五十五話「そして何事もなく」
「一応の警戒はしてたんだけどさ……」
何事もなくクレインさんは戻ってきて、機動力の差でそれなり遅れて鉱山の町の衛視や宗教関係の人と思わしき神官など様々な職種の人達で構成された団体さんが村へとやって来た。理由は言わずともがなだ。
「しかし、残念でも四天王だよなぁ」
口にしたのは、俺が厄介な敵だと見た謀略の魔王の部下ではなく、和己さんの部下である残念少女の方だ。
「世話をかけたな。この礼は日を改めて必ずさせて貰おう」
アイリスさんの固有技能でかなり消耗していた筈であったのに、クレインさんが戻ってくる前にある程度回復すると俺の伝言を預かってそう一言残し、一足先にこの村を立っていった。
「村人と魔族も預かって貰えるらしいから、後は俺達が出発するだけ、と」
魔族を連れたままアイリスさんと合流する訳にもいかなかったので、クレインさんに託した言伝でその辺りにも触れていた訳だが、アイリスさんは鉱山の町の有力者とかそういうお偉いさんに上手く話をつけてくれたのだろう。
「やっぱりもふもふは最高ですよー」
「にゅーん」
何処かからブレずにモフモフハラスメントする狂戦士とその犠牲者的な勇者様の声がするが、今組んだパーティーではもう平常運転というか呆れる程聞き慣れたやりとりになっている。
「これも宿命か」
とか、その光景を見て中二病めいた台詞をカルマンさんが呟いてる辺りまではもうおなじみで。
「……そうですか」
死霊術師の少女はあの自爆する異形について、召喚される存在だからか、死体は一定時間経つと消滅すると村長に聞いて憮然としていたのが少し印象深かった。多分、アンデッドに出来ないかと考えたのだろうけれど、個人的にアレは味方でも見たくないので、エリザには悪いが、正直少しホッとしていた。
「まぁ、たまにはそういうこともあるしー、エリエリ、ドンマイ」
落ち込むエリザを悪魔使いが慰めつつ肩を軽く叩く姿もあったので、俺の出る幕はなく。
「まぁ、何事もないのはいいこと、かな?」
俺がマイを縛った一件についても露見することなく時間は流れて行く。
「さてと」
回想も止め、出発のための準備を終えれば、あとはこの村を後にするだけだ。
「そして、鉱山の町についたら――」
このパーティーは解散し、アイリスさんと合流。ユウキとも合流を果たせば、ウサギ勇者と供にまた旅立つことになると思う。
「そう、解散しなきゃ」
アイリスさんからの返事に、鉱山の町に戻ってくればいっぱい追放出来るわねとか書いてあったのが癪に触ったとか、きっとそう言う事じゃないと思いたい。協力してくれたみんなを追放し、俺の固有技能を用いた餞別兼お礼を贈るという意味では追放もアリだけれど、手伝って貰った相手を追放するというのは流石に外聞が悪すぎるし、人としてどうかと思うのだ。
「それに、追放はなぁ……」
あれをカウントして良いものか微妙なのだが、実は昨晩マイにリクエストされて二人だけの時にやっていたりするのだ。|パーティーから追放した者へ新たな才能に目覚めさせたり、既に持ちうる能力を強力なモノへと変質させる固有技能がきっちり効果を発揮したみたいなので、固有技能の方はOKと判定を出したみたいなのだが。
「うん、なんでだろう……これに味を占めてマイが毎日求めてくる様になったらとか考えちゃうのは」
毎日強化出来るとしたら、騎乗者の少女がぶっ壊れ性能の冒険者になるのは間違いないと思う。だが、それはやがて実力的に俺を上回って手が付けられなくなることもありうると言うことであり。
「けど、本当に何故……」
前に冗談でもこの固有技能がお仕事をするか検証したこともあるのだが、今回の件でますます謎が深まった気もする。
「まぁ、もし、仮に、そうなったとしても――アイリスさんだけには知られない様にしないと」
からかわれるのが目に見えているというか、もう確定レベルで俺を弄ってくる姿しか、想像出来ない。
「ヘイル殿、そろそろ出発の」
「あ、すみません」
召喚師のレイミルさんに声をかけられ、一瞬の嫌な想像から戻ってきた俺は軽く頭を下げると出発のため整理していた荷物袋を背負い、歩き出す。
「戻ろう、鉱山の町に」
「にゅい」
独り言のつもりだった声にウサギ勇者が応じた。
・別れ行く者への餞別
主人公の固有技能の一つ。パーティーから追放した者へ新たな才能に目覚めさせたり、既に持ちうる能力を強力なモノへと変質させると言うもの。ただし固有技能の効果などを当人が明かしてしまうと技能自体が消えてしまう制約もある。




