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六十一話「託されたモノ」


「この手紙を見ているのは智……ヘイル殿でござろうか? それとも佳樹殿でござろうか? 佳、もといアイリス殿ならこのあたりで『何故私の方は言いきってから言い直してるのよ』とかツッコんでるかもしれないでござるが」


 変装士の少年が差し出した手紙の冒頭はユウキらしくふざけて始まっていて。


「どちらかが見ている頃には拙者はもう……って、一度書いてみたかったんでござるよね。ああ、この手紙を託した御仁に聞いているかもしれないでござるが、ちょっとばかり魔族に襲いかかられたものの、居合わせた別の御仁に助太刀してもらった故、拙者の貞操は無事でござる。いやぁ、いきなり触手ときてその次がスライムとか、『どこの変態同人誌でござるか』とかツッコミたくてしかたない状況でござったが」


 と、続いた辺りで俺の顔は相当引きつっていたと思う。


「ふざけてるのはまぁ、ユウキだからデフォルトとして」

「これ、そこまで詳細は聞いてないわよとツッコミいれておくべきかしら?」


 意見を求めるように視線を手紙から外して隣を見れば、同じ手紙を覗き込んでいたアイリスさんが首をかしげる。


「手紙だからツッコミの入れようがないというか」

「まぁ、それもあるわね」


 ともあれ、一気に読ませる気がサラサラなさそうな手紙だった。


「えーっと、この手紙は?」

「見てはいない。渡してくれと頼まれはしたものの、そちらにしかわからない符号もいくつか使われていて意味がわからないだろうと言われていたのもあるが、恩人宛の手紙を無断で見ると思われるのはさすがに心外だ」

「あ、ごめん。手紙はどういう経緯で渡されたのって聞きたかったんだけど」


 俺が頭を下げ、生じた短く気まずい間。


「私の早合点だった。すまない」

「あー、いえ、俺も言葉足らずだったし」


 素直に謝る変装士の少年に俺も謝罪を返し、改めて聞いてみると、事情説明の時の目撃者と言うのがこの少年だったらしい。


「それでユウキは? あ、手紙の続きを見た方が早いか」


 質問してから気づいた俺は、再びユウキの手紙に目をやり。


「は?」


 思わず目を疑った。


「『助太刀してくれた御仁と暫く行動を共にするので、そちらには行けそうにないでござる』って」

「借りを返す為と考えれば、わからなくもないけれど」


 魔族に襲われて間一髪だったのではなかったのか。


「一度は退けても襲撃はまたあるかも知れないのに……」


 みすみすユウキへの襲撃を許した俺に人のことを言う資格なんて無いはずだけれど、ボヤかざるを得なかった。今のユウキは武器だって無いはずなのだ、丸腰で襲われたらどうするというのか。


「気持ちはわかるわ。そう……」


 俺の肩を軽く叩いたアイリスさんは憂鬱げに言う。


「ユウキのスライムまみれとか誰得だものね」

「違ぁぁぁぁう!」


 誰が一体どのタイミングでソレを気にしたというのか。


「まぁ、今のヘイルに楽観的でいろなんて無理な話でしょうけれど」


 流石に場を和ます冗談だったのか、苦笑しつつアイリスさんは肩をすくめ。


「あのおっぱい狂いだって毎回考え無しだったりとかは、そう、そうね、きっと……たぶん、おおよそ、しないんじゃないかと言う気が今回はほんのちょっとぐらいするかもしれないわ」

「……そこは『しない』って断言して欲しかったりするんだけど、これって贅沢かな?」


 視線を彷徨わせる様にジト目を向けた俺だったけれど、それはきっと許されると思う。


「ヘイル様……し、しない!しない! しない!」

「ええと、マイも気を遣ってくれるのはありがたいけど、誰でも良いから『しない』って言葉が聞きたかった訳じゃないから」


 一体何だというのだろう、このグデグデな状況は。


「概ねユウキのせいね」

「うん、否定はしないけど。ナチュラルに思考を読むのはそろそろ止めて下さい」


 と言うか、制約はあるものの、上級魔法使いには本当に思考を読むモノがあるのだ。


「魔法、使ってないよね?」

「もちろんよ。詠唱の必要があるし、プライバシーの侵害は基本的にするつもりはないわ。捕虜の尋問とか必要に迫られた時は例外だけれど」

「ならいいけど」


 釈然としないのはどうしてだろう。何というか、ユウキが居ない分、弄りの矛先がこちらを剥いている様な気がしてならず。


「話を戻して、ヘイルの懸念だけど概ね杞憂に終わりそうよ。件の助太刀してくれた人の仲間とも合流したそうだし、ひとまずその人拠点に向かうとも書いてあるもの。武器についてはその拠点で見繕って貰うみたいね」

「何時の間にそこまで読み進めて――あ」


 新たな情報に驚き、隣を見れば、アイリスさんの手には一枚の紙。手紙には二枚目が存在していたらしい。


「少なくとも、ヘイルが心配したりする必要は無いと思うわよ。『死んだと思った仲間が窮地に駆けつけるとかやってみたかったでござったが、流石に冗談が過ぎると思ったのでこうして手紙を託したでござる』とかふざけたことも書いてあるし」

「そっか」


 俺を気負わせないための冗談である可能性も絶対にないとは言い切れないが。


「それでユウキの向かった拠点ってところの場所とかは何か書いてある?」

「無いわね。方角とかどこの国にあるのかなんかもまったく触れてないわ。探すの?」


 アイリスさんに質問を投げれば、否定の言葉に問いがくっついてきて。


「正直に言うと、迷ってる。ヒントがほぼ無いようなモノだし……知らないよね?」

「ああ、聞いていない」


 俺の言葉の後半を受けた変装士の少年は首を横に振る。


「となると、やることは一つ……かな?」


 情報収集、だ。元々謀略の魔王関連で色々と調べなければいけないことがあったところなのだから。


「情報の集まりそうな場所となると、やっぱり首都とか王都だよね」


 この鉱山の町に立ち寄った理由はウサギ勇者を追いかけてなので、向かうとしたら国境を越え、元居た国の王都になるが、その行程ならユウキが魔族に襲われた場所も通り道だ。


「目的地は変わるけど、出発のための準備は途中だった訳だし」


 方針は定まった。あとは準備が終わり次第、出発するだけだった。

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