六十三話「あの場所経由」
「アイリスさんの固有技能で弱ってたみたいだね」
潜んでいたのではなく、単に動けないレベルまで弱っていたのだろう。
「弱体化にも種族差とか個体差あるし」
まぁ、差はあっても影響を受けるので、レイミルさんの喚んだ魔物はかなり先の方まで先行して偵察して貰っている。アイリスさんに近づいては味方であろうと影響を受けてしまうからだ。
「あれからそれなりに実力をつけたつもりでいたが」
「まぁ、弱体化するのに違いはないし、そこは仕方ないんじゃないかな?」
無念そうなレイミルさんを苦笑と供にフォローし、魔物に歩み寄って槍を引き抜く。
「流石鉱山の町産の槍ってだけはあるやこれなら穂先を綺麗にすればもう何回かは使えそう」
消耗度合いを確かめ、荷物から出した布で穂先を拭うと視線を足下の死体にやる。
「転げ落ちてきたからけっこうボロボロだね、こっちは」
素材を剥ぎ取ったとしても足下を見られそうな有様であり。
「エリザ、あ、そう」
言外にアンデッド化させるかと問いながら死霊術師の名を呼べば、返ってきたのは首を横に振る形の否定で、俺は肩をすくめると死体の側を離れた。
「はぁ……過剰反応だったかな」
ユウキの事があったからか、動けすらしない魔物に槍罠まで使ったのは少し問題だったかも知れない。大型犬ほどの大きさで肉食。旅人を襲った例もあるから殺したのがやり過ぎとは思わないけれど。
「アイリスさんの固有技能がある以上、まともに動けるのは山賊ぐらいの筈だもんね」
その山賊も鉱山の町に行く過程でアジトを一つ潰している。気を抜く気もないものの、全力の警戒を目的地に着くまで続ける訳にも行かない。
「必用以上の警戒はいらない。一日で目的地までたどり着ける訳でもないし」
レイミルさんの喚んだ魔物も先行して偵察してくれているのだから。
「で、その結果何事もなく、か」
アイリスさんの固有スキルと行きに山賊のアジトを潰したお陰もあってか、襲撃どころか敵らしい敵の姿すら見ることなく、俺達はたどり着いた、その場所に。
「これは……」
点在するえぐれた地面と、溶けた地面。罠を設置する職業柄、残った痕跡ははっきりと認識出来た。
「ユウキの剣の欠片、かな?」
陽光にキラリと輝いた何かを見つけ、歩み寄ってしゃがめば見つけたのは何かの金属片だと解り。
「かなり派手な戦闘だったみたいだね」
「そうね。あちこち溶けてるけれど、爆発の方も――これだけ地面を剔ってるってことは相当な威力よ」
俺の独言に頷いたアイリスさんの視線はクレーターの一つに注がれていて。
「助太刀したって人、何者かしらね? 恩人を詮索するのはどうかと思うけれど」
「まぁ、これだけ高威力の爆発を発生させられるとなると仕方ないんじゃないかな。冒険者やってれば情報は重要だから」
アイリスさんだと、魔法で爆発を起こせる魔法職的な観点から気になってるのかも知れないけれど。
「とりあえず、この爆発は薬品とかアイテム由来ではなくて魔法かそれに準じたナニカによるモノね」
「目撃証言の裏付けがとれた形か」
「逆に言うと既に目撃者の話があるから概ね予想出来ていたことだけれど、これは……」
クレーターを見つめたままアイリスさんが何か考え始め。
「俺は……ユウキの剣の残骸でも回収しておこうかな」
修復は無理だろうけれど、ユウキだって襲撃の後で武器のない状況でなければ、きっと回収したと思う。それなりに長い付き合いだった筈なのだから。
「ヘイル様、手伝います」
「ありがとう、マイ」
最初に見つけた欠片の大きさからすると、集めるのは大変そうにも思えて、騎乗者の少女の申し出はありがたく。
「その、それで、今晩も……」
「あー、うん。まぁ……」
モジモジしながら視線を逸らす様に微妙な気分となったものの、ある意味平常運転でもある。
「はぁ……夜の見張り、二人だけの時にね」
「はいっ」
ため息をつきながら約束すると嬉しそうに少女は頷く。
「何だかなぁ」
追放した相手を新たな才能に目覚めさせたり、既に持ちうる能力を強力なモノへと変質させる俺の固有技能は何故か、マイのおねだりで二人だけの時にしているなんちゃって追放でも仕事をして、マイを確実に成長させている。機嫌の良い時に口ずさむメロディを聞いていると解るのだけれど、歌が確実に上手くなってきているのだ。この調子で成長すれば騎乗者ではなく吟遊詩人としてもやっていけるんじゃないかと俺は思っているのだが、少女が俺に強請る理由は、固有技能とか関係なく冷たい目で見られたいとか罵られたいって理由なのだから、救いがない。
「と言うか……」
なんちゃって追放の回数を考えると、固有技能が仕事をしたのは歌手としての才能とかだけとは思えない。取り組んでいないから発覚していないだけでマイが才能の固まりと化してる可能性は充分にありうるだろう。
「なんやかんやで絆されてる気もするし」
マイに対して甘くなった自覚はあるけれど、これが新たに目覚めたマイの才能によるモノだったとしたら。
「……ヤバいかも」
マイに魅了され、言うがままにリクエストに応じる自分を想像し、俺は頭を抱えた。




