五話「勇者とは」
「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」
俺の通告にそれはにゅーんと落ち込んだ声で鳴いた。
「と言うかさ、言ってることはっきりわからないから」
感情を全身で表現しているとはいえ今回俺が追放するメンバーは人語を話せないのだ。こちらの言葉は理解しているようであっても。
「獣人種、それも獣よりの方で勇者、ね」
「拙者ケモナーではござらんし、動物よりなだけあって絶望的に胸も真平らでござったしな」
彼女が去った後隣室から出てきた二人の顔は微妙だった。ござるトリッパーなユウキの言に関しては去ったウサギ女勇者の為にも一発殴っておくべきかとも思ったが。
「しかし、本当に色々な意味で想像の斜め上を言ったよね」
「まぁ、『勇者様』と組むのは初めてじゃなかったけど。最初は『権力を笠に着た高慢系バカ勇者』、次は『全身鎧を着て一言も話さない正体不明』」
「あー」
一人目は本当に酷くてよく覚えている。ウェブ小説で時々見かける『馬鹿だったり性格悪い勇者』と言うのは、ざまぁされるためにわざと誇張してそう言うキャラにされているのだと思っていたが、まさかそのまんまな人物が実在するとは思っていなかった。
まぁ、よくよく考えると元の世界にも度を越したクレーマーだとかモンスターペアレンツだとか存在を疑う様な酷い人物の話は聞いたのだから存在しても不思議ではなかったのだろうけど。あの時は言い寄られた赤毛の少女がマジ切れしてその辺りを理由にしてパーティーから追放した筈だ。
「そして三人目は――」
「天然わんこ系女勇者。三人目が一番まともでござったな。巨乳でござっ、があッ」
赤毛の少女の言葉を継いだおっぱい狂いが俺たち二人から脛を蹴られて悶絶したとしてもきっと自業自得だろう。
「「はぁ」」
弁慶がどうのと膝を抱えて転がるユウキを生ごみでも見るかのような目で見て俺たちはため息を重ね。
「とりあえず、話を戻すけど……あの子、能力は申し分なかったよね」
「そうね。私が完全な女子だったらモフモフなところとかもうちょっと評価したかもしれないけど」
「ど、動物は女性とお子様に大人気でござるからな。以前、『売れる作品を作るには子供とかわいい動物をメインよりの登場人物に入れること』と言う話をどこかで読んだ気がするでござるし……」
復活の速さは前衛職故なのか、何もなかったかの如くしれっと会話に混ざってきたユウキの方を敢えて見ずに俺は再び口を開く。
「モフモフは脇に置くとして、能力は申し分ないとしてもあちらの最終目標とこちらの目的が完全に別方向でもあったからなぁ。俺たちが勇者一行としてあの子のお供ができない以上、必要以上に情がわく前に追い出さなきゃいけなかったし。あの子も次の目的地までの路銀は稼げているはずだから」
問題はないはずだ。
「言葉が通じなくても受け入れてくれる懐の広いパーティーがあるかは問題だと思うでござるよ? と言うか、拙者先ほどからスルーされている様な」
おっぱい狂いが何か言っている様な気もするが、敢えてスルーする。別に敢えて考えないことにしていたモノを挙げられてイラッとしたからとかそんな心の狭い理由じゃない。
「そうね、あのウサギ勇者さんが無事目的を果たせるよう祈りましょう。神官職じゃないけど」
「だね。あっちはルーデンにも近いし、実力のある人材は豊富なはず」
大半が俺たちの顔見知りでありパーティーから追い出した相手だということは考えないでおく。
「出会ってしまって変な勘違いが生まれたり、化学変化とか起こさないとよいでござるが」
「「やめろ」」
不穏な事を言い出したトリッパーに俺達転生者の声はハモる。いつぞやのように。