して……行こう」


 頭を振った俺はドアに歩み寄ると、ノックし。


「来たか、入れ」

「はい。失礼しま――」


 中からの声に返事をしてノブを掴み、捻って引いた。


「え゛」


 直後に濁った声が出たのは、今までに見たこと無いぐらい胸の大きな女性が、明らかに犬用とおぼしきリード付きの首輪をつけて役人の隣に立っていたからだ。


「良かったわね、ヘイル。超乳美女っぽいわよ」


横から聞こえるアイリスさんのふざけた発言にツッコミ返すことすら出来ず、俺は立ちつくしていた。



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