五十六話「鉱山の町に戻って」
「何だか、随分と変わったわね」
鉱山の町に到着するなり、会いに行ったアイリスさんの第一声はお帰りなさいだったが、第二声がそれだった。
「そう?」
「ええ、あなたを見て胸を過ぎる気持ちを言語化するなら……『末永く爆発しろ』かしら?」
「ちょっ、実際に魔法で爆発起こせる人が言うとシャレにならないんだけど?!」
アイリスさんと一緒に行動して随分と月日を重ねた俺は見ているのだ、実際、爆発した魔物とか山賊とかを。冗談だとは思うが、アイリスさんはやろうと思えば本当に人を爆殺出来る。
「嫌ね、冗談よ。と言いたいところなのだけど……そう、この間まで『どこでフラグっ立たぁぁぁぁぁ?!』とか叫んでた人が、その相手を傍らに侍らせて平然としてるのを見ると、『前世の事は、吹っ切れたか折り合いがついたようね』とか優しく言ってあげられる程人間出来ちゃ居なかったことに気づかされたのよ」
何処か遠くを見つつも魔力が何かの魔法現象として具現化したがっているかの如くアイリスさんの利き手を包みながらバチバチと音を立てて火花を散らし。
「あっ、あー、ごめん」
「謝らないで、肯定されたら肯定されたでイラッとするの」
マイとならんだ自分がどう見えるかに思い至った俺は、謝って文句を言われた。
「と言うか、マイを連れてきたのには一応別の理由があってさ。ホラ、アイリスさんは俺の事情、知ってるでしょ? それで……コイツが、コイツの前世が俺の前世の幼馴染みだったみたいで……」
「は?」
突然明かされれば驚きもするだろう。呆然とするアイリスさんの驚愕に無言で俺は付き合い。
「吹っ切れたでも折り合いがついたでもなくご本人とか……事実は小説より何とかってヤツね」
「まぁ、俺としては望外の喜びというか……うん。ちょっと言いたいこともあるけど、文句なんて言ったら罰が当たるって言うか……」
ただ、手放しで喜ぶ訳にも行かない。目の前に前世由来の問題を解決出来ていない人がいるのだから。ここで惚気でもした日には、どうなることか。俺が逆の立場だったら自分を抑えることは不可能だと思う。
「智くん……」
だから まい、うれしそうな ひょうじょう を するの は あいりすさん との はなし が おわって ふたりだけ に なったら に してもらえませんか。
「ふふ、ふふふ……あー、そうね。前にユウキに使ったアレとか良いかもしれないわ。性転換。ねぇ、ヘイル? 男同士と女同士、どっちがいいかしら?」
「えーと、俺としてはどっちも勘弁して欲しい……かな?」
何故だろう。魔族に襲撃された以上のピンチがここに来て到来するとか。
「村にいた時、『つかの間の平穏』とか思った気もしたけど、アレってコレの前振りだったとか?」
「奇遇ね。私も暇だったのよ。襲撃とか特になかったし。だから余った魔力の消費がてら、最近使ってなかった魔法でも使って見るのも良いんじゃないかしらって思ってみたりしたのよね」
「ちょっ、良いから! 使わなくて良いから!」
ただでさえマイの変態要求でいっぱいいっぱいなのに、性別まで変えられてたまるか。
「大丈夫、あなたじゃなくてそっちの娘を男にすることだって――」
「当たり前のように思考を読まないで?! と言うか、それもお断りッ!」
駄目だ、アイリスさんが完全に暴走状態だ。
「こんな時人柱が居てくれたらッ」
わりと下種い事を言っている自覚はあった、だが、気にしていられない程のピンチが迫っており。
「あの……私、性別はともかく『受け』がいいです」
「マイも黙ろうか?!」
何だというのだ、このカオスは。
「お、落ち、落ち着いて! 二人とも冷静に! と言うかここごく普通に宿屋の一室だよ? 他の人達も別の部屋に居たりするし、もし、こんな所を誰かに見られたら……」
って言うか、なんでこんな説明的に話してるんだろう、俺は。
「問題ないわ。性転換させたら私は部屋を出て『二人はお楽しみだから邪魔しちゃ駄目よ』って他の人に言えば良いだけだし」
「アイリスさん?!」
俺が思わず名を叫んだ人はすごく良い笑顔をしていた。
「それなら問題ないですね、ちょっと恥ずかしいですけど」
「マイィ?!」
許容範囲っぽい前世の幼馴染みに振り返りやっぱり叫ぶ。と言うか、こんな状況に置かれたら誰だって叫ぶだろう。
「助けてぇぇぇッ!」
パーティーがSランクになって初めて、俺は恥も外聞もなく助けを呼んだ。
主人公、わかってくれッ!
キーワードの「ボーイズラブ」「ガールズラブ」を嘘にしない為にはしかたが無いんだッ!




